札幌市に住むこちらの姉妹は、日常的に介護が必要な「医療的ケア児」。
両親は、この姉妹のように障害のある人も利用できる施設を建設中で、施設はまもなく完成する予定だ。
わずかに動かせる左手で―「ウミガメの絵」で銀賞
子どもたちが描いた1400枚あまりの絵が3月、JR札幌駅のコンコースに掲示された。
悠然と泳ぐウミガメ。
クレヨンを何度も塗り重ね、削った割りばしで線を丁寧に描いた。

「小学校高学年の部、銀賞 運上実來さん。おめでとう」(主催者)
ウミガメの絵は小学校高学年の部で銀賞を受賞。
札幌市の小学校5年生、運上実來さん(11)が色を選び、わずかに動かせる左手で仕上げた。

「よかったね、おめでとう」(母親 運上佳江さん)
「ここ何色に塗るの?この色?この色?1回も『うん』と言わなかった。『塗らないの?』と言ったら『塗らない』と。塗らないことによって、上から光が入ってくる感じを表現できた」(実來さんの担任 作田 幸代 先生)

日常的に介護が必要な”医療的ケア児”の姉妹
実來さんの姉は16歳の愛夕さん。
2人は「Vici(ヴィシ)症候群」という遺伝性の疾患で、日常的に介護が必要な医療的ケア児だ。
両親は夜中に2回ほど起きて介護をしているが、日中は医療スタッフが来てくれる。
「背中側に空気入れてあげるよ」(医療スタッフ)

「Vici(ヴィシ)症候群」は日本では10人余りしか報告例がなく、有効な治療法はまだ見つかっていない。
妹の莉愛ちゃんは5歳。保育所に通っている。
「何時にお姉ちゃん、テレビに出るんですか?」(妹・莉愛ちゃん)
大好きなお姉ちゃんの体をいつも触ってしまう。

4姉妹の一番下は、莉來ちゃん(3)。
きょうの夕食はハンバーグと焼きザケだ。
しかし、実來さんと愛夕さんはこのままでは食べられない。
父親の昌洋さんと母親の佳江さんは2人が食べられるように、いつも同じ食事をペースト状にしている。

2人はお腹に穴を開け、胃に直接食べ物を入れる「胃ろう」で栄養を取っている。
「この子たちにとって母親らしいことというか、私の子育ての一つに家族みんなで作った手料理をミキサーにかけて注入したいという気持ちがある」(佳江さん)
昌洋さんと佳江さんが4年がかりで計画したものがある。

4年がかりで計画 “医療的ケア児”の居場所を―
医療的ケア児が宿泊できるショートステイの施設を、石狩市につくる計画だ。
「娘たちがしっかりと地域で生きていけるということが、私たちの目指す目標」(昌洋さん)
「娘たちの居場所がないということで、2017年よりこの事業を開始しています」(佳江さん)
施設の名前は「あいのカタチ」に決めた。
一般の人も利用できるクリニックを併設し、障害のあるなしに関わらず利用できる施設だ。

完成は4月末を予定している。
「これ、うちの2番目(の娘)です」(佳江さん)
2025年1月、施設のことを紹介するイベントを札幌市で開いた。

会場では実來さんが作ったグッズも販売された。
「ありがとう。うれしい」(佳江さん)

姉・愛夕さんが初めての“講演”
実來さんが絵を描いたりグッズを作ったりしている一方、姉の愛夕さんは講演を依頼された。
愛夕さんが講演するのはこれが初めてだ。
「私は娘の生涯については、こんな重い障害じゃなかったら、この娘の病気は私の遺伝子疾患のせいなので、じゃなかったら良かったなって思う日はいっぱいあります。毎日そう思っている。目が覚めて愛夕が『母さん、もう元気だし、治ったよ」っていう夢を見る日がやっぱり今でもあります。だけど私は一度も娘のことを嫌だとか、嫌いだとか思ったことはない。この子を育てて全く後悔はない。だけどこんな思い障害や病気がなかったら良かったと思う、障害や病気を受け入れられない自分がいることをみんなには知ってもらいたい。だけど娘のことは本当に大好きなんだということをみんなに知ってもらいたいなあって思っています」(佳江さん)

最後に、愛夕さんの書いた手紙が読まれた。
「来てくれたみんなへ。また、会おうね。父と母ががんばっているので、みなさんよろしくお願いします」(司会者代読)
「父と母はがんばっている」愛夕さんは初めての講演で、いつも思っていることを聞いてもらうことができた。
愛夕さんの目には、一粒の大きな涙が光っていた。
