暦の上では春。日頃の喧騒から離れて、ゆったりとした時間を過ごしたい人におすすめの場所がある。長崎・雲仙市国見町の武家屋敷が残る「神代小路(こうじろくうじ)地区」の歴史・文化・伝統を感じる旅に出かけた。

手作りの三線を片手に街の歴史を発信する名物ガイドも

長崎・雲仙市国見町にある島原鉄道の神代駅。駅から5分ほど歩くと美しい石垣や長屋門、武家屋敷が並び、まるで江戸時代にタイムスリップしたかのようだ。

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旧佐賀藩の飛び地だった神代小路(こうじろくうじ)地区は第4代当主・鍋島嵩就の代に整備され、2005年、国の重要伝統的建造物群保存地区に選ばれた。

国の重要文化財に指定されている「旧鍋島家住宅(鍋島邸)」。ヒカンザクラの開花に合わせ、期間限定で大正時代のひな人形など貴重な品々が展示されている。

鍋島邸のヒカンザクラ 5~6分咲き(2025.3.8撮影)
鍋島邸のヒカンザクラ 5~6分咲き(2025.3.8撮影)

ヒカンザクラは例年だと2月中旬に開花するが、2025年は開花が遅れていて3月8日に鍋島邸を訪れた際はようやく5~6分咲き程度だった。神代小路地区のほかの場所は8~9分咲きで見頃はもうしばらく続きそうだ。

鍋島邸のヒカンザクラ(2025.3.8撮影)
鍋島邸のヒカンザクラ(2025.3.8撮影)

地元出身の今村正美さんは手作りの三線を手に時折、歌を交えながら鍋島邸のガイドを行っている。

ガイド 神代小路まちなみ保存会 会員 今村正美さん:屋敷に使われているのは「栂の木(つがのき)」。現在では“幻の木”とも言われている。粘りと強度、耐久性に優れている。作る時にかんなを引くと白い粉“フロコソイド”というのが出てくるが、ものすごくネズミが嫌うということで、昔の武家屋敷とお城に使われている

建築の専門家がその珍しさに驚いて足を止める貴重なものもある。

鉄刀木(たがやさん)
鉄刀木(たがやさん)

「鉄刀木(たがやさん)」といって、日本の建築材の中では一番高級な木と言われていて、タイ、インド、インドネシア、セイロン、ミャンマー、マレーなどにしか自生していないという。古くは唐の国を通って輸入されたことから、「紫檀」「黒檀」に並んで「三唐木」といわれている。

100年以上前の舞踏会で…高級ドレスも初公開

住宅を建てたのは鍋島桂次郎(なべしまけいじろう)。1860年(万延元年)生まれ、16代当主の桂次郎はイギリスのケンブリッジ大学に進学。卓越した語学力で外交官として活躍し、明治日本の近代化を支えた。

その活躍ぶりは雲仙市歴史資料館 国見展示館でも感じることができる。資料館には神代鍋島家の第16代当主・桂次郎の妻・業子(なりこ)の明治時代のドレスが展示されていた(~2025年2月23日まで)。

晩さん会や舞踏会で着用した女性の最上級の夜間礼装「ローブデコルテ」と、もう一点は初公開の昼の正礼装「ローブモンタント」だ。100年以上前のもので、雲仙市に寄贈されたときには傷みが激しかったものの、修復をして展示されていた。

雲仙市教育委員会生涯学習課 辻田直人さん:桂次郎さんが外交官をしていて欧米の方にも仕事で行っていたため、おそらくそういう時にも着られていたのではないかと思う

ドレスには一つ一つ手作業で細部にまでこだわって細かい刺しゅうが施されていて、その豪華さから明治時代の華やかな雰囲気を感じることができた。

276文字を一心不乱に

当時の人たちの生活に思いをはせる体験もさせてもらった。訪れたのは旧永松家住宅(永松邸)だ。

かやぶき屋根の昔ながらの造りを今に残す永松家は代々、武家の家系で、鍋島家の養育係を務めていた。約300年前に建てられた住宅は趣深く、魔よけのモモ、子孫繁栄を意味するハマグリなど珍しい「釘隠し(くぎかくし)」の飾りも残されている。

この日は、格式高い座敷=勉強部屋では写経体験が行われた。

浄土宗教師(僧侶)神代公明寺所属(神代小路まちなみ保存会 会員)今村 正美さん:般若心経というのは観自在菩薩(観音菩薩)が修行されて悟られた。結果的に“空”。何もないということを悟られた。もともと何もないんだから悩みも苦しみもないということ。

大般若経を276文字にまとめた般若心経を書き写し、最後に願い事=願文をしたためた。落ち着いた部屋の雰囲気が集中力を高めてくれる。黙々と取り組むこと約1時間・・・。普段なかなか一つのことに集中することも少ない中、時計も見ずに文字を書くことだけに集中する時間は貴重な時間となった。

神代地区を訪れ、その歴史や文化を肌で感じてほしい。高齢化は進んでいるが街の歴史を研究し観光客を案内するなど、精力的に活動を続けている。

緋寒桜の郷まつり実行委員会 谷 守章実行委員長:昔の武家町の風景が残っているし、伝建制度(伝統的建造物群保存地区制度)というのがあるが、それで修理も進んでいる。一度来られたら心も洗われるんじゃないか

明治時代の歴史を色濃く残す雲仙市神代小路地区。じっくり回ると1日では足りないくらい歴史が深いまちだった。春を感じながら、歴史散策に出かけてみてはいかがだろうか。

(テレビ長崎)

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