鹿児島・日置市の吹上浜で、市川修一さん・増元るみ子さんが北朝鮮に拉致されてから47年が経つ。関係者の高齢化が進み、事件の風化が懸念される中、県内では拉致問題を伝えようと署名活動などに参加する高校生が増えつつある。

今も署名活動の先頭に立つ兄・健一さん

1月、鹿屋市串良町のイベントに、市川健一さん(79)の姿があった。「お願いします」と頭を下げて署名を呼びかける市川さん。弟の市川修一さん(当時23)は、1978年8月12日、増元るみ子さん(当時24)とともに夕日を見に訪れた日置市・吹上浜で北朝鮮に拉致された。

今も署名活動の先頭に立つ市川健一さん(79))
今も署名活動の先頭に立つ市川健一さん(79))
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解決しないまま47年の歳月が過ぎた今、市川さんはアメリカ・トランプ大統領への期待を口にする。以前トランプ大統領が「拉致被害者が帰ってこられるように努力する」と明言したことを挙げ、「日朝首脳会談へつながっていけばと強く強く願っている」と市川さんは語る。

拉致問題に関心を持つ若者たち

市川さんにはもうひとつの希望がある。それは拉致問題に関心を持つ若者が増えつつあることだ。

「拉致被害者救出のための署名です」

市川さんの横で署名を呼びかけるのは、鹿児島県立甲南高校1年・福留豪希さんだ。

福留さんは、北朝鮮のラジオを聞いたことがきっかけで、拉致問題に関心を持つようになったという。中学3年生だった2024年3月、福留さんは同級生にも拉致問題を知ってほしいと、市川さんと妻・龍子さんを学校に招き、講演会を実現させた。当時のインタビューに福留さんは「色々な人が関心を持って解決につながれば、それが一番最善の方法だと思う」と語っていた。

中学時代の福留豪希さん
中学時代の福留豪希さん

「僕にとって8月12日は誕生日だからおめでたい日だ。だが、拉致事件を知ってからは、被害者に思いをはせる日にもなっている」

2024年12月、高校に進学した福留さんが、拉致問題を考える東京のシンポジウムで読み上げた作文は、全国で最優秀賞を受賞した。

「被害者家族の願いがかなうよう、拉致問題を若い人たちにも知ってもらい、風化させないために僕にできる行動を続けていきたい」

こう結んだ作文は、福留さんの変わらぬ思いとして今の活動につながっている。

作文コンクールで最優秀賞を受賞した福留さん
作文コンクールで最優秀賞を受賞した福留さん

作文コンクールに過去最多の4人が入賞

この作文コンクールでは、福留さんを含め県内の中高生4人が入賞し、過去最多の数字となった。なぜこんなにも鹿児島の若者が入賞したのだろうか。

2024年の作文コンクールでは過去最多の4人が入賞した
2024年の作文コンクールでは過去最多の4人が入賞した

鹿屋市の高隈中学校。市川さん夫妻は、全校生徒約30人の前で、拉致からの苦しい日々や活動の現状などを話した。弟の帰国を求める市川さんは、世論を高めて国を動かしたいと考えている。「若い人たちにも知ってもらうために、話が来れば喜んで講演したい」と語る市川さんは、依頼があれば県内どこでも駆けつけ講演活動を行っている。こうした市川さん夫妻の精力的な活動が、当時を知らない若者たちの心を動かしているのだ。

講演を聞いた生徒からは「どれだけ悔しいか悲しいか伝わってきた」「こういう事が日本であったということを広めていきたい」と、市川さんの思いがしっかりと伝わっていることが感じられた。

市川さん夫妻の思いは若者に確実に伝わっている
市川さん夫妻の思いは若者に確実に伝わっている

全校生徒の前で、拉致問題への思いを訴える生徒も

鹿屋市の署名活動では、福留さんと同じように署名を呼びかける若者がいた。県立川内高校1年の羽島奈穂さんだ。拉致問題を知った中学生の頃から市川さんと各地を訪れて、拉致への関心を高める活動を続けてきた。

実は羽島さんも中学生だった2023年に拉致の作文コンクールで最優秀賞を受賞、2024年は優秀賞を受賞している。羽島さんの通う高校のクラスでは1月末、入賞した羽島さんの作文が読まれていた。さらに「署名活動を見かけたらぜひ署名をしてください。時間が許せば、拉致被害者家族と私たちの活動にも力をお貸しください」と、全校生徒の前で拉致問題への思いを訴える機会もあったそうだ。

全校生徒に訴える羽島さん
全校生徒に訴える羽島さん

「拉致問題は、自分の身の回りのことではない」と思っていたクラスメートも、羽島さんの活動を見て身近な問題として考えるようになるなど、羽島さんの活動は学校内で確実に広がっている。「みんなが知るきっかけになり、続けてきて良かったなと思ったので、これからも知るきっかけを作れるように自分の活動や言葉で伝えていきたい」と話す羽島さんの目はしっかりと前を向いていた。

羽島さんの活動によって、クラスメートにも変化が
羽島さんの活動によって、クラスメートにも変化が

市川修一さん、増元るみ子さんの拉致から47年。「皆さん拉致問題を忘れないでください。
皆さんの力を私たち家族にお貸しください」。市川さんが講演を行うたびに決まって口にする言葉だ。

半世紀、支援を訴えてきた市川さん
半世紀、支援を訴えてきた市川さん

弟との再会を望む市川さんが呼びかける拉致問題への関心。半世紀訴えてきた変わらぬ思いは、少しずつだが着実に若い世代へと広がっている。

(鹿児島テレビ)

鹿児島テレビ
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