長野市のおやき専門店「いろは堂」が創業100年を迎えた。和菓子店から始まり、学校給食用のパン製造を経て、現在はおやき専門店として成長を遂げている。独自の「揚げ焼きスタイル」で人気を集め、体験施設の開設など、常に新しい挑戦を続けてきた同店の歴史と、次の100年に向けた取り組みを紹介する。
「ひとつの通過点」
「がんばって、がんばって」
いろは堂の三代目・伊藤宗正会長(69)は、従業員に声をかける。

「あっという間の100年だったんだろうなと。ひとつの通過点でしかないのかもしれませんが、これからまた次の世代にバトンタッチして頑張っていけたらいいのかなと思う」と語る。
パン屋から生まれた「おやき」
いろは堂は1925年、小川村で和菓子店として創業した。
戦後、二代目の幸嘉さんが1954年に旧鬼無里村に店を移転し、学校給食用のパン製造を始めた。しかし、大手メーカーのパンに押されて陰りが見え始めたころ、転機が訪れる。

1964年、奥裾花渓谷でミズバショウの群生地が発見され、観光客に振る舞ったおやきが好評を博したのだ。1973年、おやきの商品化に踏み切った。
独自の「揚げ焼きスタイル」
いろは堂のおやきは、パン作りのノウハウを生かした独自の製法で作られている。
強力粉にそば粉とイーストを混ぜ、具材を包んだ後、一度油で揚げてからオーブンで焼き上げる。

三代目の伊藤会長は「揚げることによって、おいしさを閉じ込めることができます。揚げることがうちのおやきの一番の特徴」と語る。

この「揚げ焼きスタイル」は、売れ残ったおやきを揚げて「まかない」として出したところ好評だったことがきっかけだという。
海外進出と体験施設
1980年代、郷土食が注目されるようになり、いろは堂はおやきの専門店として再スタートを切った。
2014年には、タイ・バンコクに出店した。1年ほどで撤退したが、初の海外進出はおやきや日本の食文化の魅力を再認識する良い経験になったという。

2022年には新工場と共に「OYAKI FARM」をオープン。
四代目の伊藤拓宗社長(39)は「外に向けて幅広い地域とか、幅広い世代の人におやきの可能性とか、面白さを感じてもらえる場所にしたい」と語る。
次の100年に向けて
創業100周年を迎え、いろは堂は次の100年に向けた新たな挑戦を始める。
四代目の伊藤拓宗社長は「改めておやきの持っている力とかポテンシャルをたくさんの人に発信したいと思うのと、地域の人にも改めておやきの魅力に気づいていただけるような発信をしていきたい」と意気込む。

三代目の伊藤宗正会長は「われわれが考え出したのではなく、この地域で生まれ、育まれたものであるので、それをなりわいとして仕事をしていけることがありがたいですし、感謝しながら前を向いて頑張っていってもらいたい」と、おやきへの思いを語った。
(長野放送)