スポーツファンに21年間愛されてきた飲食店が、火の始末をしていたにもかかわらず想像もしない原因で全焼。やり場のない思いを抱えていたが、多くの人の支えでクラウドファンディングを立ち上げよみがえった。

火の始末をしていたのになぜ?

2023年2月、佐賀市の繁華街で深夜に火災が発生した。この火事で佐賀市の飲食店「おでんdeスポーツBARいぷしろん」が全焼した。

深夜の火災で店が全焼(佐賀市 2023年2月)
深夜の火災で店が全焼(佐賀市 2023年2月)
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火災が発生したのは店を閉めて2時間近く経った頃だった。焼けてしまった店内を目にした店主の宮崎正太郎さんは茫然とするしかなかった。

壁の内側で発火する「伝導過熱火災」

火災の原因とされているのは閉店後に発生した「伝導過熱火災」。聞き慣れないこの火災は、ガスコンロ近くの壁の中の木材が長年の過熱で炭化し、突然、火が出る火災で、火の始末をしていても壁の内側で発火する可能性があるという。

当時、火の始末をしっかりと確認していたにもかかわらず、火災が発生した現実に、店を営む宮崎正太郎さんは、やり場のない思いを抱えていた。

店主 宮崎正太郎さん:
これだけ燃えるか…というぐらい全部失くしちゃった。頭の中がぐちゃぐちゃ

スポーツファンに長年愛された店

この店は2002年にオープン。夫婦二人三脚でつくってきたアットホームな空間は、サガン鳥栖や佐賀バルーナーズなどスポーツファンの交流の場としても人気だった。21年間愛されてきた店が一瞬にして失われた。

思わぬ火事で、店にあるほぼ全てのものを失った夫婦。店を再建したい思いはあったが、簡単なことではなかった。

やり場のない気持ち…「まずは生活」

全焼した店を目にした宮崎さんは当時「グラスの1つも酒の1本も無い。もう無理ですよ、もう店はしませんよ、とも言いたくないし、簡単に(再建)します、とも言い切れないのが現実」とやり場のない気持ちを語っていた。

妻の由香さんは「とりあえず今はもう頑張って…生きる。まずは生活ですね」と自分に言い聞かせるように話していた。

店を再建したいという気持ちがあっても簡単なことではなかった。宮崎さんは精神的なダメージを語る。

宮崎正太郎さん:
火を見るのは、しばらく半年くらいコンロを触れないほど嫌だった。火をつけるのがいやでした。火を消していたのに火が出てしまったので余計いろいろ思うことがありました

店はやめようと思っていた。しかし、宮崎さん夫婦に転機が訪れる。

クラウドファンディングで再建へ

転機となったのは、元サガン鳥栖の選手だった早坂良太さんの言葉だった。宮崎さんは涙ぐみながら早坂さんからの言葉をかみしめる。

宮崎正太郎さん:
すぐにチャレンジできないにしても、半年後でも1年後でも、やろうと思ったときにチャレンジするのであれば、できることはしますよ、と言っていただいた

この言葉をきっかけに宮崎さんは再オープンの覚悟を決めた。早坂さんからの勧めもありクラウドファンディングを立ち上げる。すると初日から目標金額の100万円を達成。200人を超える支援者によって集まったお金は300万円を超えた。

バルーナーズの選手も募金活動

さらに佐賀バルーナーズの選手は、試合前に募金活動を行い支援を呼びかけてくれた。

宮崎正太郎さん:
試合前にごめんなさいと(バルーナーズの選手に)言ったらミーティングよりも今は大事なことをする時間があると言われ、募金活動をしてもらったり、選手が募金をしてくれたり。たくさんの方々に支えられて…

支援が実を結び“再オープン”

火事から約2年。店は同じ場所で再オープンした。

オープン当日。開店時間の前から待ちきれない客が続々と店に入り、かつての賑わいが戻ってきた。

店内には火災前と同じように県内のスポーツ選手のサイン入りユニフォームやグッズがずらりと並ぶ。お祝いの花束も、サガン鳥栖や佐賀バルーナーズのチームカラーで彩られていた。

店には、店主の正太郎さんの譲れないこだわりがある。

宮崎正太郎さん:
カウンターは前から使っているものを、焦げたりへこんだりしていたのを磨いた。店をやるならカウンターだけは残したい

県外から訪れた客の姿もあった。以前もらったというコースターを客から受け取った妻の由香さんの目からは涙があふれる。

スポーツを通じて多くの人に長年愛されてきた店が、多くの人の支えでよみがえった。

「自分だけの力では無理でした」

困難を乗り越え、再出発を果たした宮崎さんは感慨深げに語る。

宮崎正太郎さん:
自分たちだけの力では無理でした。たくさんの方々に支えていただき感謝しています。スポーツ、おでんを通して、いろいろな人が笑って楽しくできるお店を続けていきたい

(サガテレビ)

サガテレビ
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