帝国データバンクによると2025年4月に値上げされる食品は4225品目に上るなど、物価高騰が止まらない。この波は酪農業にも押し寄せていて、生産者が頭を抱えている。

飼料高騰に原油高が追い打ち…

夜明けと同時に家族総出で牛の搾乳に向き合う静岡県富士宮市の土井ファーム。

搾乳する人(土井ファーム・富士宮市)
搾乳する人(土井ファーム・富士宮市)
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約100頭の牛を飼育しているが、土井智子さんは昨今の物価高騰により飼料代が高止まりしていると嘆く。

聞けばコロナ禍で輸入が一度止まったかと思えば、その後は円安やロシアによるウクライナ侵攻に伴う穀物不足で飼料代は以前の倍くらいに跳ね上がっているそうだ。

土井ファーム(富士宮市)
土井ファーム(富士宮市)

さらに原油高も追い打ちをかける一方、生乳の買取価格は思うように上がらず経営はひっ迫。

今期は赤字となる見通しとなっていて、土井さんは「すべての物が値上がりしている中、牛乳だけ値上がりしないのはおかしい。牛乳だけ取り残されている」と肩を落とす。

このため、2月19日には厳しい経営環境を改善すべく、土井さんの発案により同じ思いを抱く酪農家が集まり会議を開いた。

酪農家の会議(2月19日御殿場市)
酪農家の会議(2月19日御殿場市)

参加者からは「大きい機械で効率よくできれば良いが、資金的な問題から自分ひとりで草地の管理をしていて、なかなか手が届かないことが多々ある」「毎日畑に向かって、エサを作って、牛にあげて、いくら残るっていう話」など窮状を訴える声が止まらず、今後は県や国への陳情を検討しているという。

牛乳嫌いの子供たちから新たな需要獲得?

一方、新たな取り組みで勝機を見出そうとしているのが富士丸西牧場の佐々木剛さんだ。

2025年から“お腹がゴロゴロ”しにくいと言われるA2ミルクの生産・販売を始めた。

佐々木さんは毎年、小学校を回り牛乳に関する講座を受け持っているが、思っていた以上に牛乳を飲めない児童が多く、「もしかしたらお腹のゴロゴロが原因かもしれず、そこを改善してあげて、飲める子供が増えてくれたら」と思ったことがきっかけだと話す。

東京農業大学の庫本高志 教授によると、A2ミルクは従来の牛乳とタンパク質の配列が異なることから腹痛などを催す乳糖不耐症を緩和すると言われる一方、味に違いはない。

富士丸西牧場(富士宮市)
富士丸西牧場(富士宮市)

ただ、タンパク質の配列は遺伝によって決まるため、牛の検査に時間や費用がかかるほか、絞った生乳は通常とは別のタンクで保管しなければならないため現状では採算が取れていない。

それでも「牛乳が苦手な人に飲んでもらいたいという気持ちが強く(収益は)何とかなるのではないか。確かにコストはかかっているが、いずれどうにかなると思う」と笑う。

富士丸西牧場(富士宮市)
富士丸西牧場(富士宮市)

牛乳が好きな人に今以上の消費を望むのではなく、牛乳を嫌う子供たちを減らすことで需要を拡大させ、新たな収益の柱にしようとする佐々木さんの取り組みがいつの日か花開くのか注目されている。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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