通常国会で最大の焦点となる2025年度予算案の年度内成立に向け、自然成立の条件である「3月2日までの衆院通過」のタイムリミットまで1カ月を切った。
その予算案の鍵を握る政党である国民民主党は、1月28日の衆院本会議で西岡秀子議員が「年収103万円の壁」について、「178万円を目指すとの公党同士の3党合意は極めて重いものだ。123万円以上の高水準に引き上げる必要が当然ある」と訴えた。
さらに、2月3日の衆院予算委員会では、国民民主党の浅野哲議員が「政府の税収が伸びている。だからこそ国民にその税収の一部を還元してほしい」と食い下がったが、石破首相は財政状況の厳しさに触れ、「できるものであれば返したいが、今はなかなかそれを許すような状況にはない」と慎重な姿勢を示した。
こうした国会での激しい論戦に先立ち、海外に向けて「103万円の壁」の引き上げを訴えた党幹部がいた。玉木雄一郎氏だ。玉木氏は、1月23日、滞在先のスイスでFNNの単独オンラインインタビューに応じ、次のように語った。
国民民主・玉木雄一郎氏:
世界に向かって『103万円の壁』の引き上げ、178万円を目指していくことは宣言してきた。
玉木氏が感じたダボス会議出席の意義と手応えは
玉木氏が出席していたのは、スイス東部の保養地ダボスで開かれた世界経済フォーラム(WEF)の年次総会「ダボス会議」だ。
「ダボス会議」は1年に1回、世界の政治、経済のリーダーや有識者が集まる会議で、日本政界からは首相や閣僚が招待されるのが通例だ。野党議員が招かれて参加するのは珍しく、衆院選で躍進した国民民主党の注目度が国際的にも増していることがうかがえる。

一連の会議日程を終えての取材の中で、玉木氏は2024年12月にWEFのトップが来日した際に話したことがきっかけで招待されたことを明らかにした。そして初めて参加した会議について、「すごく良かった。めちゃくちゃ有意義だった」とし、その様子について語った。
国民民主・玉木雄一郎氏:
外務省が中に入れないので、ある程度、自分でやっていくしかない。私はスケジュールを見て、きょうは例えばベトナムの首相がいると思ったら、行ってセッションを聞いて、それが終わった後に話をした。
現地で玉木氏は、国家元首5人を含む各国の要人16人との会談やディスカッションを精力的にこなしたという。玉木氏は「これだけ多くの人、政界、経済界、そしてアカデミア(学会)、色々な人が集まっている場はない」と強調した。

一方で、日本政府からは今回、赤澤亮正経済再生相と平将明デジタル相の2人の閣僚が参加したが、玉木氏は「すぐに帰り、あまりプレゼンスを示すことができなかったのではないか」と指摘し、諸外国の方がダボス会議の場を積極的に活用していることに言及した。
国民民主・玉木雄一郎氏:
中国は国を挙げてデリゲーション(代表団)を組んで来ている。国のプレゼンスをしっかり示そうということでやっている。日本ももっと戦略的にこの場を生かして、日本のプレゼンスを世界にアピールする機会にすべきだ。
さらに、玉木氏は「日本の場合、通常国会の開会の時期と重なるので、『ダボス休戦』ということがあってもいい」との考えを示した上で、「与野党関係なくできるだけ参加するべきだ」と訴えた。
ベトナムに原発技術をセールス…玉木氏「野党では外交はできないと言うが…」
ダボス会議で特に印象に残った人物や意見を尋ねると、玉木氏はドイツのキリスト教民主同盟(CDU)のメルツ党首を挙げた。
メルツ氏は2022年1月、ドイツの最大野党CDUの党首に就任し、同党出身でリベラル色が強かったメルケル前首相の路線を転換し、保守回帰を推進してきた。2月23日に総選挙を控えるドイツでは、次期首相候補にも目されている。
玉木氏はメルツ氏の演説を聞き、その後、会談したと明らかにした上で、次のように語った。
国民民主・玉木雄一郎氏:
(メルツ氏は)原発については、『やめるという方針が明確に間違っている。ミステイクだ。原発を動かしてエネルギーコストを下げないと、ドイツの企業がやっていけなくなる。ドイツは製造業を復活させないとダメだ』と言っていた。
さらにメルツ氏について、「極右政党の台頭を防ぐためには、中道保守勢力が具体的な解決策を示さなければいけないと言っていた」と明らかにした上で、「対決より解決を言っている国民民主党の政策や姿勢に似ているという感じがした」とその印象を語った。

そして玉木氏は原発政策をめぐっては、ベトナムのファム・ミン・チン首相との会談で、日本の技術をセールスしてきたことも明らかにした。
国民民主・玉木雄一郎氏:
原発の売り込みもしてきた。『ぜひ日本の企業の高い技術や能力を活用してほしい。中国をはじめとした他国もアプローチを続けると思うが、ぜひベトナムでの原発開発には日本企業との連携を』とアピールしてきた。
ベトナムは2016年、初の原発建設計画について安全性や国の財政状況が問題視され、計画を撤回。しかし、その後、2024年に再開が承認された。
玉木氏は、インタビュー取材から6日後の夜、東京・新宿駅前で街頭演説に立ち、ダボス会議での成果を訴えた上で、「よく野党では外交ができないと言うが、申し訳ないが、よほど今の政府与党の方が外交ができていないのではないかと思った」と政府に苦言を呈した。
玉木氏は2024年12月、代表役職停止3カ月の処分を受けた後、周囲に対し、「将来も見据えて外交面にも力を入れて取り組んでいきたい」と漏らした。
スイスの最低賃金4100円「チャンス、希望、夢を紡いでいくのが政治の仕事」
これまで国民民主党は「103万円の壁」の引き上げなど、国民の手取りを増やす経済政策を前面に掲げてきた。夏の参院選を見据え、さらなる支持拡大に向けて、党として政策や主張の幅広さを打ち出していく狙いも垣間見える。
国民民主・玉木雄一郎氏:
ダボスに行って言ってきたことは何か。日本はまだまだいける。何か悲観的なことを言った方が頭がよいように見える。問題があるのはもう分かっている。そんな中でチャンス、希望、夢を紡いでいくのが政治の仕事だ。
街頭演説の中で、玉木氏はこう訴えると共に、開催地・スイスのある事情に言及した。
国民民主・玉木雄一郎氏:
スイスは石油も天然ガスも出ない。でもジュネーブの最低賃金は24スイスフラン、日本円で4100円だ。
さらに、玉木氏はスイスと日本の共通点として、「電車がきっちり時間に遅れず来る」と国民の勤勉性を指摘すると共に、「スイスでできるのであれば日本は絶対もっとできる。国も大きい、人も多い、何より真面目で勤勉な人が揃っている」と訴えた。
筆者はある関係者が話していた「政治家は有権者に対して夢を売る商売だ。今の現実だけを語るのではなく、将来の夢を語るべきだ」という言葉を思い出す。
街頭演説に多くの若い聴衆が集まる中、玉木氏は、「あれが駄目だ、これが駄目だと分かっている。色々な制約がこの国にあることも分かっている。でもそれは評論家に任せればいい。その中からどんなチャンス、どんな希望、どんな可能性を見出して、それを形にして力を結集し、この国を前に進めていけるのか、それが政治のやるべき仕事ではないか」と訴えた。
「103万円の壁」の引き上げをめぐって、玉木氏は先述のインタビューの中で、「欧米各国も働く人たちの手取りを増やす政策を重視している」と指摘した上で、「引き続き178万円の実現に向けて頑張っていきたい」と語った。
一方、123万円を示した自民・公明両党の与党からは、178万円を主張するなら安定的な財源を示すのが責任だとの圧力が高まっている。さらに、他の野党の幹部からも「ただ減税をすればよいというものではない。明確な財源を提示すべきだ」などの厳しい声も出ている。
さらなる引き上げの実現に向けて、玉木氏をはじめ、国民民主側がいかに与党側を納得させることができるか。その説得力と発信力、そして世論の行方が鍵を握りそうだ。
(フジテレビ政治部 野党担当キャップ 木村大久)