政権発足からまもなく3カ月、勝負の年となる2025年を迎える石破首相。その看板政策である「地方創生」の実現にむけて、にわかに注目されているキーワードがある。それが「ふるさと住民登録制度」だ。

特定地域に継続的に関わる、いわゆる「関係人口」の人たちに、公的な「第2の住民票」を交付し、住民税を分割納税してもらうことなども視野に入れた構想。人口減少が地方中心に加速する中、その打開策となるのかどうか、現在地を探る。

「ふるさと住民登録制度」は関係人口を『見える化』する?

「ふるさと住民登録制度」は、11月下旬に政府が立ち上げた地方創生の有識者会議で、一部の委員から提言された。

元々、普段は都市部などに住んでいながら地方の活動に参加するように、特定地域と交流を続ける人々を「関係人口」と位置づける取り組みが各地で進んでいる。ふるさと住民登録制度は、この「関係人口」の人たちを「ふるさと住民」として地方自治体に登録することに、国がお墨付きを与えるという仕組みだ。

また公的な「第2の住民票」を交付し、住民税を2つの自治体に分割納税できるようにし、地方の財源確保につなげることも視野に入れている。

産直アプリなどを手がける株式会社「雨風太陽」の高橋博之代表
産直アプリなどを手がける株式会社「雨風太陽」の高橋博之代表
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政府の有識者会議で提言したのは、岩手県を拠点に活動し、産直アプリなどを手がける株式会社「雨風太陽」の高橋博之代表だ。高橋氏は、元岩手県議で、東日本大震災をきっかけに地方と都市をつなぐ事業に乗り出し、「関係人口」という概念を提唱してきた。

高橋氏は今回の提言の理由について「ふるさと住民登録制度を設けることでどんなノウハウ・力を持っている人が自分の地域に関わっているのか、まさに『見える化』されることが非常に大きい」と話す。

加えて住民税の分割納税となれば「自治体が財源確保のために必死になって地域に関わる人を増やす努力をする」と、各自治体の主体的な取り組みを促進する効果も指摘する。

関係人口の「見える化」を試みる取り組みはこれまでも

関係人口はこれまでも地域づくりの担い手として重要視され、全国一律に登録する制度こそないものの、自治体単位で関係人口の「見える化」を試みる取り組みは存在している。そのひとつが「ふるさと住民票」だ。

鳥取県日野町のふるさと住民カード(提供:鳥取県日野町)
鳥取県日野町のふるさと住民カード(提供:鳥取県日野町)

民間シンクタンクの構想日本が2015年に提言したもので、その地域に興味のある希望者に対し、「ふるさと住民カード」を配布するもの。登録者には、地域のイベントなどの情報が定期的に届くほか、自治体運営施設を住民と同じ価格で利用できるなどの特典が受けられる。

原発事故で住民が避難を余儀なくされた福島県飯舘村や北海道ニセコ町など全国15の自治体が取り組んできて、登録者は合わせて約8000人。石破首相の地元・鳥取県では、2016年に県西部に位置する日野町が全国で初めて導入した。

日野町は人口約2600人の町だが、2024年12月時点で町の人口の2割以上に相当する町外の約700人がふるさと住民票に登録。これがふるさと納税の利用に繋がったり、登録者が町主催のイベントに参加したりする事例もあったという。

単純な登録制度では限界も

ただ、登録者のうちどのくらいの人が実際に町を訪れ、地域の活動に参加したかなどは十分に把握できていないという。

日野町企画政策課の長尾涼さん
日野町企画政策課の長尾涼さん

日野町企画政策課の長尾涼さんは、「毎月イベント情報を送るにも郵送料などそれなりのコストがかかるが、見合った効果がなかなか見えてこない。本当に町に対する熱量の大きい人をどのようにピックアップするのかが課題」と話す。

実際に利用を始めたものの、これまでに3つの自治体がふるさと住民票の取り組みをやめていて、中には「ふるさと住民カードの使用機会がない」と指摘されたケースもあり、全国的な広がりには至っていない。

制度化にはハードルも

では、国が主導し、公的な「第2の住民票」や住民税の分割納税を含め、早急に制度化できるかと言えば、そのハードルは高い。

答弁する石破茂首相(12月11日衆議院・予算委員会にて)
答弁する石破茂首相(12月11日衆議院・予算委員会にて)

11日の衆議院予算委員会でふるさと住民登録制度の導入について問われた石破首相は「解決しなければならない問題はたくさんあるが、有効性を政府の中でよく検討したい」と述べた。

現行制度で住民票を2地域で作成することや、住所地とは別に居住地域などを認めることは選挙権・被選挙権を二重に与えるようなことで適当でないとの最高裁判例があり、二重課税も懸念されるためだ。

「ふるさと住民登録制度」を提言する高橋氏もこうした現状は認識している一方で、「この国のあり方を大きく変えるところまで踏み込まないと、もう地方は成長できない。このままいくと消滅すると思う」と警鐘を鳴らす。

また、国民の側にとっても、ふるさと住民登録を行うことのメリットが明確でないと、広がりは見込めない。ふるさと納税制度は、自治体間の税の移転により財源に穴が開く自治体が出る問題を抱えているものの、利用者へのメリットが明確なため爆発的に普及した。ふるさと住民登録は、ふるさと納税とは一線を画す考え方だが、利用者にメリットを感じさせる仕組みは求められるかもしれない。

「関係人口の拡大」明記の先に、来夏の「基本構想」

政府が24日に決定した地方創生2.0の「基本的な考え方」では都市と地方の両方に生活拠点を持つ「二地域居住」の推進や「関係人口の拡大」という文言が盛り込まれた。

石破茂首相(12月24日、新しい地方経済・生活環境創生本部にて)
石破茂首相(12月24日、新しい地方経済・生活環境創生本部にて)

次の焦点は、抜本的な対策としての「ふるさと住民登録制度」が、2025年夏にまとめる今後10年間の基本構想に盛り込まれるかどうかになる。地方活性化が待ったなしの中で、ふるさと住民登録制度が抱える課題をクリアして実現させることは可能なのかどうか、今後の議論と石破首相のリーダーシップが注目される。
フジテレビ政治部 安部大地(さんいん中央テレビ)

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政治部
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