「グリ下の帝王」と名乗り、女子中学生3人に性的暴行を加えたなどの罪に問われている男に懲役7年の実刑判決が言い渡された。
「帝王」がいなくなった今、「グリ下」はどうなっているのか、「グリ下」を3年にわたり取材している記者がリポートする。
■アニメキャラのパジャマ姿で法廷に来た「グリ下の帝王」

かつて「グリ下の帝王」だった男に懲役7年の実刑判決が言い渡された。
ポケモンのキャラが描かれたパジャマ姿で法廷に現れた、黒髪短髪の「元帝王」は、罪と認められた8つの事実について、まっすぐ前を見て、時にはうなずいて言い渡しを聞いていた。

不同意性交などの罪に問われていた住居不定・無職の浦野那生被告(31)。
大阪・ミナミのグリコ看板を望む橋の下、通称「グリ下」に集まってくる、悩みを抱えた少年少女たちの中で、最年長として「グリ下の帝王」を名乗っていた。
浦野被告は去年11月からことし1月にかけて女子中学生3人に性的暴行を加えたほか、少女たちを自宅に連れ込んだり、睡眠導入剤を譲り渡したりした罪などに問われていた。
■女子中学生に性的暴行 少女たちに「睡眠導入剤」を譲り渡し『OD=オーバードーズ』

判決によると、浦野被告は三重県のホテルで、当時交際していた14歳のAさんと、別の14歳のBさんに性的暴行を加えたほか、大阪府内のカラオケ店で、初対面の15歳のCさんと薬を過剰摂取する「オーバードーズ(=「OD」)」をした後に性的暴行を加えたという。
さらに、少女たちを当時の自宅に出入りさせ、医師の処方が必要な睡眠導入剤を譲り渡して「OD」をしていたということだ。
裁判で浦野被告はカラオケ店で性的暴行を加えたCさんについて、「16歳か17歳と思っていた」と一部否認したが、ほかの起訴内容については認めていた。
未成年の少女をターゲットに罪を繰り返していた浦野被告は一体どんな人物なのか。
■1時間以上遅れて少女を連れ記者の前に現れた「帝王」

私はおととし11月、直接話を聞いていた。
当時、浦野被告は交際していたという14歳の少女と性交した疑いで逮捕され、不起訴処分となっていた。(その後、再捜査を経て略式起訴、罰金40万円)
待ち合わせの時間から1時間以上遅れてやってきた浦野被告は、片目が隠れるほど長い金髪で、アイメイクをしたマスク姿。
浦野那生被告:ほんと、すみません!
ハキハキとした声で謝りながらも笑っている。しかも、なぜか中学生くらいに見える少女を一緒に連れてきた。
未成年とのわいせつ行為の疑いがあったからインタビューを申し込んだのだが、その態度に「なんか、調子のいい人だなあ」と思った。
■会社員辞め ミナミのホストに

浦野被告は元々会社員だったが、6~7年ほど前からミナミでホストをするようになったという。
浦野那生被告:ちょっと夜の世界に行ってみようかなと思って始めて。お酒飲むのも好きだし、人と話すのが好きで、とても楽しかったです。
その後、グリ下に通うようになった浦野被告は「『グリ下』の治安を守りたい」という思いを抱く。
■「僕がいないと無法地帯になっちゃう。ルールを守らない子はグリ下出禁」

浦野那生被告:橋の下で『OD』するな、リストカットするな。案件(=パパ活・援助交際)するにしても難波でするな、分からんとこでしろ。最低限のルールですね。守らない子を僕が出禁にする方です。僕が出禁になったら無法地帯になっちゃいます。
このインタビューの後に、浦野被告は「グリ下の帝王」になった。実際、浦野被告は「帝王」として「グリ下」にルールを設けていたようだ。
グリ下に通う少女:『OD』は浦野被告がおったときは規制、『やりすぎアウト』みたいなところあったから、止められてた。最近は自由だからみんなてきとーに、より危なくなったんじゃないかな。
その一方で…
グリ下に通う少女:じゃあ(未成年に)薬渡すな。浦野被告も薬大好きだったから。 ただのロリコン。
「帝王」の裏の顔があった。
■帝王の裏の顔 「自宅で少女に暴力を振るっていた」と語る少女も

浦野那生被告:『グリ下』の子といっぱい付き合ってましたね。8人くらい付き合ってました。靴は『グリ下』の子に買ってもらったりとか、この服とかもそうですね。
浦野被告に詳しいグリ下に通う若者も口を揃える。
グリ下に詳しい女性:未成年のリアコ(推し)何人か作って、200万円以上、1人に貢いでもらったと聞いたりしました。
グリ下に通う少女:31歳でおっさんだけど、ホストしてたからか話術はあった。病み営って言って、新しくグリ下に来た女の子には、『どうして来たん?』と聞いて落としていく戦法。名古屋、東京合わせたら7人くらい彼女いたと思う。

さらに、大人の力で欲望のままに行動していたという証言も。
グリ下に詳しい女性:2年前、私もホテルで浦野被告と性交したが、避妊されず、アフターピル代も渡されなかった。
グリ下に通う少女:浦野が自宅で少女に暴力を振るっていた。自宅でみんながたまっているとき、女の子1人だけ残して、ほかの人を閉め出して性行為することもあったと聞いた。
■「行き場のない少女たちを守るため」と主張も「薬」で誘惑

ここから、裁判に話を戻す。ことし8月に行われた被告人質問では、浦野被告がどのように罪を重ねたか詳細が語られた。まず、なぜ自宅に少女を連れ込んだかについて。
浦野那生被告:当時の自宅は『リッツハウス』(浦野被告のあだ名「りつ」に由来。たまり場)になっていた。(少女は)金もないので、野宿か近くのマクドナルドで過ごすことになる。
行き場のない少女たちを守るために自宅に呼んでいたと主張した。
その一方で、同時に「さいれ(=睡眠導入剤)げっつ」「30もあります」などのDMを送って、薬をちらつかせて少女たちを誘ったと指摘されると。
浦野那生被告:僕が買いに行って、目の届く人に渡していた。僕も『OD』の依存症だったが、耐性がある方だったので面倒を見れた。
「グリ下」の若者たちに安全に薬を渡すことができ、「OD」をしても意識を保っていられる自分が見守る「安全な環境」で「OD」をさせていたと主張したのだった。
■「親にも挨拶し同意あった」と主張 売春強要する発言は「口説き文句」

また、3人の少女に対する不同意性交罪についてはー。
浦野那生被告:Aさん、Bさんとは付き合いも長く、親にも挨拶をしていた。
一方検察側は、浦野被告がCさんに性的暴行を加えているとき、「案件(=パパ活・援助交際)行くか?」と売春を強要するかのような発言をしていた撮影データなどがあったと指摘。これについては次のように答えた。
浦野那生被告:『OD』していたので記憶がない。
そのうえで口にしたのは、支離滅裂な主張だ。
浦野那生被告:彼女にしたいと思ったのか、口説き文句として言っただけで強制していない。
売春するよう迫るような言葉が「口説き文句」だと話したのだった。
■5人と交際も「ひも」だった帝王の素顔

浦野被告は「『帝王』と名乗ると少女たちが寄ってきた」と話し、当時5人と交際していて、無職だったため金品を貢いでもらっていたと明かした。
一方、不同意性交事件の被害者であるAさん、Bさんの親には、10歳ほど若く年齢を偽り、「コンセプトカフェで働いている」と嘘の説明をしていて、実際の年齢や貢いでもらっている状況を考えると、恥ずかしさを感じていたと話した。
■「性欲のおもむくままに犯行を重ね、精神的、身体的な被害は甚大」

そして11月7日、判決を迎えた。
争点となったCさんを16歳未満と認識していたかについては、大阪地裁は浦野被告が16歳未満がグリ下に出入りする人が多いと知っていたうえ、Cさんは大人びた風貌でもなかったことから、Cさんが16歳未満である「未必的な認識はあった」と認定した。
※不同意性交罪は、性交同意年齢(=自分で性行為への同意を判断できるとされる年齢)16歳に達していないと認識したうえで性行為をした場合成立する。
そのうえで山田裕文裁判長は懲役7年、追徴金7千円(求刑懲役9年、追徴金7千円)の実刑判決を言い渡した。
「性欲のおもむくままに犯行を重ね、精神的、身体的な被害は甚大」と指摘。
一方、「今後一切グリ下に近づかず、交友関係も断ち切り、薬物依存の治療を継続する」と供述したことを考慮した量刑になったとも伝えられた。
■「帝王」のいない「グリ下」 OD、暴力、金銭トラブルのカオス

浦野被告が逮捕された後の「グリ下」はどうなっているのだろうか。
11月6日夜、「グリ下」は、大勢の外国人観光客でにぎわっていた。その中で、雰囲気の違う若者たちが何人かいた。1人の少女が私に「わー!」と近づいて頭を触ってきた。
グリ下の少女:あぁ、この子いまパキってるよ(パキる=「OD」してハイになること)。
もう1人の少女が話してきた。その後、少女は意識がもうろうとした状態で地面にへたり込んだ。よく見ると、太ももが血だらけだ。周りをグリ下見学に来たという男性5、6人が酒を飲みながら囲んでいる。

3年前からグリ下に通い続ける別の少女に現状を聞いた。
グリ下に通う少女:ここで『OD』は割とよくあることだよ。いまは暴力とお酒とクスリでいっぱい。
浦野被告が逮捕された後も何度か「帝王」が誕生したが、3カ月ほど前に「帝王」が「帝王」であることを放棄したそうだ。
グリ下に通う少女:前は帝王が揉め事の仲裁に入ってたけど、最近は自由だからみんなテキトーに、より危なくなったんじゃないかな。調子に乗って手を出す輩が増えた。 お金のトラブルも増えた。
数年前と比べて「グリ下」の雰囲気も変わったという。
■「グリ下」に通い続けた記者が少年・少女たちに伝えたいこと

浦野被告が逮捕された後にも「グリ下」に集まる少女が被害に遭う事件は多発している。
「グリ下」に集まる少女らに現金を渡し、性的暴行を加えた罪で男が起訴された事件や、「グリ下」で少女に声をかけ、ビルに住まわせて売春をさせたなどの罪で男らが起訴された事件などだ。
「グリ下」の取材を始めておよそ3年がたったが、当初、家庭にも学校にも居場所がない若者が集まり、お互いが「傷をなめ合う場所」として、一定機能していたように感じていた。
もちろん、未成年が家出して、夜遅くまで繁華街にいるというのは危険なことで、「グリ下」には来ない方がいい。
ただ、「もし来なかったら、悩みを分かち合えずに自ら命を絶っていたかもしれない」。そういった思いを抱えていた若者は多く、「危険信号」を発信している若者の受け皿になっていたのは間違いないと思う。
しかし、時間がたつにつれ、そういった若者を利用する大人が現れ始めた。
結果、若者が被害者になり、時には加害者にもなる犯罪の温床になってしまった。重大犯罪でなくても、身体に悪影響を及ぼす「OD」や喫煙、飲酒、パパ活…周りに流されて始めてしまう可能性があるのだ。
SNSで「グリ下」でワイワイしている映像が流れてきて、「楽しそう!」と興味を持つ子もいるかもしれないが、危険なことに巻き込まれる可能性があるので行かないでほしい。
行政や警察、民間の団体などで協議や支援が続けられているものの、「グリ下」が存在する限り、悪い大人は「グリ下」の若者を狙い続けるかもしれない。
頼れる人や居場所がない、生きづらさや悩みがある、そんな人には「グリ下」支援を続ける認定NPO法人「D×P」など相談できる団体がある 。
悩みや孤独を感じる少女たちが「グリ下」で待ち受ける悪い大人ではなく、良い大人との出会いを通じて、生きづらさを少しでも乗り越えられるよう願いたい。

【関西テレビ 大野雄斗記者】
2020年入社。大阪府警担当。奈良担当、神戸支局を経て、現在2度目の大阪府警担当。 「グリ下」ができてまもない頃から取材を続ける。
(関西テレビ 2024年11月9日)