鹿児島・日置市の吹上浜で、市川修一さんと増元るみ子さんが北朝鮮に拉致されたのは1978年8月。半世紀近い年月が経つ中、「私たちには時間がない」と話す市川修一さんの兄・健一さんの活動の輪が、高校生の間で確実に広がっている。
「次の人にバトンを」 クラスメートに広がる輪
2025年3月9日、鹿児島・伊佐市の春を告げる風物詩、大口商店街「春の市」が行われた。植木や農具、飲食物などの露天商やフリーマーケットが立ち並ぶ一角では、北朝鮮による拉致被害者救出を訴える署名活動が行われた。
「拉致事件から約50年の月日が流れようとしています。事件の風化を防ぐためにもご協力をお願いします」

北朝鮮に拉致された市川修一さん(当時23)の兄、市川健一さんと妻の龍子さんの傍らで、大きな声を出して協力を呼びかける高校生がいた。薩摩川内市の県立川内高校1年・羽島奈穂さんだ。中学生の頃から市川さんと各地を訪れ、拉致問題に関心を持つよう訴えてきた。
今回は、羽島さんに誘われ、クラスメートの中島望花さんも初めて署名活動に参加した。中島さんは、羽鳥さんが書いた拉致に関する作文やテレビでの活動を見るようになり、「自分にもできることをしたいと思って活動に参加した」と語る。
「活動を続けてきて良かった」と笑顔の羽島さんは「今度は(中島)望花さんから次の人にバトンが渡っていってほしい」と期待を口にした。

活動してわかったこと「語り継いでいくことが大切」
会場には、2024年から署名活動に参加している鹿児島市の県立甲南高校1年・福留康樹さんと、同校放送部の生徒3人の姿もあった。拉致問題に向き合う福留さんの取材を通して、3人はこの日、署名活動に参加することを決めたという。
放送部のメンバーは、「署名活動実施中です」と書いた小さなホワイトボードを胸に抱えて、道行く人に積極的に声をかけていた。

初めて署名活動をした感想を聞かれ「足を止めてくれる若い世代が少ないと感じた」と語ったが、「語り継いでいくことが大切だと思う。拉致問題を若い子に伝えられる番組を作りたい」と、視線の先は前向きに進もうとする未来へと向けられていた。

市川さん、若者の参加に希望を見出す
6人の高校生と共に署名を呼びかけた市川さんは、「熱心に取り組む姿は本当に心強く感じる。呼びかけてくれたら若い人たちが署名してくれる。本当に助かっている」と、若い世代の参加に顔をほころばせた。

2025年2月、市川さんや、増元るみ子さんの弟・照明さんら拉致被害者家族が石破首相と初めて面会を果たした。「拉致問題解決に力を尽くす」と話す首相に対し、市川さんは「言葉だけでなく行動で示してほしい」と訴えた。
「私たちには時間がない。一刻の猶予もない。そのためにも(石破首相には)しっかりと動いてほしい。ただそれだけ」と、市川さんは切実な思いを語った。
この日の署名活動は、拉致問題解決への願いを込めた取り組みであるのと同時に、若い世代が社会問題に関心を持ち、行動を起こすことの大切さを示す機会となった。
鹿児島の拉致被害事件から約半世紀。被害者家族の活動に共感した若い世代の小さな動きが今後どのように広がっていくのか、これからも注目していきたい。
(鹿児島テレビ)