2歳の女の子は暴行で亡くなったのか、それとも突然死だったのか。
21人もの医師が証言台に立つ異例の裁判で、大阪高裁は28日、父親に逆転の無罪判決を言い渡した。
4年にわたる関西テレビの取材に、父親が明かした本音とは。
■【動画で見る】『逆転無罪』2歳の娘『虐待死』問われた父「娘と僕は本当の親子。僕は無実です」逆転無罪勝ち取る
■今西さん「くじけずに戦い続けて良かった」

菊谷雅美記者リポート:逆転無罪です。2歳の娘に暴行を加え死亡させた罪などに問われ1審で有罪となった父親に逆転無罪の判決です。
今西貴大さん(35):ほっとしました。胸が高鳴ると言いますか。くじけずに戦い続けてよかったと実感しています。
1審の有罪判決から3年8カ月、ようやく勝ち取った「逆転無罪」。
5年半にものぼる勾留を経た、ここまでの道のりは想像を絶する日々だった。
■当時2歳の義理の娘が突然苦しみだし、その後死亡 最後に一緒にいた父が逮捕

7年前、今西貴大さん(35)が当時2歳の義理の娘、希愛(のあ)ちゃんと大阪市東淀川区の自宅で遊んでいた時のこと。希愛ちゃんが突然、苦しみだし、呼吸がとまった。
今西貴大さん:『ウッ』となって!息してないです!早く来てください!
病院に運ばれた希愛ちゃんは、体に目立ったけがはなかったが、頭の中で出血が確認されたことなどから、病院は虐待を疑い通報。希愛ちゃんは意識が戻らないまま、7日後に死亡した。
その後、希愛ちゃんと最後に一緒にいた今西さんが、傷害致死罪などで逮捕・起訴された。しかし、今西さんは一貫して無罪を主張していた。
今西貴大さん(最初の保釈時の会見2018年12月26日):すごく愛情かけて育てていたのに、いきなり逮捕されて『お前がやったんやろ、何かやったんやろ』と言われるのは、すごく悔しいです。
■13人の医師が法廷に立った1審 「やってもないことで」懲役12年

大阪地方裁判所で行われた1審の争点は、希愛ちゃんの死因が、揺さぶりなどによる「暴行」か「病死」か。
13人の医師が法廷に立ち、見解の分かれる判断の難しい裁判となったが、大阪地方裁判所は「損傷は脳の深い部分にある脳幹を含んでおり、強い外力がないと生じない」などとして、懲役12年を言い渡した。
今西さんは当時の心境を、拘置所で書いた日記にこうつづっている。
今西さんの日記:こんなやってもないことで、こんなことになるなんて…ありえへん…。
■2審の判決を前に保釈が認められる異例の判断 保釈条件は行動監視「早く解放されたい」

その後、今西さんは控訴。法廷での争いは続いたが、ことし7月、ある異例の判断が出される。
今西貴大さん:荷物ヤバイ。
2審の判決を前に、今西さんの保釈が認められることになった。拘置所の外に出るのは、およそ5年半ぶりだった。
拘置所から自宅へ向かう車内で…。
今西貴大さん:ここ拘置所らへんでしょう?さっきまでここにおったんや。
1審で懲役12年の判決を受けた被告人の保釈が、判決の前に認められた前例はほとんどない。
■保釈中はGPSで常に居場所を監視

今西貴大さん:これがGPS。いつも首からぶら下げているんですよ。外行くときに。
首には、常に身に着けているGPS。保釈の条件として、行動を監視されながら生活を送っていて、自由の身というわけではない。
今西貴大さん:早く解放されたい。刑事裁判、長いの本当しんどいから。早く判決をというよりも、早く解放を。毎日こんなんつけとかないと、あかんねんもん。
■「こいつ黒やと思われたら、白に塗り替えるのは無理やと思う」

長い裁判を通じて、刑事司法のあり方に疑問を持った今西さんは、拘置所の中で法律の勉強を始めた。
新しい人生に向け歩みだす一方で、取材の中でもらしたのは、“一度、逮捕・起訴された人にしか分からない想い”。
(Q.自分がやっていないということを、どう伝えたい?)
今西貴大さん:やっていないことを伝える?伝えられへんでしょう。一回やったかもしれへんって伝わってんねんから。もう考えたこともなかった。だって無理やと思うもん。
今西貴大さん:こいつ黒やと思われたら、白に塗り替えるのは無理やと思う。身近な人だけ分かってくれていたら、それでいいと思う。
■有罪判決に備え拘置所での着替えや本を持参し判決に臨んだ

そして、2024年11月28日。
今西貴大さん:おはようございます。
弁護士事務所に現れた今西さんは、万が一、有罪判決が出て拘置所に戻らなければならなくなった時に備えて、着替えの服や本などを、かばんに詰めてきた。
今西貴大さん:きのう川崎先生から電話かかってきて、『俺の中のジンクスで、準備していることは絶対に起こらない。だから嫌やけどちゃんと詰めて持ってきて』って。
■「主文、被告人は無罪」

逮捕から6年、ついに迎えた2審判決。
石川恭司裁判長:主文、被告人は無罪。
無罪が言い渡されると、涙をぬぐった今西さん。
大阪高等裁判所は傷害致死罪について、「頭にけがを残すことなく、交通事故に匹敵するほどの外力を加えることができるかどうかは、常識に照らして相当、疑問がある」とした。
そのうえで、「被告人の供述や被害児の母親の証言を通じてみても、被告人が身体的虐待を加えていたことを示す事情は、見出せない」などとして、逆転無罪の判決を言い渡した。
■「判決の主文は無罪でしたが、僕は無実です」

今西貴大さん:判決の主文は無罪でしたが、僕は無実です。いわれなき罪を着せられ、刑事裁判の当事者となった僕は、人質司法・当事者に対する偏見。日本の刑事司法が抱える問題を、表と裏の両方から経験しました。
今西貴大さん:やっぱり法廷で、弁護団の背中を見て、すごく頼もしいし、かっこいいなと思った。それで法律の勉強を始めたんですけど、やっぱり川崎先生にみたいな刑事弁護人になりたいなと思っています。
無罪判決を信じ、戦い続けた6年。しかし、無罪を言い渡されても、失った元の生活が戻るわけではない。
■長きにわたり接見取材 弁護士資格を持つ記者が解説

吉原功兼キャスター:逆転無罪が言い渡されたこの裁判。長きにわたって今西さんを取材してきた上田大輔記者に話を聞きます。
28日の裁判で、無罪判決が出た瞬間の今西さんはどんな様子だったのでしょうか?
上田大輔記者:今西さんはあまり不安な様子を見せないタイプなんですが、前日は自宅で涙を見せていたらしく、やっぱり、かなり不安だったと思います。
上田大輔記者:判決で無罪と言われた瞬間に、隣に座っていた秋田弁護士の方を向き、握手をかわし、涙を拭っていました。

この裁判について、菊地弁護士は次のように見解を述べた。
菊地幸夫弁護士:非常に多くの医師がこの裁判にかかわっている。非常に難しい裁判だったんだと思います。医師たちの多くの見解を重ねていかないと、一審の結論(有罪判決)が出ないというのは、それだけ有罪の見込みが薄く、かなり危うい裁判だった。その中で長期の拘留が続いたことはかなり問題だと思います。
菊地幸夫弁護士:医師の見解が中心の裁判ですから、今西さんを保釈しても証拠隠滅はできない。だったら、身柄の拘束を受けずに裁判を行う。これは国連の人権に関する規約でもそれは原則です。これはだいぶ、反省点を残す裁判だといえると思います。
■狭い独房に閉じ込められた「必要以上の不自由」

吉原功兼キャスター:5年半に及んだ拘留期間。その中で何度も接見取材を行った上田記者。中でも印象に残ったこととは。
上田大輔記者:今西さんに接見していて思ったのは、“必要以上の不自由”なのかなと思いました。拘留される理由は、逃亡や証拠隠滅するおそれがあるということですが、拘置所にいる限りは逃亡や証拠隠滅はできない。
上田大輔記者:でも彼は狭い独房の中にずっといなければいけなかった。中からはもちろんドアを開けられない、閉じ込められている。『ここまでされる必要があるのか』と話していました。
上田大輔記者:5年半の拘置所生活によって、1.2以上あった視力が今は0.05になっているんですね。ずっと座って本を読んでいたと言っていたのですが、体もかなりボロボロになって、歯もかなり悪くなったりして、拘置所生活の過酷さがうかがえました。

吉原功兼キャスター:保釈が決まったのは2審の判決が出る前、今年の7月でした。そこからの4カ月間は、どのような生活を送っていたのかも気になります。
上田大輔記者:ここもかなり辛いと(今西さんが)話していたのですが、私は“被告人であることの苦しみ”を感じました。保釈について周囲から『自由になれて良かったね』と声をかけられたそうですが、でも本当に自由なのかなと。被告人であることは変わらないわけです。
上田大輔記者:1審で実刑判決を受けているわけですから、もし控訴棄却になったら連行されます。常にまた拘留されるかもしれないという苦しみをずっと抱えている。全然自由ではないというのを感じました。
吉原功兼キャスター:また、保釈後はGPSの装着を義務づけられていたといいます。
上田大輔記者:GPSは保釈条件として、どこにいるかというのを、弁護団が把握して、それを全部裁判所に報告しないといけなかった。これもかなり本人としては不自由な話。
上田大輔記者:あと、誰と会ったなど行動を報告しないといけなかったので、道でたまたま知人に会ったら、何時何分に会ったというのをメモしていて、かなり窮屈な生活だなと。それが辛くて、ほとんど自宅で過ごしていたと聞いています。
■上田記者「乳幼児が亡くなった場合に、どのように死因を判断していくのか、在り方を含めて考えなければいけない」

吉原功兼キャスター:今回の判決が今西さんに与えた影響はどのようなものだったのでしょうか。
上田大輔記者:本当は判決で『無実』だと言ってほしいと。今日の判決は、暴行か病死かはそこまで踏み込まなくても、外からの強い力でそうなったという証明が足りていないという『無罪』なんですね。だから彼が100パーセント求めていた判決ではない。
上田大輔記者:彼の言葉で『いったん黒と疑われてしまうと、白に塗り替えるのは無理』だという言葉が強いメッセージとして私の中に残りました。この判決だけでなく、彼をそこまで黒い疑いにしてしまった要因というものの在り方を考えていかなければいけないと感じました。
菊地幸夫弁護士:拘留されることで『ラベリング』と呼ぶんですが、『あいつは刑務所に入ったんじゃないか』と勘違いする人もいる。こういうことを避けるために、なるべく逮捕や拘留は慎重に行わなければいけない。裁判を受ける立場の人はできるだけ身柄が自由な状態で裁判を受けてもらうことを原則に、まずはそういうところを反省していくきっかけになればと思います。
上田大輔記者:1審の裁判から傍聴して取材していたのですが、2歳の女の子が亡くなった非常に悲しい事件。なぜ亡くなったのかを法廷の場で死因究明するという、非常に辛い事件でした。
上田大輔記者:それで時間がかかるということが本当にいいのか。死因究明は大事だし捜査しないといけないのは分かるのですが、そういう場が本当に今回のような場で良かったのか。もう一度、こういった乳幼児が亡くなった場合に、どのように死因を判断していくのか、在り方を含めて考えなければいけないと感じました。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年11月28日放送)