医療費が高額になった場合に患者の負担額を抑える「高額療養費制度」。

2024年12月、政府は自己負担額の上限を、今年8月から段階的に引き上げる方針を固めた。

しかし、患者団体などから「治療を続けられなくなる」と見直しを求める声があがり、石破首相は2月4日の衆院予算委員会で対応を検討する考えを示した。

水戸部ゆうこさん
水戸部ゆうこさん
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病気は他人事ではない。「高額療養費制度」がどれだけ重要なセーフティネットなのか、2人の子供を育てながら、ステージ4の肺腺がんの治療を続ける水戸部ゆうこさんに話を聞いた。

■服用する薬は1錠2万円 制度がなければ月に20万円の負担

水戸部ゆうこさん:昨年12月に、このニュースを聞いてから、不安で眠れない日々が続いています。

厚生労働省
厚生労働省

水戸部ゆうこさん:私だけでなく、周りの患者さんたちも皆、心配で落ち着かない。 なにか新しい情報が出ていないか、頻繁にスマホを確認してしまうのです。 精神的に良くない状況が続いています。

水戸部ゆうこさん:私は2018年、44歳の時にステージ4の肺腺がんと診断されました。「完治は難しい。病気と付き合っていきましょう」。 手術や放射線治療は出来ず、エンドレスの抗がん剤治療が始まりました。

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水戸部ゆうこさん:現在までの約7年で43回、高額療養費制度を使ってきました。私の場合、すでに「分子標的薬」という高額な薬での治療しかありません。錠剤で毎日1錠服用します。薬価は1錠が2万円ぐらい。3割負担なので、高額療養費制度がなければ月に20万円以上かかります。

■現在の「8万100円」が3年後には「11万円」超に

水戸部ゆうこさん:負担上限額が引き上げられた場合、うちは現在の8万100円が、まずは今年8月から8万8000円ぐらいになります。 8000円の値上がりでもすごく響きますが、さらに3年後には11万円を超えるというのです。

自己負担上限額の段階的引き上げ方針
自己負担上限額の段階的引き上げ方針

水戸部ゆうこさん:家族に申し訳なくて。 子どものためにたくさんお金を使いたいのに、自分が生きていることで、夫の収入を使ってしまう。せめて自分の治療費分ぐらいは稼ごうと、アルバイトなどを地道にやっていますが、やはり家族に迷惑をかけているという思いがつきまといます。心苦しいんです。

水戸部ゆうこさん:精神的にも追い詰められているのに、さらに負担が引き上げられるなんて、まるで「生きることを諦めろ」と言われているようで絶望的な気持ちです。

■闘病には、常にお金の心配がつきまとう

水戸部ゆうこさん:今、1年間にかかるがん治療の自己負担額は、だいたい60万円ぐらいです。 単純に割ると月に5万円。 子どもの塾代以上です。耐性ができれば、次の薬に切り替えていくので、ずっとこの薬を使い続けるわけではありませんが、トータルして高額な薬を使う頻度が多いです。

※水戸部さんの場合、高額療養費制度の多数該当(過去12か月以内に3回以上、自己負担限度額に達した場合は、4回目以降、自己負担限度額が引き下げられる)による

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水戸部ゆうこさん:かかるのは薬代だけではありません。 検査費用も高額ですし、通院のための交通費もばかになりません。闘病中は口腔ケアが大事なので、歯医者にもこまめに通わないといけないとか、他にも思いがけない出費は多く、常にお金の心配がつきまといます。

水戸部ゆうこさん:以前はフルタイムの正社員で働いていたのですが、病気が分かって半年後に離職しました。 薬の副作用で体調が悪くなったため仕方がなかったのです。

水戸部さんと2人の息子
水戸部さんと2人の息子

水戸部ゆうこさん:私には、子どもが2人いますが、この春から高三と中三。一番お金がかかる時期に突入します。なのにこのタイミングでの高額療養費の引き上げ問題です。 子どものためにお金を使いたい。 よそのお子さんと同じようにしてあげたい。

水戸部ゆうこさん:例えば年に1回ぐらいは旅行に連れて行きたいし、外食だって時々は行きたい。 我が家はそういうことがほとんどカットになり、つつましく暮らしています。

水戸部ゆうこさん:今、上の子はアルバイトをして助けてくれていますが、受験生になるので勉強に集中させてあげたい。 頑張っているので、お金のことを気にしないで勉強したいだけさせてあげたい。 やりたいだけやっていいよと言いたいのに、なんていうかすごくもどかしいです。

水戸部ゆうこさん:月5万円の治療費を子どものために使えたらどれだけいいかと思っているのに、さらに負担額が増えてしまうというのです。

■「あなたには数千万円の医療費がかかっている」主治医の言葉に絶句

水戸部ゆうこさん:先日の診察日、主治医に高額療養費の負担額引き上げの話をしたら、主治医は国の方針に賛成らしく、「あなたにはもう数千万円の医療費がかかっている。アメリカではこんなことはあり得ませんよ」と言われました。

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水戸部ゆうこさん:私はステージ4の肺腺がんですから、薬がなければ今日まで生きてこられませんでした。 今、命があるのは高額療養費制度のお陰ですし、本当にありがたいと感謝しています。

水戸部ゆうこさん:でも、患者に対してまったく寄り添いのないその言葉に絶望して、涙が止まらなくなりました。これまで何十年もフルタイムで働いてきて、社会保険料も税金も真面目に納めてきているのに、という気持ちもあります。

■闘病しながら一生懸命子育てする人を「見捨てないで」

水戸部ゆうこさん:厚生労働省が出している「第四期がん対策推進基本計画」というのがあるのですが、その全体目標が『誰一人取り残さないがん対策を推進』なんです。

水戸部ゆうこさん
水戸部ゆうこさん

水戸部ゆうこさん:さらに、その中に、「がん診断後の自殺対策」というのもあります。 これらを厚労省が掲げているのに、高額療養費の負担額を上げてしまったら、治療を諦めて自殺する人が増えてしまうと思うんです。「どうせお金ないし、そんなに長く生きられないなら、いっか…」って。

水戸部ゆうこさん:対策を打つようなことを言っておきながら、引き上げという結果にもっていくのは非常に矛盾していると思います。

水戸部ゆうこさん:闘病しながら、一生懸命子育てをしている人はたくさんいます。 そういう人たちを見捨てるような政策はやめて欲しいと思います。 

(関西テレビ 2025年2月8日)

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