過去には「4割値下げ」発言も…“菅新首相”でどうなる?

9月14日に投開票が行われた自民党総裁選で、菅義偉氏が新総裁に選出された。今後は、16日召集の臨時国会で、衆参両院の本会議での総理大臣指名選挙を経て、第99代の総理大臣に就任する運びとなる。

その菅氏は、今回の選挙戦でも、携帯電話料金の引き下げの必要性を強調してきた。

9月2日の出馬表明会見では、携帯大手3社について「国民の財産である電波を提供するにもかかわらず、上位3社は9割の寡占状態を維持し、世界でも高い料金で20%もの営業利益を上げている」と述べた。

9月2日 出馬表明会見
9月2日 出馬表明会見
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また、13日のフジテレビの「日曜報道 THE PRIME」では「携帯料金というより電波利用料の見直しは、これはやらざるを得ない」と述べ、通信料金の引き下げが実現しない場合は、携帯事業者が国に納めている電波利用料を引き上げる可能性に言及した。

フジテレビ「日曜報道 THE PRIMEより(9月13日)
フジテレビ「日曜報道 THE PRIMEより(9月13日)

菅氏と言えば2018年の夏の「4割値下げ」を思い浮かべる人も少なくないだろう。

当時の菅官房長官が日本の携帯電話料金について、「4割値下げできる余地がある」と発言したことで、通信業界には激震が走った。その後、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの携帯大手3社は、通信料金を2割から4割程度値下げした新プランを続々発表するなど、対応に追われた。

その後も、政府は市場の競争環境を整備し、2019年10月に電気通信事業法を改正、携帯電話の端末料金と通信料金を分離したほか、端末代金の割引の上限を2万円までとした。

また、2020年4月には楽天が第4のキャリアとしてMNO(移動体通信事業者)に本格参入したことで、市場競争が進むことが期待された。しかし、楽天が料金プランを発表した後も“大手3強”の構図は変わらない。

コロナ禍で打撃…秋には新“5G端末”発売も

2018年の最初の値下げの際、大手3社は、月に50GBや60GBを利用する人向けの大容量プランと、あまり利用しない人向けのライトプランを選べるようにしたほか、従来に比べ2割から4割程度値下げしたとしている。その後も、断続的に値下げプランを発表し、解約金を引き下げるなど対応に追われた.

通信業界関係者は当時について、菅氏の発言をうけて「料金改定せざるを得なかった」と振り返る。

現在はどうだろうか?

3社では新型コロナウイルスによる外出自粛の影響から、端末販売台数が大幅に減っているほか、値下げプランにより通信収入が悪化していることから、金融やITサービスなどの非通信分野でまかなおうと必死となっている。

そんな中、改めて菅氏は「携帯電話料金の引き下げの必要性」を強調したが、菅首相が今後誕生することで、通信大手3社がさらに値下げしたプランを提供することは可能なのだろうか?

私たちの携帯料金はどれだけ安くなるのか?

ある大手証券会社のアナリストは、値下げの実現可能性について「(仮に)一律1000円下げたとすると、通信会社の利益は半分になる。そのため、現実的には下げる余地はそこまで大きくない」と話す。さらなる値下げに繋がる可能性は限定的だとの見方を示した。

一方で、通信業界関係者は「5G対応のiPhoneが発売される今秋は、5Gを広めるタイミングとして重要だが、そこの料金に響いてくる可能性はある」と話していて、直近では16日にも発表される可能性がある、5G対応iPhoneの「新プラン」が出てくるのかどうかも注目となる。

値下げによって、国際的“5G競争”に遅れも?

仮にさらなる通信料金の値下げとなれば、5G投資の行方が気になるところだ。

隣国の中国や韓国と大差をつけられるなか、各社は、2020年3月からサービスをスタートさせ、2020年のうちには、47都道府県に1局以上の5G基地局を設けるべく、鋭意進めている。

ただ、新型コロナウイルスの影響でイベントは次々に中止となるなどで、5Gスマホの契約数は、NTTドコモが8月1日時点で、24万件にとどまっている。(KDDI、ソフトバンクは非公表)。こうした中で、値下げが行われれば、5G通信への投資に資金を回せなくなるのではと指摘する専門家もいる。

通信各社に対する市場の受け止めは冷静な面もあるようだ。8月31日の東京株式市場では“菅氏出馬”の期待感から、日経平均株価がほぼ全業種で値上がりした中で、通信各社は値下がりが目立った。

通信各社の収入減が嫌気された形だったが、「全部のプランを安くする必要はなく、料金プランを選ばせるのが現実的。すでに大手3社は取り組んでいるので、投資家はみんな冷静に受け止め、株価も戻っているところもある」とする見方もある。(前述のアナリスト)

通信の質の高さと料金の安さの両立は果たして可能なのか?各社がどう対応をするのか注目だ。

(フジテレビ経済部 奥山未季子記者)

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