東京都の産院で別の赤ちゃんと取り違えられた67歳の男性が起こした裁判で、東京地裁は生みの親の調査を東京都に命じた。男性は産院での取り違えが認められてから20年近く、都に調査協力を訴えていた。実の両親は若くても80代後半とみられ、男性は「一日も早く、探していただきたい」と話す。

取り違え発覚から20年以上…訴え続く

今から20年前の2005年4月、東京地裁前を歩くひと組の親子をフジテレビが取材していた。都立の産院で赤ちゃんを取り違えられた結果、親子となった3人だった。

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乳児取り違えの被害に遭った母親:
悔しい。悔しさ。取り違えられたっていうのがあるから悔しいのよね。

乳児取り違えの被害に遭った父親:
今でも息子は、自分の息子だと信じてますから。

父親の隣に立っていたのが、産院で別の赤ちゃんと取り違えられた当人で、当時46歳の江蔵智さん。

江蔵智さん(当時46):
(生みの親を)探すことに協力していただければ、僕はそれでいいと思っています。

生みの親を探す調査に協力して欲しい。東京都への訴えは、聞き入れられることのないまま20年の月日が経過した。そして19日。

江蔵智さん(67):
今日の判決で、僕が求めることを裁判所で認めていただいたことに感謝いたします。今日のこの結果を母に知らせても、分からないだろうし…

産院の取り違えと、その後の東京都の対応に翻弄され続けた江蔵さんの半生。

都への調査を命じる判決が出た後に、単独取材に応じてくれた江蔵さんは、4月の誕生日で67歳になっている。

江蔵さんは1958年(昭和33年)、東京都墨田区で生まれた。その施設は東京都立の「墨田産院」だが、今はもう存在しない。

記者:
いつぐらいに閉院した?

江蔵智さん(67):
昭和50年くらいだと思うんですけど。49年かな…

墨田区の隣、台東区で育ったという江蔵さん。

母親が作る「肉じゃが」が大好物で、江蔵さんの後に生まれた弟も含め、家族で囲んだ夕食の時間が思い出と語る。

江蔵智さん(67):
父は真面目な方だと思いますね。

記者:
お母さんは? 

江蔵智さん(67):
勝ち気な方ですよね。

実の親子だと疑うことはなかった一方で、江蔵さんはこのようにも話した。

江蔵智さん(67):
周りからは(父と母の)どっちにも似てないねと、親戚から言われたことは何度かあります。

都に生みの親の調査を求めて…

取り違えの疑いが浮上したのは、江蔵さんが既に39歳の時。体調不良の母を病院で診てもらったところ、親子の血液型の矛盾が明らかになった。

その後に行ったDNA検査で、血縁関係がないことが判明、江蔵さんは産院内で別の赤ちゃんと取り違えられていたと考えた。

江蔵智さん(67):
家族で話してそういう結果になりましたね。産院での間違いしかないんじゃないかって。

江蔵さん親子は2004年、墨田産院を運営していた東京都を相手取り、損害賠償を求める訴えを起こした。

2005年の取材では、次のように話していた。

記者:
本当の両親に会いたいですよね。

江蔵智さん(当時46):
はい。(育ての)母親の涙を見たときに、悲しい思い、辛い思いをさせたんだなって感じました。

江蔵さんの育ての母:
46年間分からなかったわけでしょ。余計悔しくて。

血縁関係がないことが判明しても、気丈に接していたという育ての母親。しかし、江蔵さんと2人きりになったときに、お腹を痛めた実の子に会いたいと漏らすこともあったという。

この訴訟では、産院での取り違えを認定、都に賠償を命じる判決が確定した。

一方で、その後も生みの親の調査について、都の協力が得られることはなかった。当時の石原都知事は…

石原都知事(2006年当時):
都が果たすべき責任があったら果たしますよ。しかし、それで取り戻せるものもないと思うし。取り違えられたAとBという方がいらして、BがAになっている場合、相手方の人生がかかってるわけですから。その判断っていうのは私だけじゃできませんね。

江蔵さんは、独力で区役所の住民台帳などを調べたが、有効な情報は得られず、2021年に「生みの親の調査を都に求める裁判」を新たに起こしていた。

江蔵智さん(67):
なぜこんなに時間がたたなければいけないのか。その間10年ほど前ですけど、父が他界し、今、母は認知症を患っていまして、そういったことを自分自身で経験してみると、真実の両親とダブって(重なって)考えてしまって。

そんな中で19日、東京地裁で出された都に調査を命じる判決。都側は「判決内容を踏まえて対応を検討する」とコメントするが、江蔵さんはこう話す。

江蔵智さん(67):
一日も早く、東京都には探していただきたいですよね。

記者:
生みの親に会えたときに言いたいことは?

江蔵智さん(67):
それは会ってみないと何とも。目を見てお話しできればお話しして。

67歳の江蔵さんの実の両親であれば、若くても80代後半。残された時間は限られている。
(「イット!」4月23日放送より)

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