それではなぜユイさんは計画を立てていないのでしょう。それは、プロジェクト三つを目の前にして「私には三つなんて手に負えない」「失敗しそう」と圧倒されていて、計画立ての着手を先延ばしにしたからです。ADHDを抱える人にはこのような不安からくる先延ばしがよく見られます。
具体的な計画を立てよう
【タスクは受けてからすぐにやることリストと計画を作成し、安心を得よう。】
ユイさんは、プロジェクトを同時に三つ抱え、一つを進行させながらも他の二つについて全く計画を立てられていないのです。これではちゃんと予定通りに遂行できるだろうかと不安になって当たり前です。
プロジェクトAに着手する前にすべてのプロジェクトについて具体的な計画を立てるべきでしょう。

ユイさんは、まず、A、B、Cの各プロジェクトの「やることリスト」をメモパッド上に作成し、それぞれの締め切りや所要時間も書き加えました。
次にガントチャート(工程管理表)で1カ月を見渡し、それぞれの締め切りを赤の縦線(図中では太い縦線)で入れることで、視覚的にどのプロジェクトが差し迫っているのかを把握しました。
最後に週間バーティカルタイプの手帳に既存の予定(図中の「展示会」「会議」「出張」など)を記入し、その隙間の空白時間にプロジェクトの各タスクを埋め込んでいきました。
これで、「いつかする」予定だったプロジェクトが「何月何日何時から何時に実行する」という確実な予定としてスケジューリングされたのです。
この過程で、ユイさんは抱えているどんな小さなタスクも大きなプロジェクトでも、すべてがこのスケジュール帳の順番通りにやれば間に合うんだと不安を軽減することができました。
その結果、安心してプロジェクトを進めることができるようになったのです。

中島美鈴
1978年福岡生まれ、臨床心理士。公認心理師。心理学博士(九州大学)。専門は時間管理とADHDの認知行動療法。