トランプ前大統領がアメリカ大統領選を制し、返り咲きを決めた。「BSフジLIVE プライムニュース」では岸田文雄前首相を迎えて大統領選を分析し、今後の日米関係において日本がとるべき具体的な戦略を議論した。
石破・トランプの間に信頼関係は築けるか
竹俣紅キャスター:
アメリカ大統領選は、過半数を取ることが確実となったトランプ氏が勝利宣言。上院は共和党が過半数を取り、下院も共和党が過半数となる見通し。想定していたか。
岸田文雄 前首相:
直前までマスコミをあげて世紀の大接戦だと言っていたが、結果を見るとあっけないほどスムーズに結論が出て、ちょっと意外だというのが正直なところ。民主党が訴えた民主主義の危機とか中絶権という争点より、トランプ氏が訴えた経済や不法移民という争点が多くの米国民に響いた結果なのではと感じる。
反町理キャスター:
石破総理は、トランプ氏と早急に会談を持ちたいと述べた。安倍元総理が前回のトランプ氏当選後にトランプタワーを訪れたこともあったが、早めに行くのは有効か。一方で民主党への配慮もある。
岸田文雄 前首相:
それをうまくやるのが外交。民主党にも気を遣わなければならない。だが外交は、最後は人間関係。できるだけ早く相手と接点を持ち、良い印象を抱いてもらうことが最も大事なポイント。早いタイミングで会うのは理にかなったこと。うまくやるのが日本外交の腕の見せどころ。
竹俣紅キャスター:
アメリカでは大統領選と同時に連邦議会の選挙も実施された。上院では共和党が過半数を超え、435議席を争う下院は日本時間6日午後7時半時点で民主党が191議席、共和党が205議席。
反町理キャスター:
大統領も上下両院も共和党となれば、トランプ次期大統領は人事も予算も心配のない状況になる。日本の総理として向き合うとすれば、岸田さんならどうするか。
岸田文雄 前首相:
少なくとも中間選挙まではこの「トリプルレッド」の状況は続く。トランプ氏の次の再選はない(米大統領の三選は禁止されている)からこそ、今回の4年の任期のうち前半2年間はかなり大きな権限を持って力を振るうことができる。トランプ氏の過去のやり方を見ると予見可能性が高くないため、世界中が身構えている。だからこそ日本は人間関係や外交努力によって予見可能性を少しでも高め、唯一の同盟国であるアメリカとの関係をいかにコントロールするか。特に最初の2年間ではそれが大事になる。
竹俣紅キャスター:
2024年4月、岸田さんはアメリカの議会で演説を行い「日本はすでにアメリカと肩を組んで共に立ち上がっている。アメリカは独りではない。日本はアメリカと共にある」と発言した。この演説の真意は。
岸田文雄 前首相:
一番言いたかったのは、自由で開かれた国際秩序を守ることが、アメリカにとっても日本にとっても国益だということ。アメリカ自身の国益が大事だとの思いが国内で強くなっていることはわかるが、アメリカがインド太平洋地域への関心・関与を薄めてしまえば国際社会の平和と繁栄は維持できず、結果としてアメリカの国益も損なう。日本にとっても、外交・安全保障の基軸である日米同盟がしっかりしていてこそ国益を守れる。アメリカの関与なくして日本が東アジアで孤立無縁の状態で国民を守ることは不可能だというのが現実。
また、今これだけ科学技術が進歩している中、アメリカ一国でアメリカを守ることも不可能だというのが安全保障上の常識。日米ともにそれぞれの立場で役割を果たし、結果として法の支配に基づく国際秩序を守ることがそれぞれの国益だということ。
反町理キャスター:
岸田さんは外相も総理も歴任し、日米地位協定の問題に10年ほど向き合ってきた。今後どうすべきと思っているか。
岸田文雄 前首相:
日米地位協定を時代や環境の変化の中で見直していく、その問題意識はもちろん大事。ただこれはものすごく膨大な文章であり、最初から見直していけば非常に時間がかかる。全体を一つずつ見直すのは現実的ではないと思うが、ピンポイントで議論をしていくのは大事なこと。石破総理がどういった具体的な見直しを考えておられるのかわからないが、その点を念頭に置きながらしっかり考えていただければと思う。
トランプ政権による米中関係・イスラエル情勢の変化に備える
反町理キャスター:
米中対立は激化するか。トランプ氏の対中姿勢は関税強化を示唆しながら交渉を重視するというもの。前回のトランプ政権のときにも中国に対して関税を大きく上げたが、トランプ次期大統領は日本に対して一緒に中国に制裁をしようと言ってくるのでは。
岸田文雄 前首相:
いろんなケースがあるだろうが、中国はそれに対抗する。大国同士がやり合うと周囲の国も影響を受ける。米中の関係だからといって他人ごとでは済まない。米国の中国に対する対応一つとっても、中国の反応によって日本が大変な不利益をこうむることもある。米中の関係であっても、アメリカと対応を協議し注文をつけるような関係も作っておかなければならない。日本として早速その仕掛けを考えていかなければいけない。対話して人間関係の構築に努めることが大事。
反町理キャスター:
そうしてアメリカをなだめたとき、安保にダメージが行かないか。つまり、ならば尖閣については自分で守れというように経済と安保をバーターにするような感覚は、アメリカ側にはないか。
岸田文雄 前首相:
国際社会における繁栄・安定が日米両方の国の国益だというのはまさにそこ。アメリカが内向きで国益を追求するだけでは、結果として国益を守ることはできない。大きな枠組みの中で国益を考えるという説得を日本ができるかどうか。
反町理キャスター:
日本というより、石破さんがトランプさんに対してそれをできるか、と聞こえる。
岸田文雄 前首相:
石破総理の役割は大変大きい。日本外交としてそれをやらないと日本の国益を守れない。
反町理キャスター:
そのために人脈を生かすことも石破さんの政治手腕。
岸田文雄 前首相:
8月14日に退陣を表明したとき、私はけじめを付けるため退陣する、だが総裁選でしっかり総裁を選び、その後ドリームチームを作ってもらいたいと申し上げた。大変厳しい状況だからこそ、その発想は大事だと思う。
反町理キャスター:
ウクライナ情勢への影響。トランプ政権のもと、ウクライナに対し領土についての一定の譲歩を求めた上で終戦の方向へ、という可能性も取り沙汰されている。そのとき、一緒にゼレンスキー大統領の説得に回るような立場をとるべきか。
岸田文雄 前首相:
いや、日本は今の基本的な立場を変えるべきではないと思う。もちろん平和を一日も早く実現することは大事だが、ウクライナの問題はヨーロッパの一地域の国の間の戦争ではなく国際社会全体の問題。私は2年前に、今日のウクライナは明日の東アジアかもしれないとNATO首脳会談などでも訴えた。法の支配に基づいて国際秩序を考えることが大事だと。このスタンスを日本は譲ってはならない。
日本の総選挙、自民の敗因を岸田前首相に問う
反町理キャスター:
岸田さんを久しぶりに迎えたので少し内政の話も。総選挙では自民党にとって非常に厳しい結果が出たが、敗因をどう見るか。
岸田文雄 前首相:
政治とカネの問題が国民の皆さんの大きな関心事であり、大きく影響したと思っている。謙虚に説明責任を尽くすのは当然。だが、経済や外交などいろんな問題があり、これらについての前向きなメッセージをもう少ししっかり出すことも大事なのでは、と感じながら全国を回っていた。自民党は先頭を切って賃上げを訴えてきた。物価高の中で賃金・生活をどう守るかという身近な課題、そして国際社会の不透明さを考えるときに日本はどうあるべきかというメッセージが大切だった。野党のありようを見ても、なおさら強くそう感じる。
今回の選挙の結果は、野党の声もしっかり聞けという声だと受け止めており、そのための努力が行われていると理解している。
反町理キャスター:
結果的に少数与党政権になった。自公以外が全部賛成すれば内閣不信任案が成立してしまう恐怖がある。だが野党の言うことを全て丸呑みすれば、予算がいくらあっても足りない。
岸田文雄 前首相:
まず丁寧な対応が求められるのは当然のこと。併せて与野党が議論する中で、どちらの言い分がより責任ある対応なのか、国民の皆さんの共感を得ていかなければならない。
反町理キャスター:
派閥解消という方針を出され、正式に残るのは麻生派だけ。だが実際は宏池会(岸田派)が一番ダメージを受けずに残っており、組織として統率が取れているように思うが。
岸田文雄 前首相:
派閥の解消が目的だったように報じられるが、要するに派閥の活動とお金・ポストを切り離すのが党改革の最大のポイント。ただ一番わかりやすいのは派閥の解消だったので、その対応が進められた。
本来、派閥は政策集団。政策を論ずることが派閥の最も大切な役割だという原点に戻ること。派閥があろうがなかろうが、お金・ポストからしっかり切り離され、なおかつ政策中心の人間関係は大事にしていくことの両立が大事。宏池会はもちろん解散し、手続きも済ませた。ただ人間関係までいっぺんにということではない。
(「BSフジLIVEプライムニュース」11月6日放送)