私たちの日常生活において、欠かせない交通情報。特に、通勤や旅行の際には、道路状況や渋滞情報が大きな影響を与える。長崎の交通安全を見守る「声」に密着し、その裏側を探った。

聞きなじみのある声の正体は?

ラジオで交通情報を伝える声の主は誰なのか、ご存知だろうか。

ラジオを聞くことが多いタクシードライバーに聞いてみると「パーソナリティですよね?」や「気象予報士?」など、毎日のように“その声”を聞いていても、その正体は謎に包まれている。交通事故や道路の渋滞情報を伝える、冷静で優しい声はラジオ局のパーソナリティなのか、それとも?

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交通情報は、事故や渋滞の発生を未然に防ぐための重要な情報源だ。長崎県内では、特に交通量が増加する時間帯や特定の場所での渋滞が発生しやすく、リアルタイムでの情報提供が求められる。ドライバーは、ラジオを通じて最新の情報を得ることで、より安全な運転を心がけることができる。

長崎の交通情報を伝えるのは、長崎県警本部内にある日本道路交通情報センターだ。

このセンターでは、交通情報を収集し、ラジオを通じて放送する役割を担っている。特に、キャスター歴40年以上のベテラン太田真理子さんが中心となり、年間約1000本の放送を担当している。

太田さんは、放送の中でリスナーに向けて、2分おきに変わる渋滞表示板に映し出される道路の状況や渋滞情報を的確に伝えている。放送ブースでは、県内3局に向けて、交通情報が発信されている。年間の放送数は3180本にものぼる。

交通状況を迅速に冷静に

キャスターの太田さんは、情報収集から放送までを一人で行っている。東京や大阪など都市部では情報収集などは複数人で対応できるが、長崎では情報収集が難しいため、太田さんは一人で全ての業務をこなさなければならない。太田さんは、警察からの事故や災害の情報、県からの工事情報、そしてNEXCO西日本からの高速道路の情報を集め、迅速に放送で伝えている。

放送中に突発的な交通事故が発生した場合、職員が書いた情報を即座に放送に入れる必要がある。例えば「何号線で事故がありました。片側・交互通行です」という状況をリアルタイムで伝えることが求められる。このように、放送は常に変化する状況に対応しなければならず、太田さんはそのプレッシャーの中で冷静に情報を伝え続けている。

人々の命と密接につながる「交通情報」

1980年代、交通渋滞は社会問題となっていた。

車の運転免許を持つ人は、現代の「令和の時代」と比べて18万人ほど少ないものの、車の人身事故の発生件数は今の2倍以上。運転席と助手席でのシートベルト着用が義務化されたのもこの時代だった。ラジオから流れる交通情報は、事故や災害、人々の命と密接につながっている。

太田真理子さん:入ってすぐに長崎大水害があった。それから間もなくして雲仙普賢岳災害が起きて、人の命に関わるような災害だったので、道路交通情報を伝えるというのはとても大変で気を使って一生懸命やったなという思い出があります

時間との闘い…これぞプロの姿

放送の時間が近づき、太田さんの動きがあわただしくなってきた。

高速道路、西九州道の夜間通行止めの工事情報があり、その情報を放送に入れるため、手書きでメモをとっていく。太田さんは「見やすいのは(パソコンで)打ったほうがいいかもしれないが、とにかく早く・差し替えたり・書き直したりできる可能なほうがいい」と、ベテランだからこその臨機応変さを見せる。

刻々と状況が変わる夕方は、特に時間との戦いだ。

放送ブースに入ると、今度は2分ごとに更新される渋滞情報などの表示もチェック。各局で放送時間の長さが違い、この放送で与えられた時間は1分30秒だ。

そしてOAスタート。

太田さん:はい、お伝えします。長崎市の国道206号線は松山町で宝町方面からの車。道の尾三差路付近では上下線とも混んできています。

無事に本番終了。でも、一息ついている暇はない。次の放送スタンバイまで5分しかない。わずかな時間の間に取材に取りかかる。最新情報を確認し、慌てることなく放送する。長年、交通情報を伝え続けてきたプロフェッショナルの姿だ。

今春卒業の太田さんの今後の夢「道路を見ながら遊ぶこと」?!

太田さんは混雑状況に加えて、ドライバーに優しく呼びかける。

太田さん:各道路とも夕方の渋滞が続いていますね。いまのあなたの車間距離で大丈夫でしょうか。車間距離をきちんと取って前方にも十分注意してお帰りください。

太田さんは「混んでいるとついつい(車間距離を)詰めがちになるけど、基本的に車間距離を取って、前方に注意してと時間があったのでお伝えした。マンネリ化で交通情報だけを伝えるだけでなく、ドライバーの方の近くに寄り添えるような放送ができたらと思っている」と、その声に込めた思いを語った。

40年以上に渡り、交通情報を伝えてきた太田さんだが、この春、退職することが決まっている。放送に間に合わない、放送ができないなどの夢を見ることも多いそうで、退職後の夢は「道路」を見ながら遊ぶことだという。いままで仕事目線で道路を見てきた太田さんならではの夢だ。

長崎で、当たり前のようにラジオから流れてきたこの声を聞けるのもあとわずかだ。ラジオを聞いている誰かの交通安全のため、この小さなブースからきょうも放送が行われている。

(テレビ長崎)

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