アフリカ最大の天然ガス開発地 近くの街を占拠

「イスラム国」は、8月27日に公開した機関誌『ナバア』249号において、アフリカ南部モザンビークの北部に位置するカボデルガド州モシンボアダプライアの街と港を制圧し、支配下においたと発表した。

モザンビーク北部では、2017年からイスラム過激派による襲撃が頻発し、既に1500人以上が死亡、避難民は25万人を超えた。「イスラム国」入りを誓った武装勢力は、2020年3月にはカボデルガド州の3地区を占拠して領域支配を実行、5月にはイスラム法により統治を行うカリフ制国家建設を目標に掲げた。

モザンビークの街を制圧したと発表した「イスラム国」機関誌の最新版
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この一連の出来事は、実は日本の一般市民生活にも大きく関係している。

モシンボアダプライアから60キロ離れた地点には、アフリカ最大の天然ガス掘削開発地があり、その開発には三井物産と独立行政法人の石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が巨額の出資をし、権益の20%を保有しているのだ。

JOCMECは2004年、「石油等、石炭、地熱及び金属鉱産物の安定的かつ低廉な供給に資するとともに(略)、国民の健康の保護及び生活環境の保全並びに金属鉱業等の健全な発展に寄与することを目的」として設立され、そこには多額の公的資金が投入されている。

三井物産は2020年6月、モザンビークの「LNG(液化天然ガス)プロジェクトの最終投資決断」を行ったと発表。ホームページでは「本プロジェクトは、ゴルフィーニョ・アトゥン・ガス田を開発対象として、天然ガスの生産・液化からLNGの輸送までを行う上中流一体型事業です。2024年より年間1200万トンのLNGを生産する計画です」と説明している。

プロジェクト位置図(JOGMECリリースより)

東京ガス、東北電力、JERA(東京電力グループと中部電力の共同設立会社)などが、同プロジェクトのオペレーターである米国石油開発企業・アナダルコと10年以上にわたるLNG売買契約を既に締結している。

7月2日には、同LNGプロジェクトに国際協力銀行(JBIC)や三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行、三井住友信託銀行などが144億ドル(約1.5兆円)の協調融資を実施する方針を固めたことが明らかになった。

エネルギー安定供給の“希望の星”が抱える治安リスク

日本が官民一体で同プロジェクトに巨額の投融資を行う最大の目的は、エネルギーの安定供給だ。

エネルギー資源のほとんどを輸入に依存する日本にとって、エネルギーの安定供給は死活問題である。しかし、日本がエネルギー資源の多くを依存する中東の治安情勢は不安定さを増しており、2018年7月のイランによるホルムズ海峡封鎖の示唆、中国のイランやパキスタンとの連携によるいわゆる「真珠の首飾り」戦略の推進など、エネルギー安定供給のリスクが顕在化している。

モザンビークのLNGプロジェクトは、そうしたリスクヘッジのための希望の星であった。東日本大震災以降、原発にかわり電力のLNG依存が高まっていることも背景にある。

開発イメージ(JOGMECリリースより)

しかし、今回の事件は、同プロジェクト自体が深刻な治安リスクに晒されている現実を露呈させた。「イスラム国」は『ナバア』249号で、今回制圧したモシンボアダプライアは「十字軍のガス企業拠点の近く」だと明言している。

モシンボアダプライア港は同プロジェクトの輸送拠点港だったが、厳重に警備されていたはずの同港はわずか数日間の戦闘で「イスラム国」に奪取され、国軍兵士は敗走したと伝えられた。

同プロジェクト現場への直接的な攻撃はまだないが、6月には三井物産らとともに同プロジェクトを運営する仏資源大手・トタルの下請け会社であるフェニックス建設の車両が襲撃され、8人が死亡する事件が発生している。

モザンビーク軍は街と港を奪還できるのか

イスラム過激派は一般に、資源開発を行う外国企業や異教徒を「イスラム教徒の富を収奪する十字軍」とみなし、攻撃対象とする。

2013年1月にアルジェリアのインアメナスにあるガスプラントが襲撃された際には、日揮の社員ら日本人10人を含む30人以上が犠牲となった。武装勢力の1人は、攻撃対象とするのは「マリやアフガニスタンでわれわれの兄弟を殺害し、資源を略奪する者たちだ」と語ったと生存者が証言している。

モザンビーク北部では、現地に暮らすキリスト教徒も攻撃の標的とされている。

モザンビークのペンバ教区の司教は6月、ポルトガルのメディアとのインタビューで、イスラム過激派によって複数の教会が焼かれ、キリスト教徒が斬首され、若い女性が誘拐され性奴隷にされていると証言し、世界がこの惨状に全く見向きもしないことを嘆いた。

英のリスク調査会社・メープルクロフトのアフリカ専門分析官、A・レイメイカーズ氏は8月、モザンビーク北部のイスラム過激派の勢いは揺るぎないものであり、近隣諸国からの大規模な軍事的、財政的支援、国軍の抜本的な構造改革がなければ、モザンビーク軍が今後半年間で勢力を挽回することはできないだろうと述べた。

ノルウェーのシンクタンク・CMIは報告書で、モザンビーク軍の司令官と兵士の間には大きな亀裂があり、実際の戦闘に投入される新兵はほとんど訓練も受けておらず、訳のわからないまま戦わされるため士気が低く、容易に制服や武器を捨てて戦いから逃げ出す、と分析している。

また、経済記者のA・キマニ氏は8月、同プロジェクトに対する「アフリカ最大の投資」は、同地域でのテロと暴力が拡散すれば、天然ガスの生産開始以前に煙に巻かれてしまう危険性すらあると指摘している。

仏資源大手のトタルは、「イスラム国」がモシンボアダプライア制圧を発表したのと同じ8月27日に、LNGプロジェクトの安全確保に関する協定をモザンビーク政府と締結したと発表した。同国の鉱物資源・エネルギー相は、同プロジェクトがモザンビークに利益をもたらすものであり、外国企業の継続的投資を可能にするため安全な操業環境の構築に努めると述べた。

しかし、モザンビーク一国でモシンボアダプライアを「イスラム国」から奪還し、持続的に治安を維持していくことができるかどうかについては、疑問が残る。

遠いアフリカの国で今起こっている「イスラム国」との戦いは、私たち日本人が将来にわたり、安定的に電気やガスを使用できるかどうかという問題に直結している。

モザンビークのプロジェクトは、もはや日本一国でどうにかできるような問題では全くなく、多くの国による軍事的、財政的支援なしには立ち行かないような状況に置かれていると認識すべきであろう。

【執筆:イスラム思想研究者 飯山陽】