(3)「傷つきました」と言われても持論を曲げない
若手のなかには、強く注意するとすぐに「傷つきました」「辞めたいです」などと、へそを曲げる人もいます。しかし「絶対に守ってほしい」ポイントを事前に伝えていたのですから、持論を曲げず、虎の尾は虎の尾として持ち続けてください。
共感を呼んだYさんの若手への思い
先ほどの幹部Yさんには当時、小学生の娘さんがいました。のんびりした子で、何をやっても時間ギリギリになっていたそうです。
「私は、子どもの教育も、部下の指導もあまり変わりがないと思っているんです。要は、外に出たときに恥ずかしくない人間になってほしいということ。部下には、社内ではなく、社外に出たときに通用する人間になってほしいと考えているんです」

この考え方が、若手の共感を呼ぶようです。Yさんは、社内で出世する人材よりも、どこの会社でも通用する人材を育てるほうが大切だと思ってきたと言います。
「だから、時間を守るとか、服装とか、会話のマナーとか、人としての基本的なところにうるさくなってしまうんですよ」と笑う姿を見て、「社会に通用する人間」を育てる気概が伝わってきました。
上司の思いを若手へ宣言する
親が子どもを育てるという視点に立てば、「やんわりとしか指導できない」なんて甘っちょろいことは言っていられません。
まず若手に、「私はあなたを、この会社の中だけでなく、外に出ても立派に通用する人間になってほしいと思っている」と宣言をする。
若手が気にしている「同級生はもっとスキルを身につけているのではないか」とか「ネットを見ると、同じ年でキラキラしている人がいて焦る」といった気持ちに応え、「私が指導するのは、社外に出たときに役立つことだ」と分かってもらう。
ミドル世代と若手が共通の目的意識を持てば、当たり障りのない指導から脱却できるのではないでしょうか。
やんわりとした指導は、法律が改正されるばかりで現場では会社の若手教育の方向が定まらないのが大きな原因です。あなたのせいではありません。
こういう時期だからこそ、「会社」ではなく「社会」という単位で、1人の人間を育てる気持ちで若手に向かっていってほしい。そういうリーダーを、人生の先輩を、若手も求めているはずです。

ひきたよしあき
コミュニケーションコンサルタント。大阪芸術大学放送学科客員教授、早稲田大学招聘講師。(株)SmileWords代表取締役。スピーチライター。『5日間で言葉が「思いつかない」「まとまらない」「伝わらない」がなくなる本』(大和出版)、『人を追いつめる話し方 心をラクにする話し方』(日経BP)など著書多数。世代や職種を超えて、自分と相手を笑顔にするコミュニケーションの重要性を日本全国に伝えている。