“受刑者が保護犬を育てる”ことで更生を支援する取り組みが始まった。広島・尾道市の刑務所が全国で初めて試験的に実施。犬を散歩させたり、おやつをあげたり、生き物と触れ合う受刑者は優しい表情を浮かべていた。
受刑者8人が保護犬とトレーニング
何気ない「犬の散歩」の画像。しかし、犬を連れて歩く男性は受刑者で、散歩している場所は刑務所の高い塀のそば。

12月11日、尾道市の尾道刑務支所は保護された犬を育てることで受刑者の更生を支援する取り組みを始めた。広島矯正管区と犬の保護活動を行っているNPO法人「ピースウィンズ・ジャパン」が連携し、試験的に始めた全国初の取り組みだ。尾道刑務支所の津村省吾看守部長は「刑務所の中でまわりから指示されて教育を受ける立場から、傷ついている保護犬を支える立場になり、犬の指導に役立てる」と更生効果に期待を寄せている。

今回のプログラムに8人の受刑者が参加。保護犬と信頼関係を築くトレーニングを受け、保護犬への接し方を学んだ。
「たぶん正面から来られると怖いので、最初は横からのほうがいいです。手のひらだとプレッシャーがあるので反対側で触ってあげてください。そうです、そうです」
教えられたとおり、優しく保護犬の体をなでる受刑者。かわいらしい犬の様子に思わず表情が緩んだ。

犬にリードをつけて歩くトレーニングでは、犬の名前を呼んで振り向かせ、おやつをあげることにも挑戦。
「3、4歩進んだらおやつをあげましょう」
訓練は室内で行われた。受刑者は時々おやつを与えながら進み、保護犬に「ロバート」と声をかけた。
「今、すごくいいタイミングでしたね。ありがとうございます」
受刑者にとっては、犬だけでなく刑務官以外の人と接することができる貴重な機会。出所後の生活をイメージしやすいというメリットもある。
一方、保護された犬は野犬が多くて人に慣れていない。今回の取り組みでは、犬にとっても多くの人と触れ合うトレーニングになるという。
「思い出した」受刑者の心に変化が…
保護された犬を育てるという初めての取り組みに、受刑者の心にも変化があったようだ。

プログラムを受けた30代の受刑者は「思い出しましたね。自分がちゃんと外で生活できていたこととか。刑務所の中だと、こういうふうに何かに対して優しい気持ちになることはあまりないので」と心境を語った。

NPO法人の担当者も、今回の取り組みを通じて受刑者たちの社会復帰に貢献したい思いだ。「ピースウィンズ・ジャパン」のプロジェクトマネージャー・仁尾愛美さんは「犬とかかわっている時の皆さんの表情が本当に明るくて、すごい笑顔なので。少しでも更生につながるようにしたい」と意気込む。

津村看守部長は「他者への共感性、思いやりの気持ち、他人に優しくできるような人間的な成長と社会復帰に向けた立ち直りの場としてのプログラムになればいいなと思います」と話した。
広島矯正管区は12回のプログラムを実施し、効果があると判断すれば正式に取り入れる予定にしている。
(テレビ新広島)