春になると花粉とともに要注意なのが黄砂だ。目のかゆみや呼吸器系のトラブルなどに悩まされる人も多いだろう。しかし、海にとっては黄砂が“恵み”となり、豊かな生態系を育むための一助となっているといるという研究報告がある。

黄砂はなぜ春に発生?

黄砂とは、中国やモンゴルなど大陸の砂漠の砂が風に乗って運ばれるもので、春に発生しやすい。2010年から2019年までの10年間に福井県内で観測された黄砂日数を月別に表したものでは、3月から5月と春が最も多くなっているのが分かる。

2010年から10年間の月別の黄砂観測日数(福井)
2010年から10年間の月別の黄砂観測日数(福井)
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なぜ春に黄砂の飛来が多いのかというと、冬の間凍っていた地面が溶けて乾燥し、強風が吹くことで砂が舞上がりやすくなるから。植物が育っていないこの時期は、地面がむき出しになっていることも理由の一つだ。

健康に及ぼす悪影響

黄砂を吸い込むと健康に悪影響を及ぼす。環境省によると、ぜんそくや肺炎などの呼吸器疾患、目のかゆみや結膜炎といったアレルギー症状に加え、近年では脳梗塞や心筋梗塞を発症・入院といった循環器疾患の報告もあるという。

黄砂が健康に及ぼす影響
黄砂が健康に及ぼす影響

黄砂による影響を防ぐには、飛来予測を常に把握し、外出時はマスクを着用。さらに、濃度の濃い黄砂が予測されている場合は外出をできるだけ控えて吸入量を減らすよう心がける必要がある。

海の生態系を育む!?

私たちの生活においては悪いことばかりだが、一方で注目されていることもある。海洋研究開発機構の主任研究員・長島佳菜さんによると、黄砂が海の生態系を保つ栄養の供給源となっているというのだ。

Q.黄砂による健康被害が注目されているが、プラスの面はー
海洋研究開発機構の主任研究員・長島佳菜さん:
「黄砂が供給する鉄などが海洋のケイソウなどの植物プランクトンにとって必要な栄養素を供給していることが数十年前から分かっている。鉄は全部溶け出すわけではなく、ごく一部が生物が利用しやすい鉄として海洋中に溶ける。その溶解した鉄を使って植物プランクトンの光合成が進む」

Q.つまり植物プランクトンの栄養素になるということかー
海洋研究開発機構の主任研究員・長島佳菜さん:
「リンや窒素など主要な栄養素が前提として必要だが、北西太平洋の特に亜寒帯地域では主要な栄養素はたっぷりあるのに、鉄が不足していて光合成が抑制されている。そのような海域に黄砂が飛んでくることで不足している鉄を供給し植物プランクトンが繁茂しやすくなる。普段、黄砂のプラスの面は注目されないが、海の生態系にとってはプラスの役割を果たしている」

近年、黄砂は減少傾向に

また黄砂の近年の傾向について長島さんは「温暖化によって砂漠化が進み、飛来する量が増えている気がするが、現状増えているということはなく、むしろ長期的には若干減少している傾向。温暖化によって黄砂の発生地域で低気圧が発生しにくくなり、強風が吹かないため黄砂が発生しにくくなっているという説がある」と話す。

長島さんによると近年、黄砂は減少傾向にあるものの、身近に迫る地球温暖化や気候変動にどう関わるのか、今後さらに研究が必要だという。

海にとっては“恵み”となる黄砂も、やはり我々にとっては健康に悪影響を及ぼす存在。体調に不安のある人や高齢者は、飛来予測をみて慎重に対応しよう。

福井テレビ
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