臨時国会で与野党の攻防が繰り広げられる中、少数与党のリーダーとしての現在までの石破首相をどのように評価すべきか。また、2025年の国会や参院選などをどのように見通すことができるか。
「BSフジLIVE プライムニュース」では、伊吹文明氏と先﨑彰容氏を迎え議論した。
政治家の権威が崩壊することの危険性とは
竹俣紅キャスター:
衆議院では政治倫理審査会が開かれた。初日の様子をどう見たか。
伊吹文明 元衆院議長:
それぞれいろんなケースがある。選挙で貶めるために一律に「裏金議員」と言うことは品がない。メディアも注意して欲しい。ただ、政治資金規正法違反を犯したのだということは自覚しなければならない。
また十万〜百数十万のお金の場合は秘書が処理したと思うが、それは自分の責任だと自覚すること。政倫審で稲田朋美さんはその通り言っていた。
先﨑彰容 日本大学教授:
第一に、政治とカネの問題が出たとき、政治家は出処進退をはっきりとすべきだった。ある種の崇高な仕事をしているからこそ、お金で不正があれば全責任を取って身を引き選挙で出直すのだ、と。だが政治家という権威の価値を貶めて崩壊させ、戦前と同じく国民に議会制民主主義への不信感を植え付けてしまった。
第二に、23人の出席者が政倫審の非公開を望み批判されたが、この閉塞感のある日本社会全体が、人を吊し上げる感覚の中で公開しろと言っているなら、公開の本来の趣旨と違うことが起きる危険性がある。
反町理キャスター:
政治家は道徳的であるべきかという問題。
伊吹文明 元衆院議長:
「最高の道徳であるように振る舞わなければいけない」。同時に、権力がなければ政策は実現できない。権力とは多数であり自分の意見に従わせる力。それを手に入れるにあたっては道徳的でないこともしなければいけない。だがそれが大衆にどう受け取られるか。
そこが崩れると、議会の権威、政治家への評価も崩れてくる。
先﨑彰容 日本大学教授:
今はちょうど過渡期にあり、政治家に文句を言ったりできるという点で、権威はある意味崩壊している。先進国は総じてそういう状況にある。だが権威というものがあったのだということを覚えておかなければいけない。この1年を振り返れば、SNS含め民衆の声が良くない形でポピュリズム的に物事を左右しすぎている。
政治家は権力を取り扱う人間として当然常に謙虚でなければいけないが、我々もある意味謙虚であらねばならない。情報に左右されないことを、どこかで意識していなければ。
竹俣紅キャスター:
直近のFNN世論調査では、石破内閣の支持率は45.9%で前月比2.1ポイント増、不支持が47.7%で2.1ポイント減。
先﨑彰容 日本大学教授:
少数政党が多く出て多党化していることには、政策が小さくなり前に進まない危険性がある。例えば安倍政権では、良くも悪くもアベノミクスという言葉が踊り議論を展開できた。岸田前総理が、総裁選に登場したときは「新しい資本主義」の良し悪しが議論になった。権力を持つ政党はその言葉で試合をするプラットフォームを作れる。
だが今回ずっと踊っているのは、103万円の話。この小ささにはかなり問題がある。そして3党協議の決裂を見ても、政策が回らない雰囲気が国民に伝われば、閉塞感がさらに強まる。
伊吹文明 元衆院議長:
石破さんは少数与党の総理で、どうしても政権維持に気を配らなければいけない。その結果筋を曲げたりすることがあれば非常に危険。また野党の責任についても十分に議論しなければ。
例えば、不信任案が出されて仮に通れば解散せずに総辞職して、どうぞ野党で政権を作ってくださいと言えばよい。要求通りにはできないことをわかってもらわないと、この状況は解決できない。
僕は今現職でないから、このように筋論を言っているが、国民民主党は比例代表の得票率が10%程度の政党。「これが世論」というわけではない。少数与党でも自民党はしっかりしてほしい。
先﨑彰容 日本大学教授:
もう一点、日本に貧困層と呼ばれる人が約1000万人いる。古い政党なら共産党が言いそうなことをれいわ新選組が新しい形で言ってそこに登場し、もはや無視できない9議席を取った。また日本には、移民が年に30万人以上入っており増え続けていく可能性が高い。
すると、民族主義的な考え方が出てきて、日本保守党や参政党などが声高に言う。ヨーロッパではかなり以前から起きている問題が、いよいよ日本に上陸する。うまく自民党が調整できないからそれらの政党が出てきて、政治とカネへの不信感が最後の引き金を引いて、多党化してしまった。
公共の精神で“大きな話”をする政治家がいない
竹俣紅キャスター:
12月11日に自民・公明・国民の3党が、いわゆる103万の壁について国民民主党の主張する178万円を目指した2025年からの引き上げに合意した。
翌12日には、維新と教育無償化の協議開始で合意。その他にも野党の主張を受け入れ2024年度補正予算が成立、また政治改革関連の3法案が衆院を通過した。与野党の姿勢をどう見るか。
先﨑彰容 日本大学教授:
僕は最近、103万円の話などがあまりにも踊っている、その踊り方に対して怒りがある。例えば7兆円の税収減の可能性があるという話がある。
一方で、地方において医療費や給食など全て無償化する話がある。すると、財源の問題が今の日本にとって最大の問題になる。逼迫(ひっぱく)した社会保障費に手をつけると言える政治家は出てくるか。国民も馬鹿ではない。国もお金がない中「お金をこう使わせてください」と全体の話をする政治家がなぜいないのか。
伊吹文明 元衆院議長:
豊かな国ではどこでも起こっている状況。いろいろな価値観が、国境を越えてSNSで自由に入ってきて、それを受けとめる政党がたくさんできる。
そのとき、国民が安定を求めるのか、悪く言えば個別の国民におもねって人気取りをしていく政党に票を入れるか。これは、国民主権の民主的政治の危機。
国民に「もう一度組織に対する帰属性や公共の精神を取り戻して民主主義の投票をしよう」と呼びかけ、「それに対し私はこういう国家像を作りお応えする」という姿勢が政治家にないのでは。
先﨑彰容 日本大学教授:
今、政治家が「金が全てじゃない」と言えば、炎上して終わりだから言えないのはわかる。だが「公共的なことを必死でやるからついてきてください」という構えを見せないといけない。
G7のような国では、軒並み民主主義の制度がうまく機能しなくなり、ヒトラーが出てくる前の戦前のドイツと同じようになっている。一方で、権威主義的な国家は台頭している。時代にそぐわなくとも、構えを見せる大人がいなければいけない。
財源を示さず支持者を拡大する国民民主党の危険性
竹俣紅キャスター:
衆議院選挙で議席数を4倍に増やした国民民主党は、臨時国会でキャスティングボートを握り、与党と野党の関係を変化させたようにも見える。10月に1.3%だった政党支持率は、11月に10.1%へ急上昇、12月には11.3%となり立憲民主党を逆転した。10〜30代に最も支持されているという結果も出ている。
先﨑彰容 日本大学教授:
先日の街頭演説で、役職停止中の玉木代表がニコニコ笑いながら「無役の玉木でーす」と出てきた。最後には「私が言っていることを皆さん支持してくれますか?」、わっと反応があり映像が終わる。都知事選における石丸候補の喋り方と全く同じ。
自分たちの力を拡大する戦略だからそれは構わない。ただ現象として考えたとき、この様子を皆が写真に撮ってSNSに載せる。SNS上で支持者だけが集まって“島宇宙化”する。
そして、その現象が街頭演説の場で可視化されている。玉木さんに対し、賛成の声しか返ってこない場所になっている。イエスマンを意識的に作っていく戦略をどんどんやっていることは問題。
伊吹文明 元衆院議長:
103万円の壁を178万円に上げると提言すれば皆賛成する。だが、その財源をどうするかというのが政治。古川国対委員長は、財源を考えるのは与党の役割だと言ったが、これを考えて提言をしなければ政策にならない。
玉木さんは、政府や特に財務省は税金を取って給付に回してばかりだから減税は良いと発言した。ならば給付のどこをカットするか。「あなた方の公共サービスはこれだけなくなる」「ここの税金をこう上げるから納税者は負担をしてください」と国民に言わねばならない。
これを抜きに支持を取っているのは非常に危険。
竹俣紅キャスター:
2025年には、6月に国会が会期末を迎え、7月には東京都議選と参院選、11月には自民党が結党70周年。自民党はどう臨むべきか。
伊吹文明 元衆院議長:
大きな政治的ビジョン、判断するための政党としての価値観、その中での政策、それを動かしていく権力のやり取り。野党との関係を戦略的に進めなければいけない。
また、野党が引っ張りたいであろう政治とカネの問題にどう対応するか。参院選で負ければ自民党はしばらく政権に戻れないと思う。今回は自民党の改選数が比較的少ないので、それも考えて準備をして、負けないことを一番に考える。妙な妥協をせずに政策で争った方がいい。
先﨑彰容 日本大学教授:
例えば財源についてはお任せだと野党が言えば「あなた方は責任が取れない、どういう財源なのか言ってみなさい」と言える。自分に有利なように駆け引きを持っていくことが権力闘争のイロハ。自民党はその嗅覚を研ぎ澄ませなければならない。
2024年は民主主義が揺らいでいることがよくわかった1年だった。実際の影響が出るのは翌年。外交でもいろんな駆け引きが起きる。日本が役割を果たすため、どの政党であれ頑張ってほしい。
(「BSフジLIVEプライムニュース」12月17日放送より)