新たな“トランプショック”が世界中を揺るがしている。

5日、トランプ大統領が全世界に課した一律10%の相互関税措置が発動した。ウォールストリート・ジャーナルによると、失われた株式の時価総額は2日間で約970兆円に上るという。
しかし、その混乱をよそにトランプ大統領は「今後、我が国は好景気に沸くだろう」と余裕の様子。一体何を考えているのか?

ヒントとなるのが、今アメリカで注目を集めている1本の論文。専門家たちも「私たちが信じてきたものが崩壊するかもしれないような提案をしている論文」「(論文で)書かれているようなことがこれから起こっていく」と評価する。トランプ大統領の青写真とは――。
“トランプ関税”日本でもすでに影響が…
アメリカ・ニューヨークのスーパーマーケット「Zabar's」には世界各地から輸入された商品が並ぶ。価格を見ると、卵1パックが日本円で約1600円。インフレが続くアメリカでは、ジャム1瓶が約1500円、ブロッコリー1房が約600円など様々な商品がすでに高騰している。

Zabar's統括部長 スコット・ゴールドシャイン氏:
トランプ関税で、すべての商品が5%~20%値上がりするのは避けられない。値上がりしたら、その商品が流通しなくなるかもしれない。良い商品の市場がなくなってしまうのではと恐れています。
消費者からも悲鳴や不満があがる。
買い物客:
今の値段から上がるのよ。どうしようかしら、断食するの!?
買い物客:
トランプ関税はばかげている。アメリカの助けになるんだとトランプ大統領は言っているけど、実際は助けになんかなっていない。

トランプ大統領が発表した全世界への相互関税。5日、その第1弾として一律で10%の関税が発動された。さらに9日には、貿易相手国の関税率などに応じて個別に定められた相互関税が上乗せされる。
すでにその影響は日本でも。日本株に投資している男性は、約558万円の含み損。
日本株に投資している男性:
これがマイナス。
ディレクター:
一、十、百、千、万…500万円以上!?
NISAで投資する人たちからも「(NISAを)2年前からやっているんですけど、いま結局プラスマイナスゼロ」「(株が)数百万ぐらいは一番高いところから下がった」といった声が聞かれた。
「貿易赤字を減らす」「アメリカ製造業の復活」
世界的に株価が暴落し広がる混乱。それはアメリカも例外ではないが、一体、全世界に前代未聞の関税を課すトランプ大統領の狙いは何なのか?東京大学大学院経済学研究科の古澤泰治教授に話を聞いた。
東京大学大学院経済学研究科 古澤泰治教授:
トランプ大統領の行動は彼なりの目的がある。一つは、スティーブン・ミランという方が書いた「国際貿易システム再構築のためのユーザーガイド」というのがあるんですね。

今、アメリカ経済界で注目されているという「国際貿易システム再構築のためのユーザーガイド」という論文。書いたのは、トランプ政権で経済政策への助言や立案などを行う大統領経済諮問委員会のトップ、スティーブン・ミラン委員長だ。

東京大学大学院経済学研究科 古澤泰治教授:
スティーブン・ミランさんの考え方というのは、トランプ大統領の経済政策の考え方と非常に近い。ここ(論文)で書かれているような事がこれから起こっていくというふうに考えられる。
論文から読み取れるという、トランプ大統領が描く“青写真”。そこには、何が書かれているのか?
東京大学大学院経済学研究科 古澤泰治教授:
要するにこれ二つ書いてあって、関税を上げることによって貿易赤字を減らすというのは一つ。
経済大国アメリカは、長年、世界中から多くの物を輸入する一方、輸出は少なく、貿易赤字が続いてきた。そこで、高い関税をかけると、アメリカ国内での価格が上がり売れなくなるため、アメリカに物を売ろうという企業が減る。結果、アメリカにとって輸入量が減り、貿易赤字が改善される。
そこには、もう一つの大きな目的があった。
東京大学大学院経済学研究科 古澤泰治教授:
アメリカの製造業の復活。アメリカの製造業が弱くなったのはやはり輸入品がいっぱい入ってきてからだと。それは関税を課すということによって防ぐこともできるし。実際“トランプ関税”ということで実施されようとしています。
これまで輸入する物が多く、アメリカ国内で物を作る製造業が衰退。そこで、高い関税をかけて輸入量を減らすことで製造業を復活させる。これが今、トランプ大統領が進めていることだ。
トランプ大統領は2日に相互関税を発表した際にも「私たちは国内の産業基盤を強化する。アメリカでの生産が増えることでより競争力をつけ、消費者への価格が下がる」と発言していた。
世界各国と「通貨協定」結び「ドル安」に
だが、これで終わりではない。論文には、アメリカがもうかるためのさらなる“青写真”があった。
東京大学大学院経済学研究科 古澤泰治教授:
もう一つは「通貨協定」を結んで「ドル安」の方向に進める。そういうことも必要だというふうにこの論文では言ってます。
世界各国と「通貨協定」を結び、「ドル安」に進める。これはどういうことなのか?

そもそも「ドル安」とはドルの価値が低いことで、1ドル200円より100円の方が「ドル安」となる。例えば、同じアメリカの車を海外で売る場合、ドル安の方がその国での価格が安くなるため売れやすい。つまり、アメリカ国内の製造業にとってドル安の方が輸出でもうかるとされるのだ。どのようにドル安にするのかというと、その方法が「通貨協定」だ。
東京大学大学院経済学研究科 古澤泰治教授:
協定が必要で、主要国の中で合意をしてドル安に導いていくということです。
アメリカと各国が協議し、ドル安になるように調整をするという。しかし、アメリカがもうかるドル安に各国が同意することはまずありえない。そこで、論文には常識を覆す一手が書かれていた。

「『防衛の傘』に入りたい国は『公正な貿易の傘』にも入らなければならない」
アメリカの政権で40年間、国際金融を担当したマーク・ソベル氏はその意味をこう語る。

元アメリカ財務省国際金融担当官 公的通貨金融機関フォーラム議長 マーク・ソベル氏:
アメリカは協力しない国には関税を課したり、安全保障の撤廃を行う可能性があるということです。
つまり、「ドル安」に応じなければ、高い関税をかけ続ける。または、安全保障をやめるとして、各国に合意を求めるプランがあるというのだ。
「日本・イギリス、そしてカナダやメキシコは従順かもしれない」
「貿易相手国が関税の引き下げと引き換えに何らかの通貨協定を受け入れるようになることは、想像しやすい」
もし、この論文にある全ての青写真が実現すれば、貿易赤字が解消され、しかも、アメリカ国内はドル安も後押しして製造業が復活する。まさに、論文のタイトル通り、国際貿易でアメリカがもうかる構造へ再構築がなされるということだ。
元アメリカ財務省国際金融担当官 公的通貨金融機関フォーラム議長 マーク・ソベル氏:
日本経済は打撃を受けるでしょう。日本国内で、アメリカに対する不信感が生まれる可能性があります。

東京大学大学院経済学研究科 古澤泰治教授:
この論文のシナリオ通りに進んだとして日本にとって最悪のシナリオは、日本が何も対処しなければ、関税率はもっと上がるかもしれない。安全保障上でアメリカに日本は頼っているが、同盟関係にもひびが入りかねない。
しかし、論文のプランが実現する可能性について、経済の専門家たちは実現への懐疑的な声をあげる。

経済アナリスト 馬渕磨理子氏:
(各国の)皆さんが言うことを聞くか分からない。ここはまだ分からないステージかなと。

東京大学大学院経済学研究科 古澤泰治教授:
関税の引き上げや通貨協定はパートナー国と一緒にやっていくことが重要。関税をこれだけ一方的に課されて(一方で)通貨協定も一緒になろうなんていうのは、やっぱりちょっとなかなか難しいとは思いますよね。
「相互関税」の発動へ動き出したトランプ大領領。その先に待っているのは…。

トランプ大統領:
関税は我々に交渉の偉大な力を与える。あらゆる国が我々に接触してきている。
(「Mr.サンデー」4月6日放送より)