全国から集まった若者たち 離島に誕生した愛媛県内2つ目の社会人野球チーム

瀬戸内海に浮かぶ愛媛県上島町のグランドで汗を流す選手たち。彼らは2024年度に創設されたばかりのイワキテック野球部だ。

イワキテック野球部は、松山フェニックスに次ぐ愛媛県内2つ目の社会人野球チームとして上島町に誕生し、今シーズンから社会人野球に参戦する。

メンバーは独立リーグ経験選手や甲子園出場選手など、東北から九州まで全国各地から集まった。

イワキテック硬式野球部のメンバー
イワキテック硬式野球部のメンバー
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野球をするために島に集まった選手たち

昨シーズンまで九州独立リーグ・宮崎サンシャインズに所属していた石川智規投手(東京出身)は、「新しいチームということでどんな未来が待っているかわからなかったが、自分が歴史を作るその一役を担えるのはワクワクできる」とチーム参加の意気込みを語る。

九州独立リーグからきた石川智規投手
九州独立リーグからきた石川智規投手

野球と仕事の両立 造船関連工場で働く選手たち

彼ら野球部メンバーは、全員が愛媛県上島町岩城にある造船関連会社「イワキテック」の社員だ。野球をするためにこの島にやってきた。

彼らが働いている工場では船や桟橋などの鉄製の大型部品を作っている。

作業着を着て溶接作業にあたるのは、ヘルメット姿の神崎翔海内野手(山口出身)。「主に板と板をくっつけてそれを溶接でとめるという作業をやっています」となれない作業に向き合う。

日中はイワキテックの工場で勤務
日中はイワキテックの工場で勤務

初めての溶接作業に特訓中

松田光記内野手(宮崎出身)はまだ溶接の特訓中だ。「溶接を溶かして剥がす練習をやっています」「(慣れてきましたか?)まだ全然。初めてのことばかりなので。これから頑張ろうかなという感じ」

造船関連の工場で働くのはみんな初めてだが、職場の先輩たちは野球部員の入社で職場が元気になったという。

先輩社員は「野球も仕事も一生懸命やってくれて、若いので覚えるスピードも早いので教え甲斐があります」と話す。また別の先輩社員は「やっぱり野球部というのもあって、毎日挨拶しっかりできて、元気にやってくれています」と野球部員の入社で工場が活気づいたと語る。

溶接特訓中の野球部員
溶接特訓中の野球部員

会社、地域から愛される野球部に

野球部キャプテンの吉尾竜一捕手(広島出身)は「野球部のコンセプトとしてみんなから愛されるチームを目標にしてやっているので、まずは会社の人たちから応援される人間、チームにならないといけないと思っているので基本である挨拶は絶対にやろうとチームで徹底しています」と語る。

イワキテック野球部の吉尾竜一キャプテン
イワキテック野球部の吉尾竜一キャプテン

野球部創設で20人の選手が島に移住

島の会社がなぜ野球のクラブチームを作ったのか?

イワキテックの岩城本社工場で働く約300人の従業員のうち4割は海外実習生などの外国人である。会社では長く働いてくれる若い人材確保が長年の課題で、専従の採用チームを作って取り組んだものの、新卒採用は3年間で11人にとどまっていた。

それが2024年度、野球部の発足で、一気に20人の野球部員が入社したのである。

イワキテック硬式野球部
イワキテック硬式野球部

野球部創設の理由は「若い人材確保の切り札」

この狙いについてイワキテックの山本一郎社長はこう語る。「離島で工場経営をしている会社なので、今後の島の少子高齢化を見据え、若い人材が集まる可能性がある野球部を創設しました。高校、大学と野球をされてた方が仕事をしながらでも野球をしたいとこちらに来ていただいています。予想以上の効果で本当にやってよかったと思ってます」

野球部創設の理由を語るイワキテックの山本一郎社長
野球部創設の理由を語るイワキテックの山本一郎社長

社会人で硬式野球を続けられる環境は多くない

高校や大学を卒業して本格的に硬式野球を続ける環境は、実は多くはない。「働きながら好きな硬式野球を続けられる」これが選手が島を選んだ唯一の理由だ。

会社にとっても大きな挑戦だ。硬式野球チームの運営には、練習設備や宿舎の整備など会社の費用支出は決して少なくないが、工場の若い人材確保には代えられない決断だった。

練習するイワキテック野球部
練習するイワキテック野球部

野球が島の子どもたちに笑顔を届ける

野球部のメンバーは、日中は他の社員と同じように仕事をするが、水曜日の午後だけは野球部の活動にあてている。

この日訪れたのは地元の岩城小学校。島の野球部に子どもたちも大はしゃぎである。

松田光記内野手(宮崎出身)は「子どもたちは可愛くて癒されます」と、楽しそうに子どもたちと触れ合う。
塩田竜大投手(岡山出身)は、「(子どもは)元気ですね。こっちまでパワー貰います」と笑顔が止まらない。

岩城小学校での交流
岩城小学校での交流

SNSでも野球部の活動を発信

小学生との交流の様子をスマホで撮影する前田恵史コーチ(福岡出身)。少しでも野球部を知ってもらおうと、日頃の活動や選手紹介を積極的にSNSにアップして、フットワーク軽くチームをPRしている。

イワキテック野球部のSNS
イワキテック野球部のSNS

恵まれた練習環境で目指すは都市対抗出場

このあと選手たちは岩城橋を渡ってすぐ隣の生名島のグランドへ向かう。上島町は以前から野球が盛んな地域で照明施設も備えた立派なグランドがある。しかも工場から車で5分という恵まれた練習環境だ。

選手全員が合流したのは今年2月。
中にはこの春、高校や大学を卒業するという入社前の選手もいるが、3月の公式戦デビューを控えようやくチーム練習が始まった。
目指すのは東京ドームでの都市対抗野球出場だ。

練習に励むイワキテック野球部
練習に励むイワキテック野球部

全国から島に集まった選手の主力は

香川・多度津高校を卒業したばかりの片山怜唯選手。パワーが魅力の18歳だ。「夢はプロ野球選手になることです」と語る。

ピッチャーの中心、加藤翔太投手(広島出身)は「(島には)色んな誘惑もないですし、ご飯に行く、遊びに行く時間を削って野球に当てられるのは僕にとって良い環境だと思います」と島で野球に打ち込む覚悟だ。

そしてチームを引っ張るキャプテン、吉尾竜一捕手(広島出身)は「これだけ良いグラウンドをほぼ専用的に使えるチームはなかなかないと思うんで、そこはイワキテックの強みだと思います」と語る。

香川出身高卒ルーキー 片山怜唯選手
香川出身高卒ルーキー 片山怜唯選手

野球部員は夜は島の飲食店に集う

独身生活をしている野球部のメンバーは夜は島の店に集まる。

野球部が集まる島の飲食店「ミスティ―亀井」の亀井千恵さんは、「みんな親しみやすくて可愛いですね」と親しみを持って選手たちに接する。

毎日通うというキャプテンの吉尾竜一捕手は、「(ミスティー亀井は)なくてはならない存在ですね」「ご飯もめちゃくちゃ出してくれるし、野球部盛りみたいな」と話す。

選手が集う島の飲食店
選手が集う島の飲食店

島に彼女を連れてきた選手も

千葉から来た坂本直弥選手は、県外から彼女を連れて岩城島に移住した。今月8日の会社のイベントで、坂本選手はサプライズでプロポーズし、その後めでたく2人は島で入籍した。野球部創設が島に若い女性まで呼び込むという地域にとっても驚きの展開になった。

島で入籍した坂本直弥外野手(千葉出身)は、「海とか近いので海も山もあればいろいろできることがあるので、都会ではできない楽しみを彼女にさせてあげたい」と島での新婚生活を楽しみに語る。

プロポーズする坂本直弥選手
プロポーズする坂本直弥選手

若者定住を続けるには 島の企業の挑戦は続く

「野球のクラブチームで若者を呼び込む」という離島の会社の挑戦。20人の野球部員入社という予想以上の成果の先に今後の課題も見据えている。

イワキテックの山本一郎社長は、「将来彼らが選手としてリタイアしたあと、いかに当社にまた上島町に定着していただくか。若いパワーで島を盛り上げていければと思います」と語る。

小さな島に野球を通じで集まった若者たち。彼らの存在は島に活気を与えている。人口減少に悩む地域や企業の新しい挑戦が始まる。

今後の課題を語るイワキテックの山本一郎社長
今後の課題を語るイワキテックの山本一郎社長
テレビ愛媛
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