「紀州のドン・ファン」と呼ばれた資産家を殺害した罪に問われている元妻。
12日、和歌山地裁は、無罪を言い渡した。裁判長は理由をどう説明したのか。法廷で何が…。
■【動画で見る】涙を流した元妻「無罪判決」勝ち取った 紀州のドンファンの「55歳年下元妻」須藤早貴被告
■資産家を殺害した罪に問われる元妻へ無罪判決 傍聴席48に300人並ぶ

和歌山地裁・福島恵子裁判長:被告人は無罪。
判決の瞬間、須藤早貴被告(28)は、少し視線を下に落とし、すすり泣く様子が見られた。
記者リポート:午後1時すぎです。須藤被告を乗せたと見られる車が、和歌山地裁に入ります。
3カ月間という、異例の長期裁判の判決の日。
記者リポート:注目の判決を見届けようと、和歌山地裁前には傍聴券を求めて長い列ができています。
48の傍聴席に対し、およそ300人が並んだ。
■覚醒剤の入手を認めるも、事故や自殺の可能性を主張

事件が起きたのは、2018年。
和歌山県田辺市の資産家、野崎幸助さん(当時77歳)が自宅で死亡しているのが見つかった。
死因は、急性覚醒剤中毒で、何らかの方法で飲ませ殺害したとして、元妻の須藤早貴被告(28)が、逮捕・起訴された。
ことし9月から始まった裁判員裁判。
初公判で須藤被告は…。
須藤早貴被告:私は、社長を殺していませんし、覚醒剤を摂取させたこともありません。私は無罪です。
覚醒剤を売人から入手しようとしたことは認めたものの、「野崎さんに頼まれた」として、事故や自殺の可能性を主張した。
■検察側が立証しようとしたのは「事件性」、「犯人性」

一方、検察側が立証しようとしたのは、大きく2つ。
1つは、事件性。
野崎さんの知人など複数の証言から、「野崎さんは、これまでに覚醒剤を使用しておらず、先の予定を楽しみにしていた」として事故や自殺ではなく「殺人事件である」と主張。
もう1つは「犯人性」。
野崎さんが覚醒剤を摂取したとされる時間に、家にいたのは須藤被告だけで、犯人は「被告以外に考え難い」と主張した。
■「殺害したと言い切ることはできない」と元妻は無罪判決

そして12日、注目の判決。午後1時40分すぎ。
判決文を裁判長が読み上げ、野崎さんの死亡当時の状況について、こう述べた。
和歌山地裁・福島恵子裁判長:当日の状況、被告人と野崎さんの関係から、被告人が覚醒剤を摂取させることは可能だった。被告人が野崎さんと2人きりで野崎方にいた間に、普段と異なる行動をとっていたことが疑われる。
しかし、その上で、須藤被告が野崎さんを殺害したと言い切ることはできないと続けた。
和歌山地裁・福島恵子裁判長:第三者の他殺や自殺の可能性は考えられないが、野崎さんが誤って、覚醒剤を多量摂取した可能性はないとは言い切れない。

また、野崎さんが飲んだ覚醒剤については。
和歌山地裁・福島恵子裁判長:被告が覚醒剤の可能性があるものを買ったことは認められるが、氷砂糖の可能性もあり、覚醒剤に間違いないとは断定できない。
と述べた。
そして、インターネットで、被告が『完全犯罪』と検索していたことについては、「殺害を計画していなければ、検索することはありえないとまでは言えない」とし、「検索履歴をもって、被告人が野崎さんの殺害を計画したとは言えない」とした。
これらを総合し、裁判長は「被告人の犯行に合理的疑いが残る」として、無罪を言い渡した。
■判決後「すごく苦労した」と裁判員 検察は「判決文の内容を精査し、適切に対応」とコメント

須藤被告への判決の後、記者会見に応じた裁判員は…。
裁判員(20代・会社員):今回の裁判、期間が長いというのと、証人の数も多いですし、証拠の数も多いので、それを全て吟味した上で判決を出すのは、すごく苦労した点かなと思います。
一方、和歌山地検は「検察官の主張が受け入れられなかったのは残念である。今後については、判決文の内容を精査し、上級庁とも協議の上、適切に対応したい」とコメントしている。
■検察控訴の場合 判決が変わる可能性「ないとは言えない」と菊地弁護士

裁判では、覚醒剤を買ったことそのものも認定されなかったということで、これが判決に与えた影響は大きかったのだろうか。
菊地幸夫弁護士:大きいですね。今回の事件では、覚醒剤は被害者の命を奪う凶器みたいなものですから、それが凶器じゃなかったかもしれないということになる。あと誤飲の可能性があるという、これも大きいと思いますけれども、入口の点は大きいと思います。
無罪判決について、菊地弁護士は次のような印象を述べた。
菊地幸夫弁護士:もともと直接証拠がない、直接証明するものがなく、本体の周りを埋めていくという作業をしなければいけない難しい事件だったんです。そこが埋めきれなかった。周りを全部埋めて、中心を認定してもいいでしょうというレベルまでいかなかったという、簡単にいえばそういう判決ですね。
菊地幸夫弁護士:ただ見方として、一つ一つを見れば『検索履歴』だけじゃ犯人じゃない。だけど全体をつなげてみれば、覚醒剤も買いに行ってる、検索もしている、実行するチャンスもあったというような、いろんな見方ができる。この判決は全体の見方というよりは、むしろ個々のものを判断してという印象が強いなと私は思います。だから何を言いたいかというと、裁判官が変わればまた別の判断もあり得るかもしれないです。
今後の検察の控訴の可能性について、新たな証拠が出てこなかったとしても、高裁で判決が変わる可能性というのはあるのだろうか。
菊地幸夫弁護士:ないとは言えないと思います。ものの見方の考えの違いで、違う結論が出る可能性はないとは言えないと思います。
■『疑わしきは罰せず』の原理に則った無罪判決か

無罪判決が出て、この後、須藤被告はどうなるのだろうか。
菊地幸夫弁護士:今回の事件であれば無罪判決が出れば、須藤被告の身柄を拘留している勾留状というのは失効するのですけれども、別の詐欺の事件ですでに有罪の実刑が確定している身です。いわば受刑者が外に出てきて裁判を受けているという立場なので、今回の無罪判決によっても身柄はただちに開放はされないです。
関西テレビ 神崎博報道デスク:今回の裁判では、自殺、事故、事件・他殺という3つの線があると思います。このうち事故の線、つまり何らかの形で野崎さんが覚醒剤を入手して誤って太量に飲み込んでしまい、亡くなったという、事故の線が消せなかったことが一つあります。
関西テレビ 神崎博報道デスク:それと須藤被告が入手した覚醒剤が本物の覚醒剤なのかどうか。氷砂糖という話もありました。そこが本物かどうか確証が得られなかった。その2点でやはり疑問が残ったので、無罪という判決になった。やはり刑事裁判の大原則である、『疑わしきは罰せず』『疑わしきは被告人の利益』によって、原理原則に則ったような判決だったのかなと思います。
今回の判決を受けて検察側が控訴するのかどうか注目される。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年12月12日放送)