アメリカ・ニューヨークの地下鉄車両内でまたしても放火事件が起きた。

1月10日午前3時40分。ニューヨーク市警が公開した「J線」の車両内の防犯カメラの映像は、一部が加工されているが、座席に横たわって寝ている乗客の頭近くのゴミが燃え始めているのが分かる。

男が乗客そばのゴミに火をつけた(ニューヨーク市警が公開した動画より)
男が乗客そばのゴミに火をつけた(ニューヨーク市警が公開した動画より)
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すぐ横に立っている全身黒ずくめの男は、その様子をしばし眺めたあと、おもむろにゴミの紙皿や紙袋を火の上にかぶせ、さらに炎と煙があがった。

寝ている乗客の頭近くで炎と煙が…
寝ている乗客の頭近くで炎と煙が…

寝ていた乗客はホームレスとみられ、少し頭を動かすが、事態には気づいていないのか横たわったままだ。映像をみると、車両は川崎重工のアメリカ現地法人が製造し、導入されたばかりの「R211」なのか、比較的新しいようにみえる。

男は犯行後チラリと振り返り、下車した
男は犯行後チラリと振り返り、下車した

駅に到着すると、男は何事もなかったかのように下車した。

2024年末には地下鉄車両内で放火殺人事件…よみがえる恐怖

ニューヨーク市警は15日、動画の公開を公開するとともに、男が犯行前にニューヨーク市庁舎近くの警察車両や駐車中の車に放火したり、火をつけた紙コップをゴミ箱に投げ入れたりし、連続放火の疑いがあるとして情報提供を呼びかけた。幸いにして、寝ていた乗客などにケガはなかった。

しかし、ニューヨークの地下鉄では同様の事件が起きたばかりで、衝撃が広がっている。

その事件はクリスマス直前の2024年12月22日、「F線」の車両内で起きた。ホームレスだった女性(57)が寝ていたところ、中米グアテマラからの不法移民、セバスチャン・サペタ容疑者(33)に火をつけられたもので、女性は亡くなってしまった。

年末の放火殺人事件でサペタ容疑者はホームのベンチで火事を見ていた
年末の放火殺人事件でサペタ容疑者はホームのベンチで火事を見ていた

殺人と放火の疑いで逮捕・訴追されたサペタ容疑者は、「酒に酔っていて覚えていない」と容疑を否認しているという。

 “走るホームレス用シェルター” と州知事が危機感

「このカオスは終わらせなければならない」

14日、ニューヨーク州のキャシー・ホークル州知事は施政方針演説で、演台をたたきながら訴えた。

ニューヨーク州のホークル知事「このカオスに終止符を!」
ニューヨーク州のホークル知事「このカオスに終止符を!」

「地下鉄が“走るホームレス用のシェルター”であってはならない」

ホークル知事は、史上最高の10億ドル(日本円で約1550億円)を市民の精神衛生をサポートするシステムに投資したとし、その一環でホームレスなどが支援住宅に入れるようスタッフが働いていると強調した。しかし、特に冬の寒い時期は24時間運行をする地下鉄に暖を求めてホームレスが増え、目に見える効果を感じている市民は少ない。

打ち出したのは「6カ月間の全車両への警察官配置」
打ち出したのは「6カ月間の全車両への警察官配置」

その一方で、こんな安全対策も打ち出した。

「今後6カ月間、夜9時から朝5時までの間、全ての地下鉄車両に警察官を配置する」

エリック・アダムズ市長から協力も得ており、州もその費用を支援するという。また、ホームからの突き落とし事件も後を絶たないことから、転落防止用の柵をさらに100の駅に設置し、年末までに全駅にLED照明をつけるという。さらに、改札を飛び越えたり逆流したりする“キセル乗車”対策には、近代化された改札ゲートを導入すると明らかにした。

男は1月10日の連続放火後、依然逃走している
男は1月10日の連続放火後、依然逃走している

先日も地下鉄に乗っていた時に、閉まりかけたドアを力ずくで開け、大きな音を立てて飛び乗ってきた男性がいた。車両内の空気は固まり、緊張が一気に高まったのを覚えている。

警察官配置の「6カ月」が終わったらどうなるのか。市民は「カオス」が再来しない対策を求めている。
(取材・執筆:FNNニューヨーク支局長 弓削いく子)

【ニューヨーク市警が公開した放火事件の動画】

弓削いく子
弓削いく子

心身を整えるためにヨガをこよなく愛す。
Where there’s a will, there’s a way.
FNNニューヨーク支局長。ニューヨーク市生まれ。1993年フジテレビジョン入社、警視庁、横浜支局、警察庁、社会部デスクなど、駆け出しは社会部畑。2010年からはロサンゼルス支局長、国際取材部デスクを経て現職。