韓国・大田市の国立文化財研究所。2025年1月24日、長崎・対馬市にある観音寺の前住職、田中節孝さんが施設を訪れた。2012年に観音寺から韓国の窃盗団によって盗み出され、韓国内に持ち込まれた仏像の返還手続きに立ち会うためだ。
“盗難仏像”をめぐる韓国司法の流れ
仏像は、長崎県指定の有形文化財「観世音菩薩坐像」。この仏像を巡っては、韓国の浮石寺(ぷそく・じ)が、仏像は元をたどれば600年以上前に活動していた日本の海賊集団、倭寇が略奪したものだとして所有権を主張。保管する韓国政府に引き渡しを求めて裁判を起こしていた。

そして2017年、韓国の地方裁判所が言い渡した判決は「仏像は、略奪など正常ではないかたちで対馬に渡ったとみられる」というもの。韓国の地裁は「所有権は韓国側の寺にある」としたのだ。

これ以降、仏像問題が日韓の新たな火種としてくすぶり続ける。しかし2023年10月、韓国最高裁は「日本の民法上、対馬の観音寺が法人格を得てから20年経った時点で、仏像の所有権を取得したと認められる」という判決を下した。韓国の司法は、最終的に「仏像の所有権は対馬の観音寺側にある」と結論付けたのだ。

当時、敗訴した浮石寺の円牛(ウォヌ)住職が「野蛮な判決。私たちはこの判決を認めることはできない」と不満を露わにするなど反発の声があがり、仏像は、最高裁の確定判決が出た後も返還は実現せず時間だけが経過していた。

「渦巻く恩讐が払拭されていく」
盗難事件から約13年。浮石寺が「日本への返還に反対しない」としたことで、ようやく日本に戻ってくることになった対馬の仏像。1月24日、引き渡しに伴う式典が執り行われ、観音寺の田中前住職のほか韓国の仏教関係者らが出席し静かに手を合わせた。

田中前住職は「こうしたことを通じて実感が沸いてくる。この問題は仏像がどうとか、というよりも、その奥にある恨み辛み、恩讐が渦巻いている。それが払拭されていくと思う」と静かに語った。

返還の目処がたった仏像だが、対馬に帰ってくる時期は、約3カ月後となる。裁判で争った相手である韓国の浮石寺が、返還前に100日間の法要を要望しているためだ。

観音寺は当初、法要に難色を示していたが最終的には容認。浮石寺の住職は「いろいろと思うところはあるが、対馬の観音寺の了承を得て100日間の親見法会(法要)を浮石寺で開くことができる事に感謝する」と語った。
懸念材料は現職大統領を取り巻く動き
法要は、5月5日まで行うとされていて、予定通りであれば、仏像は5月中にも日本に戻ってくることになるのだが、懸念材料は韓国政治の混乱だ。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が現職で初めて逮捕され、弾劾裁判で、大統領を辞めさせるかどうかの審理も始まっている。

仏像を韓国で法要する100日間に尹大統領が罷免となれば、その大混乱のなかで、スムーズな返還に支障が出る可能性も否定できない。今後の動きが注視される。
(テレビ西日本)