東海テレビニュースONEでは、シリーズで「SNSな人々」をお伝えします。いまや“社会そのもの”といっていいほど私達をとりまいているSNS。そんな時代を「うまく生きる」ヒントをさまざまな人の声から探ります。

選挙でのSNSの活用が進んでいるが、2024年11月に行われた名古屋市長選挙に関連する膨大な投稿を独自に分析し、選挙にどんな影響があったのか検証した。

■進むSNSの選挙への影響 2024年の名古屋市長選を分析

2024年11月、広沢一郎さんが当選した名古屋市長選挙では、期間中にそれぞれの陣営のSNSの活用が注目された。

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主要政党の推薦を受けながらまさかの大差での落選となった大塚耕平さんは、敗因にSNSの“デマ”を挙げた。

名古屋市長選で敗れた大塚耕平さん:(選挙当日)
デマ・誹謗中傷・レッテル張りの影響というのも一定程度あったと思います。

都知事選の「石丸旋風」に、兵庫県の斎藤知事の再選など、SNSの影響の大きさが現れる選挙が続いているが、名古屋市長選はどれほど「SNS選挙」だったと言えるのか。データの分析と、関係者への取材で独自に検証を試みた。

協力を依頼したのは、独自の世論調査や選挙のデータ分析をしている「JX通信社」の代表取締役、米重克洋さんだ。

米重さんとともに、SNS上での名古屋市長選にまつわる投稿をピックアップし、専用のツールで調べるとともに、実際の選挙に与えた影響を分析した。

■名古屋市長選 SNSの熱は

【広沢一郎さん 選挙当時のYouTube配信】
SNSを、私のネタであふれ返らせるくらいにしていただけるとありがたい

【大塚耕平さん 選挙当時のXの投稿】
大塚の配信を是非広げていただけると幸いです。切り抜きも歓迎です。

それぞれの陣営が支持者にSNSの投稿を呼びかけ、候補者名やキャッチコピーの拡散を狙うのは、いまや選挙のお決まりの光景だ。

名古屋市長選では実際どんな投稿が、どれほどされていたのか。

「名古屋市長選」という単語の、Xの投稿数の推移を見ると選挙期間の後半につれて増え、合計はおよそ38万件だった。

単純に比較はできないが、同じ2024年11月の「兵庫県知事選」と、人口や選挙期間の違いを加味して比べるとおよそ半分だった。“熱狂的”とまでは言えなくても、一定の盛り上がりがあったといえる。

投稿されたキーワードについても分析した。

JX通信社の米重克洋さん:
圧倒的に「#たかしからイチロー」「#広沢一郎」「#名古屋市長は広沢一郎」といった形で、広沢さんを応援するような趣旨のハッシュタグのほうが圧倒的に目立つ。一方で大塚さんに関しては大塚さんの名前や「#3つの負担金ゼロ」とか「#アップデート名古屋」とか、あるにはあるんですけれども、(大塚さん側は)広沢さんを応援するハッシュタグと比べると影が薄い。

注目したのはSNSでそれぞれの陣営が拡散させようとしたキーワードだ。文字が大きいものが数多く投稿されたものだが、河村市政の継承を印象付けた「たかしからイチロー」などに比べて大塚さん陣営の「アップデート名古屋」などは、広がりが限定的だったことがわかる。

JX通信社の米重克洋さん:
「想定インプレッション」というどれくらい見られているのかという数においても、4倍くらいの開きがある。圧倒的に広沢さんの主張の方が、SNS上では広く拡散されていることは事実なのかなと。市民税減税とか「こういうものをしっかり受け継いでいく立場です」ということが陣営の主張の一番の部分だったと思いますので、それを支持層の方が一生懸命SNS上でもアピールした結果、このような分析ができるのかなと思います。

■“増税”レッテル貼り?実態は

【大塚さんの当時のXの投稿】
増税派ではありません。元祖減税派です。

大塚さん:(当時の街頭演説)
正直な政治と、真反対のデマや誹謗中傷に直面しています。

ネットでも街頭でも「増税派ではない」と連呼した大塚さん。SNSで実態とは違う“決めつけ”や“デマ”あると、選挙中はその打ち消しに追われ、敗因の一つにも挙げた。

大塚さん:(選挙当日)
それだけデマが浸透していたということですからある意味、選挙妨害に近い行為なので、この辺をどういうふうに対応していくかというのは政治全体の課題だと思いますね。

大塚さんが市民税減税に否定的な既成政党の推薦を受けたのは、事実ではあるが、この「増税派批判」は選挙結果にどれだけ影響したのか。

Xの投稿を分析すると、大塚さんと「増税」を組み合わせた投稿は、選挙戦の後半に増え、投票日の3日前にはおよそ1万4000件あった。

しかし例えば、広沢さんと「減税」を組み合わせた投稿は、選挙期間を通じてその4倍以上で「増税派批判」の投稿の広がりは限定的だった。

JX通信社の米重克洋さん:
データでみると選挙戦のかなり後半に集中していますが、広沢さんはその前から圧倒的に優勢でしたし、広沢さん自体を単純に応援するという投稿が非常に前半から多かったということが、データから見える事実です。広沢さんを応援したいという人の量が多かった。「増税対減税」みたいな話がSNS上で広がったあとも、選挙全体の情勢にはあまり影響していないのではないか。

東海テレビなどが期日前投票所で実施した出口調査をみても「大塚さんは増税派」という投稿が広がる前から広沢さんが一貫してリードを保っていた。

■陣営の“SNS戦略”は

候補者の陣営は「SNS選挙」をどう捉え、どんな戦略を立てていたのか。広沢陣営でSNSの運用を担当していたのが、河村前市長の特別秘書を務めた田中克和さんだ。

広沢陣営でSNSの運用を担当した田中克和さん:
移動中はもちろんずっと、広沢さんの陣営、大塚候補の陣営どういう反応があるのかなとかをチェック。やっぱり演説でしゃべった動画を定期的にXにあげていましたので、反応がよかったと思えばその言葉をより多く使うようになりましたし、逆に例えば減税をしたことで名古屋の経済力が落ちたんじゃないかですとか、そういうような反論投稿とかもありましたので、そういうことに関しては数字でちゃんと名古屋は成長をしていますよとか、あえて演説内容を変えたりとか、投稿内容を変えたりとか双方向でやってきたと思っています。

訴えの発信以上に力を入れたというのが、ネット上の反応のチェックだった。「ネット世論」の反応がよい内容を、実際の街頭演説に盛り込むなど、リアルの活動にフィードバックしたことが効果的だったのではないかと振り返る。

また、「軌道修正」をしていたことも明かしてくれた。

広沢陣営でSNSの運用を担当した田中克和さん:
もちろん日本保守党も大事にしながらも、減税日本を中心にした訴求をさせていただこうとかですね、そういうような判断も実はネット選挙を通してさせていただいた。

広沢さんを推薦した日本保守党は、百田尚樹代表はネット上でとくに支持者の多い“大物”だが、市長選の告示直前に女性への差別的な発言で炎上した。

広沢陣営は急遽、街頭でもSNSでも「保守党色」を弱めたが、当初の見込み通り百田代表らが本格参戦していたら、より「SNS選挙化」が加速していた可能性もある。

JX通信社の米重克洋さん:
名古屋市長選挙においては、選挙全体の情勢を決める上でSNSが決定的な役割を果たしたとは言えないと思います。一方で、特に選挙期間の中盤から終盤にかけて、世論を盛り上げていくうえでSNSが一役を買った可能性はあるのかなと。

名古屋市長選では“決定的”とまでは言えないが、すでに無視ができない影響力を持ちはじめたSNS。

兵庫県知事選挙のように全国的な注目を集める構図や、石丸氏のような圧倒的な発信力を持つ候補者が現れれば、いままでの常識を覆す「SNS選挙」はすぐそこだ。

JX通信社の米重克洋さん:
SNSの利用者数、利用時間はともに増えていきますから、SNSの選挙に対する影響は不可逆的にこれから増していくと思います。有権者にとっては、そういった様々な政治家の声とか発信をそのまますべてうのみにするのではなくて、人間の心理のバイアスを知ったうえで、見極めていく力が求められていくと思います。

2025年3月19日放送

(東海テレビ)

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