高齢化が進む愛媛県今治市の大島で70年以上も続く「大島一周駅伝」に、15年ぶりに地元中学生チームが挑戦した。きっかけは、還暦を迎えた大先輩たちの感動的な走り。陸上部の若き精鋭たちは、島民の声援を受けながら、29.4kmのコースに挑んだ。

還暦ランナーからの波及

今治市大島で毎年開催される大島一周駅伝。コースは島をほぼ1周する7区間29.4kmで、70年以上も前から続く島の一大イベントだ。

この記事の画像(15枚)

高齢化と過疎化が進む中、2024年の大会に特別なチームが参戦した。「還暦!頑張れ」と観客の声援を受けながら走ったのは、かつて大島にあった吉海中学校のOBたちで結成された「吉海中OB祝!還暦」チームだ。

還暦を迎え駅伝未経験のメンバーもいる中での力走が思わぬ波紋を広げることになる。

2025年の参加チームは2024年から10チーム増え27チームとなり、その中に大島中学校陸上部の姿があった。大島の中学校からは15年ぶりの出場だ。大島中学校は吉海中学校と隣町の宮窪中学校が統合して2015年に開校した。参加する陸上部の1、2年生たちは駅伝初挑戦で、還暦チームの40年後輩にあたる。

陸上部の越智覚史顧問は「最初は『えー』みたいな感じでした。でもきいてみたらどのくらい走るか全然分かってなかったけど楽しみにしてるような」と、生徒たちの反応を振り返る。

1区間20分以内で襷を繋げ

大島中学校チームには、助っ人として2024年に還暦チームの監督を務めた池田邦広さんが指導。

「距離は長いしアップダウンがとても激しいところなのでかなりきついと思う」と、コースの難しさを指摘する。キャプテンの友崎郁弥くんは「繰り上げにならずに全員で完走することが目標」と決意を語った。

駅伝は規定時間内に走者が中継所に到着できない場合、襷(たすき)を待つことなく次の走者がスタートする繰り上げスタート制度がある。これを避けるには、スタートから2時間以内に7区の最終走者に襷をつなぐ必要があり、1区間あたりのクリアタイムは20分だ。

本番を1週間後に控えた練習日、実際のコースに立った生徒たちを待ち受けていたのは、想像以上の過酷さだった。上り坂と海からの強風に苦しみながら、1区の三島大翔くんは「思ったよりも距離が長かった」、2区の土岐進くんは「やっぱり大変でした。風も強くて途中の坂が大変でした」と、厳しい表情を見せた。平坦ではない道へのペース配分に苦心し、この日はほとんどの選手が目標の20分を切ることができなかった。

池田邦広さんは駅伝の魅力について「練習の中でみんなが苦しいことを耐えながら襷をつないでいこうと、心をつなぐというのが駅伝の魅力の一つなんでそういうところも経験させてあげたい」と語った。

襷がつないだ感動のフィナーレ

2025年1月19日第71回大島一周駅伝大会本番の日。
スタート前の生徒に意気込みを聞くと、このチーム唯一の女子選手、2年生の藤本若菜さんは「なんとか意地でも走りきる」と力強く述べた。

いよいよ号砲が鳴り、一斉にスタートした。1区を走る2年生の三島大翔くんは、専門の短距離とは異なる長距離に挑戦。前半から快調に飛ばし、4.9kmを19分32秒で走り、2区に襷を託した。

2区の1年生土岐進くんは、「ペース配分に気を付けたい」との言葉通り、4.35kmを18分52秒で見事20分切りを達成。

続く3区では、藤本若菜さんが、アップダウンの激しい3.55kmを17分22秒という好タイムで走り抜いた。「20分切れたので良かった。絶対に次の子にはつなごうと」という藤本さんの強い意志が実を結んだ。

4区ではキャプテンの友崎郁弥くんが「陸上は一人の競技だと思うんですけど、これはみんなでつなぐものなので、そこを僕がひっぱってみんなで襷をつないでゴールしたい」と語り、4.85kmを19分26秒で走破。「試走の時と同じくらいのタイムが出せた」と晴れやかな表情で話した。

5区の2年生村上絢亮くんは、短距離走と砲丸投げが専門。コースで一番山あいの上り坂が続く難所を精一杯走り抜き、3.7kmを20分20秒で襷をつないだ。「試走の時よりしんどくなっちゃいました。全力を出し切りました」と感想を述べた。

6区の2年生田中湊君に襷が渡った時点で1時間35分。25分以内で走れば襷がつながる重要な場面で、田中君は4.25kmを18分10秒という力走を見せ、「いつもより軽く感じました。本番だったから楽しかったからだと思います」と笑顔で語った。

最終7区は1年生の村上翼君。仲間が待つゴールを目指して3.8kmを19分48秒で走り切り、チームは2時間13分13秒、全体16位でゴールを迎えた。

友崎郁弥キャプテンは「みんなが頑張って練習したのでそれが成果になったので良かったと思います。僕はちょっとプレッシャーにもなったんですけど結果的には楽しめて走れました」と達成感を語った。

島の人たちのたくさんの声援を受けて走り切った大島一周駅伝。みんなで掴んだ大きな達成感は新たな陸上の魅力を教えてくれる。

(テレビ愛媛)

テレビ愛媛
テレビ愛媛

愛媛の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。