拡大するインバウンド需要を取り込もうと、大手航空会社などが新たな観光コンテンツを作る動きが愛媛県内で進んでいる。その舞台となる西日本最高峰・石鎚山で、神秘的な体験ができるツアーの商品化に向けた取り組みが行われた。
神秘の扉を開く 古の山岳信仰体験
2024年11月5日、石鎚(いしづち)神社を舞台に行われたのは、「石鎚山 古(いにしえ)の山岳信仰体験」と名付けられたモニターツアーだ。

参加者たちが神門をくぐり、境内に入ってくる様子を見守る中、このツアーの狙いが明らかになっていく。
大手航空会社・日本航空が新たな観光需要を掘り起こそうと、観光庁が行う「地域観光新発見事業」の採択を受けて実施している。

日本航空・西日本支社松山支店の澤田康子支店長は、このツアーの意図を「自然のアドベンチャー、それから山岳信仰、水と食、全てがそろっているところで、ここを合わせることによって多くの方にお越しいただけるのではないかなと考えたところです」と語る。

旅のテーマは「スピリチュアル」。神秘的な石鎚神社の世界を体感することが目的だ。観光や自治体の担当者のほか、日本に住む外国人が「インバウンド目線」でモニターとして参加し、ツアーの商品化を目指す。

まず参加者たちを待ち受けていたのは、穢(けが)れを清める滝行だ。今回は代表者1人のみの挑戦となったが、他の参加者も滝行の前に行う儀式を一緒に声を出しながら行い、「禊(みそぎ)」について学んだ。
五感で味わう 神秘と文化の融合
続いて行われた神社ウォークでは、十亀博行権宮司が境内を案内し、参加者は神社の信仰や文化について理解を深めていった。

続いて、神社の会館に入った参加者たちを待っていたのは、心身を清めるために食べる「潔斎食(けっさいしょく)」と呼ばれる料理だ。地元産の食材をたっぷりと使い、いもたきや鯛めしなど愛媛らしさも前面に出た献立となっている。
香川からの参加者は、「鯛がレベルが違うと思います。愛媛の全てが詰まったみたいな感じで、デザートもみかんで今から食べるのが楽しみなくらいです」と絶賛する。

台湾出身の参加者も、「とてもおいしいです。からあげ。ホウレンソウはとても甘いです」と、日本食の新たな一面を発見したようだ。
夜の神社が織りなす幻想的な世界
日が暮れても、ツアーはまだ終わらない。今回のポイントは「夜のコンテンツ」だ。澤田支店長は、「お越しいただいた方にお泊りいただいて、夜の楽しみですとか、食も含めて滞在していただくということが目的で」と、その意図を語る。

愛媛に泊まってもらおうと用意されたのは、特別にライトアップされた神社の本殿をステージにした幻想的な空間だ。そこで披露されるのは、石鎚神社の氏子が奏でる法螺(ほら)貝の調べ。

さらに、愛媛・新居浜市を拠点に活動する篠笛奏者・阿部一成さんによるミニコンサートも行われ、参加者らは夜の神社に響く音色に酔いしれた。

オーストラリア出身の参加者は、「きょうは最高でした。観光地も見てすごくありがたい。愛媛に来てよかったという感じがします」と感動を隠せない様子。一方で、「英語のサインとかあればもうちょっと海外から来る人が来るかなと思っている」と、インバウンド対応への改善点も指摘する。
愛媛県職員として参加した方も、「すごく楽しみながら回ることができたと思います」と評価しつつ、「周りにも色んな観光スポットいいところがあると思うので、そういうところ一緒に体験できたらいいのかなというところはありました」と、さらなる可能性を示唆した。
インバウンド需要に向け新たな観光を
このモニターツアーを通じて得られた貴重な意見や感想は、今後のツアー商品化に向けて大きな役割を果たす。日本航空は2024年度中のツアー商品化を目指している。

澤田支店長は、「きょうお越しいただいた方からいろいろなご意見を頂戴しまして、いろいろな専門家の方からのご意見も頂戴してコンテンツをさらにブラッシュアップしていいものを作り上げていきたいと思っています」と、今後の展望を語った。

石鎚山のふもとで始まったこの新たな挑戦。神秘と文化が織りなす観光の未来は、どのような形で実を結ぶのか。インバウンド需要の拡大を見据え、地域の魅力を最大限に引き出そうとする関係者たちの熱意が、新たな観光の形を生み出そうとしている。その行方から目が離せない。
(テレビ愛媛)