唾液は、食べ物を軟らかくする、消化する、口の中の潤滑性を上げるなど、噛むことや飲み込むことになくてはならない役割を果たすが、高齢者は若い人に比べて唾液の分泌量が少なく、口の中が乾燥しやすい。
「さらに、血圧の薬など、高齢者が飲んでいる多くの薬の中には口腔乾燥をもたらす成分が入っているため、唾液の分泌量が少なくなってしまいます」
しゃべる・歌うことがお勧め
このような問題への対策について、井上さんはこう話す。
「『舌』は飲み込む時に重要な器官で、筋肉の塊です。常に使っている人はあまり心配がありません。意識的に舌を鍛えるトレーニングをしてもよいですが、おしゃべりをしたり歌をうたったりするだけでも予防につながる。頭の働きにも関係することで、認知機能の低下を防ぐことにもなります」

無理に人としゃべる時間を設ける必要はないが、舌と口に意識を向ける機会を増やしてほしいという。その意味では、毎日の歯みがき・うがいなどの口腔ケアも大切だという。
口の中をきれいにすると、食べ物の味が分かりやすくなり、唾液の分泌量も増えるそうだ。
飲み込みにくさは病気の場合も
「衛生状態を含め、口に興味を持ってもつことで、『食べにくい』や『しゃべりにくい』といった機能の変化に敏感になることも大切」と井上さん。
毎日の食事で、硬いものや乾燥したものなどの特定の食べ物が食べにくい、時々むせる、何となくしゃべりにくくなった、食べる時間が遅くなったと感じる場合、呼吸器疾患や口腔がん、脳梗塞など、重大な病気の疑いもあるという。その場合はただちに病院へ行き診察を受けてほしい。
高齢者の窒息の原因は、身体機能や認知機能など複雑な要因が混ざり合って起こることがわかった。今一度、自身や親の健康状態や日常生活について話し合ってみるのもいいだろう。