吾輩はネコ駅長である。名前は「やまと」と「ちどり」。どこで生れたか見当もつかぬが、1歳ほどになる兄弟だ。存続が懸念されるローカル線の小さな駅に1カ月で1700人以上の客を招いた兄弟ネコに会いに行った。
地域の未来を託されたネコ駅長
広島県内を走るローカル線、JR芸備線の志和口駅。
この記事の画像(15枚)駅前の「りょうま駅長記念館」という建物に、2匹のネコは暮らしている。世話をするのは中原英起さん。
中原英起さん:
2匹とも最初はおとなしかった。でも今は成長して動きがものすごく速くなった
中原さんの愛情をたっぷり受けてすくすくと成長する「やまと」と「ちどり」。実は、地域の未来を託された注目のネコなのだ。
2024年3月、JR非公認ではあるが「やまと」は志和口駅の2代目駅長、「ちどり」は初代副駅長に任命された。志和口駅では芸備線の利用促進につなげたいとして、ネコを駅長にする取り組みを2012年ごろから行っている。
ネコ駅長が誕生したのは5年ぶり。なぜ5年もかかったのか、そこには偉大な初代ネコ駅長と中原さんとの深い絆があった。
中原英起さん:
どうしても「りょうま」と比べるんです。頭の中でりょうまのことがあるから、なかなか次の駅長が決まらなかったのは事実ですね
中原さんと初代駅長「りょうま」の絆
ネコ駅長の取り組みが始まった2012年ごろから“初代ネコ駅長”として活躍した「りょうま」。
「りょうまくん、ネクタイしようね~。帽子をかずこうね~。はい、これで駅長さんじゃ」(「かずく」とは広島弁で「かぶる」の意味)
2018年の取材時、中原さんはいつものように小さな駅長の帽子をりょうまにかぶせた。りょうまは嫌がる様子もなく“身支度”が整うまでドンと構えている。
(Q:りょうまはどんなネコだった?)
中原英起さん:
それはもう、りりしく素晴らしかった。りょうまは駅の状態を完全に把握していました。安全な場所・危険な場所をわかっていたので、全く手のかからないネコでした
りりしくも人懐っこい性格で愛された初代ネコ駅長。駅長を務めた7年間に、りょうまの雄姿を見るために2万人以上が駅を訪れた。
しかし、2019年2月、りょうまは駅の構内で倒れ天国へと旅立った。
「りょうま、ありがとう」
お別れの日、100人以上の人たちがかけつけ、涙ながらにりょうまとの別れを惜しんだ。
家族として一緒に過ごしてきた中原さんも、あの日のことは今も忘れられないという。
中原英起さん:
家族同然だったし、私も大変ショックでした。親を亡くした以上に悲しみがありました
りょうま以上の駅長は見つからない。功績を称える記念館を作るほど、中原さんにとって特別な宝物だった。
あれから5年…志和口駅に再び活気を
偉大なネコ駅長が去った志和口駅は、かつてのにぎわいを失ってしまった。
中原英起さん:
今は1両でも空っぽです。いかに芸備線を利用する客が少ないか。その原因は少子高齢化。子どもは少ない。お年寄りは亡くなっていく。ますます疲弊化している現状です
地域に元気をもたらしたい。悲しみを乗り越え、2代目の駅長探しは5年に及んだ。
中原英起さん:
安芸高田市や廿日市市、志和(東広島市)などいろいろ探しましたが、最終的には私の自宅近くにいた“地域猫”ということで
決め手は、仲の良さと人懐っこさ。その2匹こそが「やまと」と「ちどり」だ。
「やまと、おいで。やまとー」走りまわる「やまと」を中原さんは優しく抱き上げた。2匹は今、新たな環境に慣れるためのトレーニング中。副駅長の「ちどり」は駅に行くとおびえてしまうため、今は「やまと」だけが仕事に取り組んでいる。ただ、駅長の帽子にはまだ慣れないようだ。
中原英起さん:
列車が来た時も連れていくけどやっぱり音に敏感なんですよ。りょうまは自由自在に歩きまわっていた。やっぱり慣らしの訓練がいります
“新任駅長”は中原さんに抱かれたまま駅の構内に入ったが…
おやおや、列車に背を向けてしまった。それでも、乗客が降りてくるとしっかり目を見て「ミャオ~」とごあいさつ。駅長としての風格が少しずつ出てきたようだ。
就任1カ月で来館者1700人超え
2匹が暮らす「りょうま駅長記念館」には、愛くるしい姿を見ようと全国各地からネコファンがやってくる。就任から1カ月で来館者は1700人を超えた。
訪れた人:
東京の練馬から来ました。ネコ駅長という仕事をしているネコがいることにびっくりして、見に行きたいなと思いました。館長さんが入ってきて名前を呼んだらぴょんってかけ寄って、かわいいなと
訪れた人:
2匹の前世はきっとJRの職員だと思います。駅長と副駅長ってことで、芸備線を使って「やまと」と「ちどり」に会いに来てくれる人が増えたらいいなと思います
(Q:2匹に会いに来てくれる人をどう思う?)
中原英起さん:
やっぱりうれしいですね。この2匹を駅長・副駅長にして良かった
一歩ずつ、一歩ずつ環境に慣れ、自分らしさ、いや…ネコらしさを前面に出した駅長・副駅長になってほしいと中原さんは願っている。
中原英起さん:
時間をかけてでも、2匹が駅の雰囲気に慣れて多くのネコファンが来てもらえるようになれば。2匹らしく、人懐っこいかわいいところをいかしてもらえればいいと思います
「りょうま駅長記念館」は火・金・日曜日のみ開館。ゴールデンウィークにかけて来館者が増え、5月5日時点で2,200人を超えた。静まりかえった町に再びにぎわいを招き寄せたニューヒーロー。偉大な先代ネコ駅長を目指し、まさに“招き猫”としての奮闘は始まったばかりだ。
(テレビ新広島)