独創的な建築で知られる坂茂さんが手がけた「下瀬(しもせ)美術館」が、ユネスコ本部が創設した建築賞であるベルサイユ賞の「世界で最も美しい美術館」に日本から唯一選出された。瀬戸内海に面する巨大な敷地には、坂さんがかつて別荘としてデザインした作品が宿泊用のヴィラとして点在し、坂茂ワールドを満喫することができる。 

「下瀬美術館」は広島にある企業のオーナーが2代にわたって収集した絵画などのコレクションを展示するために広島県大竹市に作ったもので、その設計を担ったのが今年の高松宮殿下記念世界文化賞の建築部門を受賞する坂茂さんだ。ユネスコの言う「世界で最も美しい美術館」はどんなものか、確かめに行ってきた。 

エントランスからこの美しさ
エントランスからこの美しさ
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エントランスからして既に凜(りん)とした美しさを醸し出していた。中に入ってみると…。

木のアートがお出迎え

木の支柱から枝が広がるように屋根全体にアーチ状に梁(はり)が延びていて、まるで大木に包みこまれるような感覚に陥る。奥を見ると、床から天井まで全面ガラスになっていて、窓の向こうにはカラフルな大型の箱、海、島、空という壮大な景観が広がっている。息をのむ絶景だ。

中に入るとこの景色!
中に入るとこの景色!

あの箱は一体何なのだろう、と外に出てみると、ピンク、黄色、薄緑、とカラフルなボックスが8つ水辺に浮かんでいた。

美術館の展示室は水に浮かぶカラフルボックス

実はこのキューブ状のボックスは、坂さんが「敷地から瀬戸内海と浮かぶ島々が見えるので、そのイメージから水盤に8つの小さなギャラリーが散らばり、展示のストーリーにより動かして配置変えができるよう考えました」と語る水上可動型の展示室だったのだ。

ピンクや黄色の水上可動型の展示室!
ピンクや黄色の水上可動型の展示室!

展示室がボックス型で水に浮いているだけでも驚きだが、水の浮力を用いて動かしてレイアウト変更ができるという発想は、ユネスコの選考委員の評価ポイントだったに違いない。

坂さんは、ここを訪れた人が、「次に来るときにはレイアウトが変わっているかも?」とワクワクしてリピートすることも期待したという。

カラーが水に映り、美しい!
カラーが水に映り、美しい!

ボックスは通路でつながれていて、展覧会を見る人は、こちらの箱からそちらの箱へと移動しながら見て回ることになる。中がどんな感じなのかは行った方のお楽しみ。

景色を取り込むミラーガラス

美術館の外側は全体がミラーガラス・スクリーンになっていて、ピンクや黄色の展示室はもちろん、瀬戸内海と対岸の島もがくっきりと映し出されている。坂さんはその狙いをこう説明している。「ミラーガラスの反射でランドスケープが倍増する効果を作り出しました」。

景色の映り込みに息をのむ
景色の映り込みに息をのむ

お客さんの姿も、テラスの白いチェアも、みんなガラスに溶け込んで、これが建物だということすら忘れてしまう。

床に映る光のシルエットすらアート

この美術館のコンセプトは「アートの中でアートを観る」。実際、どこにいてもアートを体感できるが、筆者が注目したのは、エントランス棟の床にくっきりと映し出された光のシルエット。この光線の差し込み具合、反射具合も坂さんが計算し尽くしたに違いなく、自然光と木のハーモニーに癒やされる空間になっている。

床のシルエットが見事!
床のシルエットが見事!

こうして、日中にさまざまな美しさを堪能できるのだが、夜になると想像を超えた世界が待っていた。

見たことのない“夜景アート”

美術館全体がライトアップされて、海側から見ると、8つのカラーボックスは蛍光色のように色とりどりに輝いている。そして、エントランス棟の木のような柱はやさしいベージュの灯りに浮き彫りになり、バックの山並みと相まって、見たことのないアーティスティックな絶景が広がる。

坂さんが作り出した“夜景アート”
坂さんが作り出した“夜景アート”

美術館の展望エリアから見ると、蛍光色が水面に反射し、遠くに見える工場地帯の灯りまでもがアートに見えるから不思議だ。

奥には工場地帯の灯りが
奥には工場地帯の灯りが

昼も夜も美術館を眺めているだけで実に豊かな時間が過ごせるのだかが、何とここでは坂さんのデザインしたヴィラに宿泊することもできる。

坂茂さん作品のヴィラに泊まる!

この美術館は当初広島市内に建設する予定だったが、海岸に沿って南北に350メートルほど続くこの広い敷地に変更になったという経緯がある。工場が多い地域で他に名所もなく、どう人を集客するのか、というハードルが立ちはだかったときに、坂さんが「美術館に加えて、美しい海の景観を活かしたオーベルジュを作りませんか?」と提案したのだ。

紙の家
紙の家

こうして美術館、ヴィラ、レストランからなる複合施設SIMOSEが誕生した。宿泊施設の“Simose Art Garden Villa”には、ヴィラは10軒。坂さんは10軒のヴィラは連泊や再訪の楽しみづくりとして、デザインをすべて変えました。そのうち4軒は自分が初期に設計したヴィラの代表作であるダブルルーフの家、家具の家、紙の家、壁のない家を再現しました」と語っている。

私たちは、坂さんの代名詞である紙筒(しかん)を使った「紙の家」を見せてもらった。

家具もおしゃれ!
家具もおしゃれ!

「紙の家」は1995年に坂さんが山中湖に作った紙管が主構造の別荘。ホテル仕様になったこちらの部屋には110本の紙管がS字状に並べられていて、家具もおしゃれ!紙管の質感に癒やされる。

窓の外には瀬戸内海の景色が広がる
窓の外には瀬戸内海の景色が広がる
 

外を眺めると、そこには瀬戸内海と島が見え、まさに別荘気分で優雅なひとときが過ごせる。SNSで情報を見た外国人がグループで訪れることも多いそうで、リピートして毎回違うヴィラに泊まるのもよし、仲間と一緒に来て、お互いのヴィラを行き来するもよし、とのこと。

坂さんが設計したホテルや美術館は海外に行かずとも、日本各地にあるので、みなさんも建築とアートを堪能する旅を体験してみてはいかがだろうか?

「第35回高松宮殿下記念世界文化賞」の授賞式は11月19日、東京都内で開催される。

サムネイル
『下瀬美術館』2023年 平井広行撮影 Courtesy of Shigeru Ban Architects

坂さんと友に世界文化賞を受賞したソフィ・カルさん(絵画)、ドリス・サルガドさん(彫刻部門)、マリア・ジョアン・ピレシュさん(音楽部門)、アン・リーさん(演劇・映像部門)のみなさん5人をフィーチャーした特別番組が2つ放送される。

「世界文化賞まもなく授賞式SP」
11月19日 14:45-15:45 フジテレビ系列(一部の地域をのぞく)

「第35回高松宮殿下記念世界文化賞」
12月13日 24:55-25:55 フジテレビ(関東ローカル)
12月14日 10:00-11:00 BSフジ

「高松宮殿下記念世界文化賞」の公式インスタグラムとフェイスブックはこちらから
【インスタグラム】https://www.instagram.com/praemiumimperiale/
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勝川英子
勝川英子

フジテレビ国際局海外広報担当。
報道時代にパリ支局長を経験。
2016年にフランスの国家功労勲章を受章。
2003年からフランス国際観光アドバイザー。
幼少期を過ごしたフランスをこよなく愛し、”日本とフランスの懸け橋になる”が夢。