海が近い「JR下灘駅」は、海が近い絶景のロケーションで海外からも人気だ。人気の観光コンテンツを過疎が進む地域の課題解決に活かそうと奮闘する男性の思いに迫った。

「絶景駅」周辺にも過疎化の影響が

愛媛・伊予市双海町の「JR下灘駅」は、ホームから間近に臨む海、特に夕日の時間帯が「絶景」だと、最近では海外でも話題となっている人気の観光スポットだ。

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2021年には年間約3万人の観光客が降り立ったという人気の駅のすぐそばに、新たな土産物店「下灘住宅」が2025年2月26日にオープンした。

実はこの建物は、つい半年前まで10年以上も人が住んでいない「空き家」だった。NPO法人空き家サポート伊予の藤井祐一郎代表理事は「空き家によって明かりが消えるということは『そこの地域の明りも消える』ということなんで、色んな意味で心配なことが多い。JR下灘駅周辺は住んでいないお宅が多少あったり、ほとんど何もないなと地元に住んでいて感じました」と当時の状況を振り返った。

伊予市の調べによると、市内の空き家の数は2021年の時点で1877戸。過疎化とともに増える空き家問題は待ったなしの地域の課題となっている。

リノベーションで息を吹き込む古民家

そこで、藤井さんはまず人気の観光スポットの近くなら有効活用しやすいはずだと、下灘駅から徒歩1分という好立地のこの空き家に目をつけた。

築49年、2階建ての4DKの住宅は、約半年間のリノベーション工事を経て、土産物店に生まれ変わった。

1階の『居間部分』は瀬戸内海産ちりめんのオリーブオイル漬けをはじめ、地元・伊予市の認定商品などを販売するスペースに生まれ変わった。そして『倉庫』だった建物は、地元の漁港の奥様たちが担当する、コーヒーやじゃこ天などの軽食コーナーになった。

今回リノベーションする上でこだわったのは建物の歴史だ。藤井さんは「あえて当時の年代の壁のままを残して、空き家を再活用、再利用した」と語る。

また、2階部分は海を一望できる休憩室となり、前の住人の昭和歌謡グッズ、14インチのテレビ、カラオケセットやラジカセなどをディスプレイした。かつて、この建物に誰かが暮らしていた"生活の息遣い"を感じてもらいたい、という藤井さんの思いが随所に表れている。

観光資源を地域課題解決へ

店は2月20日にプレオープンを迎えた。

のれんをかける藤井さんは「うれしいのとどうなることか心配なのと両方です」と複雑な思いを抱えていた。しかし、オープンからわずか1時間足らずで店はすでに観光客で大にぎわいとなった。

広島から訪れた4人組の女性たちはじゃこ天を食べ、「外がカリッとしていて中がふわふわです」と満足そうに語る。この建物が半年前まで空き家だったと伝えると「昔の感じがあってめっちゃ良いと思います」と驚いていた。

横浜から訪れた観光客は「どら焼きを買いました」と話し、建物の過去を知ると「きれいだったから全然わかんなかった」と感心した様子だった。

2階の休憩室も大人気だ。くつろぐ観光客たちの中には、昭和の14インチテレビを見て「『テレビで見るテレビ』(テレビでしか見たことないほど古いテレビ)じゃない?」と会話を楽しむ女性たちの姿も。この光景を見た藤井さんは「ありがたい。喜んでいただいたら何よりです」と手応えを感じていた。

しかし藤井さんにとって「下灘住宅」はゴールではない。「お土産屋さんをここで開きたかったわけではないんです。みなさんに空き家問題に関心をもっていただいて、1件でも危険な空き家やそういった社会問題解決の一答となれば」と本当の狙いを語る。

明りが消えかけたまちに再び灯りをともす起爆剤に。藤井さんたちのプロジェクトは始まったばかりだ。

(テレビ愛媛)

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