JR仙台駅西口近くの路地に4月12日、長い列ができた。列の先にあったのは「駅前酒場 もつ焼専門 丸昌」。昭和の空気も感じる店構えの居酒屋だ。2022年12月に火事で全焼し、この日、2年4カ月ぶりに復活した。仙台駅前は市内でも有数の飲食店の激戦区。再び同じ場所で復活できたのは、店を愛するファンの熱意と東日本大震災の発生直後に掲げた復興支援の理念があったからだ。

仙台駅前に復活した「丸昌」
仙台駅前に復活した「丸昌」
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復興から始まった店

丸昌の前身となる「復興支援酒場」ができたのは2011年。東日本大震災が発生した直後だ。秋田県秋田市の飲食チェーン、ドリームリンクの村上雅彦社長(62)が被災地の力になろうと、仙台駅前の小さな路地にあったビルにオープンさせた。地産地消と利益全額寄付を掲げ、被災した3県(宮城、岩手、福島)に合計で約1500万円を寄付したという。

前身となった「復興支援酒場」(2011年)
前身となった「復興支援酒場」(2011年)

“せんべろ”の人気店に

その後、店名は「丸昌」となったが、地域に貢献するという店の理念は引き継いだ。地元の食材をリーズナブルに提供し、路地裏で気持ちよく酔える。庶民的な雰囲気は、いわゆる「千円でべろべろに酔える店」=“せんべろ”の名店として知られるようになり、ファンを広げていった。

再開初日は行列ができるにぎわいとなった
再開初日は行列ができるにぎわいとなった

先述した通り、復活した日には多くのファンが駆け付け、列を作った。「復活を待ちわびていた」。並んでいた男性からはそんな声も聞かれた。

火災で全焼 同じ場所で再開へ

丸昌は2022年12月、入居していたビルの火災により全焼した。村上社長は「被災地のために始めたものが、10年過ぎて迷惑をかける形になった。申し訳ない気持ちでいっぱい」と当時を振り返る。

店は全焼 鎮火まで12時間半を要した(2022年12月)
店は全焼 鎮火まで12時間半を要した(2022年12月)

仙台駅前は飲食店の競争も激しい一等地。火事の後、ビル管理会社の元には別の飲食店出店を希望する問い合わせが多数寄せられた。しかし、「仙台のために」というこれまでの取り組みを評価し、管理会社は他の店への貸し出しを断ったという。

地域貢献へ 仙台市に寄付も表明

休業している期間、「丸昌頑張れ」「復興支援酒場忘れてないぞ」という励ましの言葉をもらったという村上社長。同じ場所での再建を決断し、ビル関係者などと打ち合わせを重ねてきた。再オープンを発表した記者会見では、地域貢献策として客1人あたり10円を仙台市に寄付することも表明した。

村上社長は売り上げの一部を仙台市に寄付することを表明
村上社長は売り上げの一部を仙台市に寄付することを表明

「まんま一緒」笑顔も変わらず

迎えた再オープンの日。午後4時の開店に向けて、午前中から仕込み作業が行われていた。店のレイアウトは前とほぼ同じ、低価格でリーズナブルなメニューも同じだ。

以前と同じ100円メニューが並ぶ
以前と同じ100円メニューが並ぶ

開店すると、来店客からは「まんま一緒じゃん!」「一緒なのがうれしい」と喜びの声が上がる。店内には火災前と変わらない笑顔があふれていた。

再開を待ちわびた客で満席に
再開を待ちわびた客で満席に

開店前からできた行列に驚いていた村上社長は「これから恩返しをしなくちゃいけない」と気持ちを引き締めていた。店の営業を通じて、お金を回し、笑顔も回していく。そういう店を目指していくという。再び明かりがともった仙台駅前の“せんべろ”の名店。仙台の街を盛り上げていく店の一つになってくれるはずだ。

再オープンした丸昌 仙台駅西口にある
再オープンした丸昌 仙台駅西口にある
仙台放送
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