自民・公明両党は、2025年度の税制改正大綱を決定した。「年収103万円の壁」の見直しでは、「123万円」への引き上げを打ち出した。
「123万円」だと手取り増効果は限定的
所得税がかかり始める「103万円の壁」をめぐっては、原則すべての人に一律で適用される「基礎控除」を現在の48万円から58万円に、会社員などに必要経費として適用される「給与所得控除」は、最低保障額部分を55万円から65万円へと、それぞれ10万円ずつ引き上げる。

この結果、所得税の非課税枠は、年収190万円未満の人はあわせて最大20万円、年収190万円以上の人は10万円の引き上げとなる。ここ30年で生活に身近な物価が20%程度上がっていることなどを踏まえたとした。住民税については、「給与所得控除」分のみを10万円引き上げる。2025年の所得から適用し、2025年分は年末調整などで対応する。
「123万円」への壁の引き上げにより手取りが増える効果は、第一生命経済研究所の試算では、年収400万円の会社員の3人世帯の場合(配偶者は専業主婦(夫)、子どもは中学生以下)、年間約5000円、年収600万円では1万円、800万円では2万円となる。
国民民主党の主張を踏まえて、基礎控除を「178万円」に引き上げた場合の手取り増は、それぞれの年収で11万3000円、14万6000円、22万7000円と試算されていた。
引き上げ水準を「123万円」としたことに加えて、住民税の「基礎控除」を対象から外したことにより、178万円のケースと比べた手取り増の効果は大きく薄れることになる。
一方で、税収の減少分は、178万円に引き上げた場合7~8兆円と見込まれていたのが、6000~7000億円へと圧縮される見通しだ。

「103万円」をめぐるもうひとつの壁も見直す。大学生年代の子を持つ親などの税負担を軽くする「特定扶養控除」では、子どものバイトなどの年収上限を「103万円」から「150万円」に引き上げるとともに、上限を超えた場合も年収「188万円」までは控除を適用して段階的に縮小し、世帯全体の手取りを減らないようにするしくみを新たに設ける。
バイト学生本人の税負担をなくす「勤労学生控除」というしくみでも、本人の年収上限を引き上げ、バイト年収「150万円」までは適用が受けられるようにする。
住宅ローン減税…子育て世帯向け優遇措置を延長
住宅ローン減税などでは、子育て世帯向けの優遇措置を続ける。ローン減税では、年末残高の0.7%分を所得税などから差し引くことができ、残高には一定の上限が設けられている。

現在は、19歳未満の子を扶養している場合や、夫婦どちらかが40歳未満の場合、年末ローン残高の上限に500万円から1000万円が上乗せされることになっている。
また、子育てのためのリフォームをした場合、最大25万円を税額から差し引くこともできる。こうした優遇措置は今年末が期限だったが、2025年末まで1年間延長することにした。
ガソリン税については、1リットルあたり25.1円が上乗せされている暫定税率を「廃止する」と記したうえで、自動車関係諸税は「中長期的な視点から、車体課税・燃料課税を含め総合的に検討し、見直しを行う」とした。

防衛力強化の財源を確保するための増税は、法人税とたばこ税では2026年4月に開始する。法人税は、課税標準の税額から500万円を差し引いた額に4%を付加する「防衛特別法人税(仮称)」を新設し、たばこ税は、2026年度に加熱式たばこの税率を引き上げて紙巻きたばこにそろえ、その後、たばこ全体の税率を2029年4月にかけて3回に分け1本あたり0.5円ずつ引き上げる。一方で、所得税の増税開始時期を、今回は決めなかった。
高校生年代の子を持つ親などの税負担を軽くする扶養控除については、児童手当の高校生年代への拡充にあわせて縮小する方針だったが、結論を持ち越した。
「178万円を目指す」とうたうも…
「103万円の壁」をめぐり、大綱では、「123万円」への引き上げを掲げながらも「国民民主党の主張する178万円を目指す」と明記し、「引き続き関係者間で誠実に協議を進める」とした。

財源については、123万円への見直しでは「特段の確保措置を要しない」とする一方で、「今後、これを超える恒久的な見直しが行われる場合の財政影響分は、必要な安定財源を追加確保するための措置を講ずる」とうたっている。

自民・公明両党と国民民主党との話し合いは来週改めて行われ、年明け以降も、修正含みの異例の協議が続きそうだ。
コロナ禍以降、歳出圧力が一段と増しているなか、負担増をめぐる結論が先送りされた分野が目立つ。長期的視点に立った税制論議が十分尽くされたとは言い難く、自民・公明両党が少数与党となったことの影響が広く及ぶ改正内容となった。
(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)