台湾の半導体製造大手・TSMCの熊本進出をきっかけに九州で動き出した企業や研究機関などが集積するサイエンスパークについて、台湾や熊本で行政や経済界、半導体産業のトップたちの声を取材した。
九州地域戦略会議の台湾訪問に密着
九州・山口の知事や経済界でつくる九州地域戦略会議のメンバーは、2月9日から11日の3日間の日程で、台湾を訪問した。まず、訪れたのは台湾の半導体製造大手・TSMCも入る新竹サイエンスパークの管理局だ。

新竹サイエンスパークは1400ヘクタールを超える総敷地面積に、TSMCなど600社以上の企業が立地。また、企業だけでなく研究機関や大学なども入ることで、これまで半導体の技術革新を起こしてきた。

九州地域戦略会議では、台湾のサイエンスパークを参考にしながら、台湾のように1カ所に企業や大学を集めるのではなく、九州全体で取り組みを進めている。

九州地域戦略会議の共同議長で九州経済連合会の倉富純男会長は「半導体産業について様々な学びを得たい」と話し、意見交換は非公開で行われた。

意見交換終了後、同じく共同議長で九州地方知事会・会長の河野俊嗣宮崎県知事は「九州は、特定のエリアに集中したサイエンスパークづくりは目指さない。分散しているものをバーチャルでどうしたらできるか。いま国で『広域リージョン連携』が進められていて、我々の構想の後押しにならないかと考えている」と、『広域リージョン連携』というキーワードを示した。
地方創生2.0の柱『広域リージョン連携』
この聞きなれない『広域リージョン連携』という言葉。1月24日に開会した通常国会の施策方針演説で石破首相が打ち出したもので、「第5の柱として都道府県を超えた広域連携の新たな取り組みとして『広域リージョン連携』を強力に推進します」と述べた。

『広域リージョン連携』は石破首相が掲げる『地方創生2.0』の5つの柱の一つで、これまでの都道府県などの自治体を超えた新たな枠組みで、石破首相は「必要な制度改革を行う」としている。

九州経済連合会の倉富会長は「広域リージョン連携をするのであれば、一定の権限や予算があって有効性を増す。日本の制度の在り方の中に議論していく必要がある」と述べ、九州地域戦略会議では『広域リージョン連携』のモデルケースとして、九州から国へ『半導体』をテーマとした規制緩和や支援策を求める予定だ。

また、メンバーの一人として参加した木村熊本県知事は「分散しながら連携してやるのが九州方式。熊本が先陣を切ってやっていきたい」と述べた。

分散型の九州方式のサイエンスパーク構想で、2月18日に新しいビジョンを示したのが、福岡・北九州市。現在、4つの大学や60を超える研究機関や企業が拠点を構える北九州学術研究都市で、台湾のサイエンスパークをモデルに産学連携を発展させる考えだ。
熊本版サイエンスパークのビジョン提示へ
木村熊本県知事も熊本版サイエンスパークを構想中で、「考えを固めるのが最優先。3月までにはサイエンスパークのビジョンをまとめようと思っている」と、2月11日に台湾で答えていた。

2月20日と21日に熊本県が開いたくまもと産業復興エキスポでは、そのシンポジウムに参加した日本の半導体業界をけん引するトップたちが、木村熊本県知事に対して熊本版サイエンスパークの求める姿を示した。

ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングの山口宜洋社長は「地域間の連携を強めるためのネットワークづくり。道路や鉄道、港や飛行機などインフラの早期構築を進めてほしいのが一つと、他の産業との融和も図ってほしい」と、連携のためのネットワークづくりを求めた。

また、東京エレクトロン九州の林伸一社長は「(大学やユーザーが)近くにいると企業として取り組みやすい。あと農業や環境への配慮も、熊本発の環境技術や取り組みがあれば、世界にも発信できる」と、『熊本だからこそ』の環境への取り組みを求めた。

JASMの堀田祐一社長は「熊本のサイエンススパークとして、ハードと合わせてビジョンも大事。熊本は自然が豊かで、農業も盛んなので、産業界が自然との共生をどう実現していくか。農業と産業の共生が一つ大事なポイント」と、ビジョンの重要性と共生を求めた。

様々な意見が交わされたこの日、産業界だけでなく熊本県や熊本大学、肥後銀行など産学官金が集まり、熊本で新しい業界団体が発足した。
熊本版サイエンスパークは産学金官連携
これらの動きやトップたちの意見を聞いて木村熊本県知事は「協議会に熊本大学や金融機関も入ってもらった。産学金官の連携で進めていくことがいい意味での台湾をモデルに熊本版のサイエンスパークを目指していきたい」と述べた。

九州地域戦略会議では3月下旬に開催予定の総務省の研究会で、『広域リージョン連携』に向けた九州の取り組みを発表する見込みだ。
(テレビ熊本)