春は旅立ちと別れの季節。愛媛県内では2025年3月1日に74の県立高校や分校で卒業式が行われ、約7700人が学び舎を後にした。このうち西予市の宇和高校三瓶分校では最後の卒業式が挙行され、地域の人たちに見守られながら105年の歴史に幕を下ろした。
最後の卒業式 涙の別れ
宇和高校三瓶分校で行われた最後の卒業式。

児島万代光校長は「私たちがバトンを託す後輩はいません。しかし私たちに引き継がれた『三瓶スピリット』という伝統のバトンは全ての人の心に宿り、その周りの人にも伝わり続けていくのだと思います」と式辞を述べた。
学び舎を巣立つのは14人でほとんどが幼なじみだ。児島校長から卒業証書を渡され、目には万感の思いが詰まった涙が浮かぶ。

卒業生代表・井上望愛さんば「3年前の春、私たちは三瓶分校最後の新入生として、学校の門をくぐりました。生まれ育った大好きな町の高校に通うことができる喜びに私は胸を弾ませていました。辛いときは励まし合い、たくさん声をかけ合いましたね。一緒に様々なことにチャレンジしてきましたね。こんなにも大切で信頼できる仲間がいたこと、これからも私の宝物です」と答辞を述べた。
一世紀を超える歴史 200人の同窓生が訪れ母校との別れ惜しむ
三瓶分校の前身は1920年に開校。三瓶高校時代の60年前には700人を超える生徒が在籍し、地元の朝日文楽を継承する部活動を立ち上げるなど旧三瓶町と共に105年の歴史を築いてきた。

しかし少子化の影響で入学者が徐々に減少したため2020年度から宇和高校の分校になり、2023年から新入生の募集も中止。ついに閉校を迎えた。
最後の卒業式には約200人の同窓生が集まり、懐かしい写真などを眺めながら思い出に浸った。

約30年前の卒業生の女性は「地域にある学校ですので、なにかと集まってきて、本当なくなるのは寂しいです」と母校への別れを惜しみ、来訪した2024年卒業生の男性は「生徒と教師のみんなが仲良しみたいな感じで、つながりが深い感じがしていて、とても良い学校だと思っています」と、母校への愛着を語った。

また、初任地が三瓶高校だった教師は、「本当に人がどんどん少なくなっていったんだなとさみしい思いですね。自分がいた学校がなくなるって本当辛いです」と語った。
これまでに1万人以上の生徒を送り出してきた三瓶分校では、地元の鮮魚店とコラボレーションした特産品開発や、プロの大工から指導を受けながら地元特産のひのきを使ったコサージュ制作など、地域に根ざしたユニークな取り組みが特徴だった。

この日も卒業生の胸元には「ひのきのコサージュ」が飾られた。例年は後輩たちが制作するものの、今回は在校生がいないため、教員と保護者が協力して作り上げた。

式では最後の校歌斉唱に続き、生徒会長の宇都宮吏聖さんが学校のシンボルである「校旗」を返納。14人の卒業生は先輩たちが作るアーチをくぐり、それぞれの思いを胸に会場を後にした。
最後のホームルーム 2世代での卒業生も
教室で行われた最後のホームルームでは、卒業生がひとりずつ、保護者とクラスメイトに感謝の気持ちを伝えた。

卒業生・紀伊野来和さんは「長い人は幼稚園から一緒で、たくさんの思い出を作ってきましたが、この3年間で作った思い出は今まで以上に多くありました。皆さんと作った思い出は一生忘れません。一番最後の生徒でこの学校と一緒に卒業できるっていうのは他の学校の人には経験できないことだと思う。先輩方に見送ってもらったことを胸にがんばりたい」と思いを語った。

母親もここの卒業生だという宮弓優斗さんは「自分が“最後の世代”としてぎりぎりで入学した。三瓶に住む人としてバトンを母親からつないだのかな」と感慨深げに語り、母の宮弓和子さんも「私が通っていた当時とは人数も全然違うんですけど、少ない人数のなかで一致団結できたというのは結構大きかったと思います」と、息子の3年間を振り返った。

そして宇都宮吏聖さんは「唯一の地元の高校だったので、なくなるのは寂しいですけど、今後地域の発展のために有効に使われたらいいな」と、校舎の未来への希望を語った。
105年の歴史に幕を下した三瓶分校。学校はなくなってもその思いは地域の人たちの心にこれからも生き続ける。
(テレビ愛媛)