岡山大学病院の医師らが開発した災害時などに聴覚障害者の命を守るアプリが完成し、一般の人向けのダウンロードが始まりました。

(岡山大学 那須保友学長)
「ろう者や難聴者向けの緊急通知音振動変換アプリ、誰一人取り残されない社会をつくる、それを実際に社会実装していくことに力を入れている」

岡山大学で行われた記者会見で、那須保友学長が発表したアプリ。聴覚障害者に音の情報を画像と振動で伝える、「D-HELO(ディーヒーロー)」です。

(岡山大学病院聴覚支援センター 片岡祐子准教授)
「目指す未来は、誰もが安心して暮らせる社会、こういったテクノロジーによって障害や疾患がある人にも役立てていける、情報バリアがなく暮らせるようなユニバーサルデザインになったらいい」

岡山大学病院耳鼻咽喉科の医師、片岡祐子さんや、大手電機メーカーの富士通、ソフトウェアを手掛ける情報技術開発が連携し、3年かけて開発しました。

(竹下美保記者)
「腕に付けた端末で救急車などの緊急車両の音を感知すると、画像が救急車に代わり、振動とともに何の音が聞こえているのかを知らせてくれます」

開発のきっかけとなったのは、75年前に起きた火災です。1950年、岡山の盲学校とろう学校の寄宿舎が全焼。盲学校の子供たちは全員無事でしたが、音が聞こえないろう学校の子供たち16人が亡くなりました。

(岡山大学病院聴覚支援センター 片岡祐子准教授)
「今もその状況が変わっていなくて、災害の時に困っている人がたくさんいるという事実があるから、何か次の一手を担っていけたら」

東京と岡山を何度も往復し、アプリの試作を重ねてきた片岡さん。聴覚障害者の協力を得て、岡山県や岩手県で実証実験も実施しました。

(実証実験の様子)
・・救急車の音「これが震えた?」「ちゃんと振動しているので大丈夫」

2024年の秋には、東京で開催された科学のイベント「サイエンスアゴラ」にも参加し、開発中のアプリについて、一般の人たちから直接意見を聞くこともできました。

(参加者は…)
「振動があるのはすごくいいと思う。もう少し強く振動してくれるとうれしい」
「ミラー越しに救急車を見つけて徐行したという経験がある、このアプリがあればみんなと同じタイミングできちんと徐行ができるし、便利なアプリ」

(岡山大学病院聴覚支援センター 片岡祐子准教授)
「皆さんからのいろんなアイデア、私たちにとっても気付きとなった。多くの人と一緒に社会を作っていく。ものと一緒に社会を育てていく方向に向かえたらいい」

災害時に情報を得るのに困った経験がある聴覚障害者は7割を超えるといいます。

片岡さんたちは開発にかけた3年間、誰もが安心して暮らせる社会の実現を目指してきました。アプリのダウンロードは、3月27日から始まっていて、無料で利用できるということです。

(情報技術開発 日吉顕太さん)
「ここがスタート地点。ここからどう皆さんに使ってもらい、改良していくかが大事。引き続きアプリの改良を頑張っていく」

(富士通Ontennaプロジェクトリーダー 本多達也さん)
「当事者以外の人もダウンロードしてもらって、自分だったらどう使えるか考えてもらえるきっかけになったらいい」

開発されたアプリは聴覚障害者だけでなく、高齢に伴い起こる「聞こえ」の問題にも対応できると期待されています。片岡さんたち開発チームは、今後、火災報知器や緊急地震速報など認識できる音の情報を増やすなど、改良を進めていくことにしています。

岡山放送
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