2024年のプロ野球、セ・リーグは巨人が4年ぶりに優勝し、パ・リーグはソフトバンクが4年ぶりに制覇、日本シリーズでは、リーグ3位から勝ち上がったDeNAが26年ぶりに日本一の栄冠を勝ち取った。
フジテレビ系列12球団担当記者が、そんな2024年シーズンを独自の目線で球団別に振り返り、来たる2025年シーズンを展望する。
第5弾は、夏場には首位に立ったものの最終的にはセ・リーグ4位に終わった広島東洋カープ。
誰もが信じられなかった9月の大失速
間違いなく優勝も見えていた。いや、優勝「は」見えていた。
23年は、5年ぶりのクライマックスシリーズ出場を決めた期待の新井カープ・2年目。
そのファンの期待に応えるようにシーズン終盤の9月を貯金14で迎えたはずだった。
その貯金はあっという間に消え去り、借金になった。
首位で9月を迎えたチームは、終わってみればクライマックスシリーズの舞台にすら立っていなかった。
この話を9月の時点で誰が信じられただろうか。プロ野球史上初の屈辱である。
セ・リーグワーストタイ記録となる月間20敗。

新井監督:
「まず私の未熟さが1番、そしてチームに本当の力がない、本当の強さがないと思います」
指揮官は責任を一身に担った。
踏ん張ってきた投手陣が崩れた。
8月までの防御率は2.25でリーグ1位。だが9月の月間防御率は4.29。それはリーグ最下位の数字だった。
打線も援護できなかった。
まったく打てなかったというわけではない。ただ、つながらなかった。
チームの月間打率や安打数を見てみると前半戦の方が悪い。
【9月月間打率】 .241(3・4月 .232 6月 .218 7月 .211)
【9月月間安打数】 204(3・4月 182 5月 201 6月159 7月 129)
しかし、とにかく打線が「つながらなかった」。
“こんなに打ったのにこの点数しか取れなかったの?”
そんな試合が多いように感じた。それもそのはずだろう。
9月に10安打以上打った試合は8試合あるのに、そのうち6試合に負けた。
8月までに10安打以上打った試合は32試合あったが、その中で負けた試合は5試合。
5カ月間よりも9月単月の方が負けた試合が多いのだ。
その中での平均得点を見てみるとその差は歴然である。
8月までは平均5.81だった得点は9月には3.63。2点以上も下がった。
多くのカープファンが広島の胴上げを見るために買ったであろう9月28日のチケット。
しかし、その試合終了後には巨人の胴上げをただ呆然と見つめる選手たちの姿があっただけ。本来望んだはずの景色は広がっていなかった。
「つなぎ」「守る」野球で投打が奮闘 順調だった前半戦
前半戦は本当に順調だった。
5月。甲子園のアナウンスにカープファンが湧いた。
「4番・サード・小園」。
一見4番バッターには見えない、どちらかというとリードオフマンタイプの小園海斗(24)が、勝負強さを指揮官に買われ、プロ初の大役を任された。
小園海斗:
「普段3番も打たせてもらっているので何も変わらないと思います」
4番初打席では、決勝点となる犠牲フライで点を上げると、その試合から8試合で6度の決勝打を放つなど、小園のバットは止まらなかった。
ここ数年、シーズンの出だしに苦しんだ。
【近年の小園海斗の開幕時の状態】
2021年 開幕2軍
2022年 4月打率1割台
2023年 開幕3週間で2軍落ち
その悔しさをバネに、春先のキャンプからストレッチなどに注力し、オープン戦から調子の良さをアピール。苦手としていたシーズン序盤を乗り切り、4番を任されるまでになった。
結果的にチーム唯一の全試合出場を果たし、4番を打ったのはチーム最多の71試合、打点はチーム内トップ。試合数、安打数、打点、盗塁、出塁率においてキャリアハイを達成した。

小園海斗:
「2本のソロHR以外は、打った打点ということなので打点が一番嬉しい」
セ・リーグの各チームで、最も4番を務めた打者では唯一の1桁ホームランだったが、ホームラン以外で勝負強さを見せつけた。
【セ・リーグ主な4番打者 HR以外の打点】
広島・小園 59
阪神・大山 49
DeNA・牧 39
巨人・岡本 38
ヤクルト・村上 32
中日・細川 29
そんな新4番の活躍もあり、首位で迎えた交流戦。
ソフトバンクを除くパ・リーグ5球団に勝ち越し、7年ぶりの交流戦勝ち越しを決めた。

その中でも多くのファンの心に残るのは6月7日のロッテ戦だろう。
23年、悔しさを滲ませた大瀬良大地(33)のエース復活を象徴する試合がそこにはあった。
2年連続で2桁勝利を逃し、23年自己ワーストの11敗を喫すると、オフには右ひじを手術。5年連続で務めた開幕投手を同期の九里に明け渡した。
そんな大瀬良がプロ11年目で達成した、プロ野球史上90人目のノーヒットノーラン。

大瀬良大地:
「ちょっとまだ信じられない、自分のことじゃないような気持ちです」
24年は勝ち星こそ恵まれなかったが、球団歴代2位となる37と1/3イニング無失点記録をたたき出し、キャリアハイの防御率をマークするなど、復活を遂げた。
【2024年成績】
大瀬良大地 25試合 6勝6敗 防御率1.86
その大記録がチームの勢いを加速させ、首位争いを繰り広げた。
思い出されるあの頃の感覚 優勝を知るベテランと夢見る若鯉の台頭
後半戦の始まり。
オールスターゲームが終わり神宮での3連戦を終え本拠地に戻ってくると、そこから24年最長となる7連勝を挙げた。
投打がかみ合っていた。
打線が先制すれば中継ぎ陣はその先制点を守りきり、先発が無失点に抑えていれば、なんとか1点をもぎ取った。
8月6日~14日にかけて行われた真夏の厳しい9連戦も勝ち越した。
その中でも8月14日のピースナイターは印象に残っているファンも多いだろう。
菊池涼介:
「今日は特別な日なのでこういう形で終われて本当に嬉しいです」
2点ビハインドで迎えた9回の、菊池涼介(34)の劇的な逆転サヨナラスリーラン。

懐かしい光景が広がった。
ホームベースを踏んだ瞬間の、“お兄ちゃん”と慕う新井監督(47)との抱擁。
それはまさに3連覇を果たした頃、選手時代の新井と抱き合う光景そのものに見えた。
この頃のカープにファンは感じていただろう。優勝したあの頃のように“相手に先制されても逆転してくれる気がする”という感覚。
そしてその菊池を師と仰ぐ矢野雅哉(26)の台頭も大きかった。
アッと驚くような高い守備力を武器にプロ4年目でショートのレギュラーを奪取。菊池と鉄壁の二遊間コンビを組んだ。
そして4年前の入団会見で「必ず取ります」と語ったゴールデングラブ賞を獲得した。
打撃では初の規定打席に到達。

8月31日に24年1号となるHRを放つと、翌日にはランニングホームランを放ち、新井監督はベンチで爆笑した。

【2024年成績】
矢野雅哉 打率.260 2本塁打 38打点 13盗塁
この次の試合から悪夢が始まることになるとは、まだ誰も思っていなかった。
届かなかったあと一歩 冷めやらぬ悪夢の中の苦しみ
9月最初の6連戦を1勝5敗で終えた。
気がつくと首位の座を巨人に明け渡し、ゲーム差1で本拠地の3連戦を迎えることになった。
首位の座奪還をかけた大事な巨人との3連戦初戦。
マウンドに上がったのは2021年から12戦連続で巨人戦での黒星がない、通称“巨人キラー”の森下暢仁(27)だった。
「いいパフォーマンスを出せるように」と意気込んで臨んだ試合だった。
しかし初回からホームランを浴びるなど嫌な流れを断ち切れず、初戦を落とした。
ゲーム差2で迎えた2戦目、もう負けは許されない。
アドゥワ、ハーンが8回を無失点リレーでつなぎ、2点リードで迎えた9回。
いつものように、栗林良吏(28)が抑えて勝利。
…するはずだった。
先頭の代打・中山礼都に四球を与えると、続く丸にも四球、そして坂本に左前打を浴び、24年シーズン初のノーアウト満塁の状況を作り出すと、押し出し死球、タイムリー、押し出し四球で逆転された。
試合後語ったのは「なんで制球を乱したかも分かっていない」。
絶対的守護神が崩れた。

流れを呼び戻せなくなったチームは、週に1度しか勝てなくなった。
気づけば阪神に2位の座を奪われ、8月24日時点で最大8.5ゲーム差あった4位・DeNAに、ついに3位の座も明け渡した。
ファンは9月の失速にため息をついた。
前月まであった、“逆転してくれる気がする”という感覚は、“何点取っていても逆転される気がする”という感覚に変わった。
だが、その悔しさを一番感じているのは、他でもない選手たちだった。
1-4で負けていた9月22日の巨人戦。
8回裏の猛攻で4点を取り1点リードの状況になった。
そして9回、あの悪夢の6失点を喫した巨人戦以降初めて、栗林がマウンドへ舞い戻った。
あの日と同じ先頭バッターの中山をピッチャーライナーに仕留めると、続く丸をセカンドゴロに打ち取った。
そして最後は浅野を空振り三振に仕留めると、渾身のガッツポーズ。
前回対戦で挫折を味わった巨人を相手に、リベンジセーブを果たした。
そしてこの舞台の立役者とも言えるのは、8回裏に逆転タイムリーを放った末包昇大(28)。
チームを20試合ぶりの逆転勝利に導いたその時のヒーローインタビューに、ファンは心を打たれた。

末包昇大:
「もちろんチームも悔しかったですし、7回・8回、試合が終わっていない中で空席が目立って、本当に悔しいですよ。でも、それは仕方ないなと思います。そういう、応援したいなと思えるチームになりたいなと思います」
その瞳には溢れ出す思いがあった。
来季の戦いへ 指揮官はすでに前を見据える
歴史的な大失速で悔しいシーズンとなった2年目の新井カープ。
24年シーズンの戦いを受け、監督は最終戦の挨拶でファンに「秋季キャンプは厳しい練習になる」と明言した。

実際、秋季練習では異例となる、初日からロングティーを行い、練習時間は朝9時から午後5時になることもあった。
また秋季キャンプでは、とにかく打ち込む量が多く、ほぼ毎日ロングティーを行った。
1日に1000スイングを超える日もあった。
入団前から目指していたゴールデングラブ賞を獲得した矢野も、当初打診されていた湯布院のリハビリキャンプを断って、秋季キャンプに臨んだ。
それは、2月の春季キャンプ初日から一番乗りで練習に励んだり、契約更改で「自分では打撃も守備もやりきったというのはなかった」と語った姿に表れているだろう。
来季へ掲げた目標は「盗塁王」。
現状に満足せず、走攻守すべてにおいてレベルアップを目指す矢野の姿に、来季への期待も高まる。
また9月末に涙を見せた末包も最年長で秋季キャンプに参加。
この秋は打撃フォームを一から見直し、ロープを使った練習でバットをしならせる感覚を培った。
ケガによる2度の離脱で悔しい思いをした24年。中堅の位置を担う28歳は、「レギュラーで出る」という目標は変わらずに、若手世代を引っ張っていく。
新井監督史上最も過酷な練習が始まったこの秋。
就任3年目を迎える来季に、選手それぞれが24年の悔しさをどのように晴らしてくれるのか、ファンの期待は高まる一方だ。
(文・新津佑妃乃)
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