2歳の娘の頭に何らかの暴行を加えて死亡させた罪などに問われ、一審で懲役12年の実刑判決を受けた今西貴大さん(35)。
約5年半にわたる大阪拘置所での勾留が続いていたが、異例の保釈決定が出て自宅に戻って4カ月。11月28日、ついに二審判決の日を迎えた。
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■主文で「一審の有罪部分を破棄する。被告人は無罪」
この記事の画像(14枚)午前10時半から始まった判決で、大阪高裁は逆転無罪を言い渡した。
主文で「一審の有罪部分を破棄する。被告人は無罪」と告げられた瞬間、目を真っ赤にさせ、ハンカチで涙をぬぐった今西さん。 今後の乳幼児虐待事件の捜査に影響する可能性のある判決となった。
■「『うっ』となって、息してないです。早く来てください!」心肺停止で救急搬送された娘
ことの発端は2017年12月。大阪市東淀川区の自宅で今西さんと一緒にいた当時2歳4カ月の義理の娘が、心肺停止の状態で救急搬送された。
「『うっ』となって、息してないです。早く来てください!」。 今西さんは119番通報の際、慌てた様子でこう説明していた。
■意識戻らず亡くなった娘 病院の医師は「虐待の疑いがある」と通報 殺人の疑いで逮捕された父親
病院に運ばれた娘は、約30分後に心肺が蘇生しましたが、意識が戻ることはなく、7日後に死亡。 体に目立ったケガはなかったが、CT画像で頭の中での出血が確認されたことなどから、病院の医師は警察に「虐待の疑いがある」と通報。
2018年11月、今西さんは大阪府警に殺人の疑いで逮捕され、傷害致死罪で起訴された。
■「『お前がやったんやろ、何かやったんやろ』と言われてすごく悔しい」
約1カ月後に保釈された際、今西さんは会見を開いて無実を訴えた。
今西貴大さん 2018年:すごく愛情かけて育てていたのに、いきなり逮捕されて『お前がやったんやろ、何かやったんやろ』と言われてすごく悔しいです。
■肛門付近の約1センチの傷に対する強制わいせつ致傷罪など3つの罪に問われた父親 「虐待死」か「病死」か
しかし、会見の直後、再逮捕される。 大阪地検は、肛門付近の(時計の)12時方向にある約1センチの傷に対する強制わいせつ致傷罪と、1カ月前の左足の骨折に対する傷害罪で追起訴した。
今西さんは3つの罪に問われることになり、全ての罪を否認し続けた。
2021年2月に始まった一審の裁判員裁判。13人の専門医が証言台に立ち、死因が揺さぶりなどの強い外力(すなわち暴行)によるものか、それとも、心臓突然死だったかが争われた。
■「脳が交通事故並みの強い外力を与えられたときと同じようなダメージを受けて心肺停止になった」と検察側
検察側が重視したのは、脳の深部にある「脳幹」だった。
解剖を担当した法医学者は、「脳幹が溶けて、泥のようになっていた」と証言。 検察は、この証言を前提にした脳神経外科医の証言などをもとに、「脳が交通事故並みの強い外力を与えられたときと同じようなダメージを受けて心肺停止になった」と主張。
当時2人きりだった今西さんが暴行したとして、傷害致死罪など3つの罪が成立すると懲役17年を求刑した。
■「病気が原因で心肺が停止し、脳が低酸素状態になって出血した」と無罪主張した弁護側
一方、弁護側は、解剖写真を見て「脳幹」が溶けていることは確認できず、(事件当日の)心肺停止後から死亡まで人工呼吸器を装着したことによる症状である『レスピレーター脳』の可能性があるので、外力があったことの証拠にならないと反論。
さらに、一審の公判前整理手続きの過程で、弁護側は心臓から新たに切り出された部分を顕微鏡で検査した結果、「心筋炎」を発見。今西さんが事件直後の説明と合致するとして、「病気が原因で心肺が停止し、脳が低酸素状態になって出血した」と無罪を主張した。
■1審の大阪地裁は懲役12年を言い渡す
2021年3月、大阪地裁(渡部市郎裁判長)は、「脳の損傷は脳幹を含む広範囲のものであり相当強い外力がないと生じない」と認定。 交通事故並みの強い外力があったとする検察の主張についても「交通事故といっても態様はさまざまであり、人の手によって加えることができないものとはいえない」として、傷害致死罪が成立すると判断。
強制わいせつ致傷罪の成立も認め(骨折についての傷害罪は無罪)、懲役12年を言い渡した。
■「こんなことになるなんて…ありえへん…」父親が拘置所でつづった日記
今西さんは拘置所内で毎日つけていた日記にその時の心情をつづっている。 「もうどうでもいい、もうどうなってもいい。こんなやってもないことで、こんなことになるなんて…ありえへん…」
■控訴した父親 二審でも8人の医師が証言台に立つ異例の展開
二審も引き続き川﨑拓也弁護士と秋田真志弁護士らが弁護を引き受けることになり、今西さんは控訴。 検察も無罪になった骨折に関する傷害罪について控訴した。
去年5月に大阪高裁(石川恭司裁判長)で始まった二審。一審では13人の医師への証人尋問が行われましたが、二審でも新たに8人の医師が証言台に立つ異例の展開となった。
■「脳幹損傷を起こすような『強い外力』を示す所見は全くない」改めて無罪主張した弁護側
去年10月の公判では、一審判決で「強い外力」がある根拠とされた頭部CT画像の解釈を巡って放射線科医2人の証人尋問が行われた。
去年11月には、頭蓋内の出血が生じた時期が、心肺停止前かそれとも後かについて2人の医師(検察側は法医学者、弁護側は小児科医)の証人尋問が行われた。
ことし5月の公判で、弁護側は「二審での検察側医師は『所見はないが隠れている』『病理所見で時期不明の出血が確認できる』と話すだけだった。脳幹損傷を起こすような『強い外力』を示す所見は全くない。一審は、硬膜下血腫があれば外力があるという予断が生んだ誤判だ」などと主張して、あらためていずれの罪も無罪だと主張した。
■「今西被告と義理の娘が2人きりとなった短い時間で起きていることなどを総合的に評価すれば暴行があったと認定できる」と検察側
一方、検察側は「解剖時の脳の写真は一部であり、脳幹損傷の所見はないとは断定できないはず。3つの罪は一連の事案で、被告と義理の娘が2人きりとなった短い時間で起きていることなどを総合的に評価すれば暴行があったと認定できる」などとして、一審の判決を維持するよう主張した。
■超異例の電撃保釈
今西さんは、再逮捕後は一度も保釈が認められず、大阪拘置所で5年以上勾留が続いていた。
弁護側の弁論の最後、主任弁護人の川﨑拓也弁護士は「二審での3年半、今西さんは拘置所にただ一人…彼の人生は歩みを止めている」と声を詰まらせ、それを聞いていた今西さんが涙をぬぐう場面もあった。
それから2カ月後の今年7月。 急に事態は動いた。再逮捕後、退けられ続けてきた今西さんの保釈請求が認められたのだ。
■「逆転無罪」
一審で長期実刑判決を受けているにもかかわらず、判決直前に保釈が認められる異例の決定で、逆転無罪の公算が高まっていた。
ただ、GPS装着による行動把握などの保釈条件で、今西さんの生活には制限があることは変わらず、今西被告は希望と不安な気持ちのままようやく判決の日を迎えた。
午前10時半から始まった判決で、大阪高裁は「総合判断を欠いている」「判断枠組みを誤っており合理性を欠いている」などど厳しく批判し、逆転無罪を言い渡した。
■ハンカチで涙をぬぐった今西さん。静かな法廷に響く裁判長の声。
主文で「一審の有罪部分を破棄する。被告人は無罪」と告げられた瞬間、隣に座っている秋田真志弁護士の方を向いた今西さん。
秋田弁護士は、傍聴席から見ていても分かるくらい、強い握手を交わし、今西さんの目は真っ赤になっていた。
その後、今西さんは川﨑拓也弁護士にも何か声を掛けた。
判決文の朗読が始まるとハンカチで涙をぬぐった今西さん。 再び法廷は静かになり、裁判長の声だけが法廷に響き続けた。
(関西テレビ 司法キャップ 上田大輔 2024年11月28日)