生息数の減少で入手困難となり、展示が一時中断に追い込まれた宮島水族館(広島・廿日市市)の「タチウオ」。展示再開の裏側には、飼育員たちの奮闘があった。水族館のシンボルを守る熱い戦いに密着した。
消えた水族館のシンボル
10月下旬、早朝から道具を準備する宮島水族館の飼育員たち。トラックの荷台には、海水を凍らせた氷や釣り竿が積まれている。
この記事の画像(12枚)水族館から車で向かった先は近くの桟橋。飼育員たちは大きな水槽や道具を船に運び込んだ。
宮島水族館・飼育総括の御薬袋聡さんは「いまからタチウオを一本釣りでとりにいきます。まだ海水温が高くて25~26℃ある。それだと魚が傷むので、海水を凍らせた氷で20℃くらいまで水温を下げて運びます」と話す。
スナメリと並ぶシンボルとして宮島水族館が力を入れてきた「タチウオ」の展示。しかし近年、瀬戸内海での生息数が減少したことで入手困難となり、2024年1月には展示が中断する事態に。それでもなんとか“生きた姿を来館者に見てほしい”と、タチウオを求めて海に出た。
飼育員が1匹1匹釣り上げて展示
実は、水族館で展示されるタチウオは飼育員が1匹1匹釣り上げている。
御薬袋さんはルアーを見せながら言った。
「すぐ外れるように、かえしは全部とっています。普通は針を2つか3つ付けるが、1つだけ」
タチウオをできるだけ傷つけないよう細心の注意を払っているのだ。
「よっしゃ!」
早速、タチウオか?竿が大きくしなる。しかし…
「バレてる。針がのびています。ハマチか何か」
その後もタチウオは釣れず、時間だけが過ぎていった。
ポイントを変えて再チャレンジ。近くにはすでにほかの漁船もいる。ここには“いる”はずだ。
すると、飼育員の竿にもアタリが!
「おー、ええ感じや!」
海面から現れた銀色のタチウオを見て、御薬袋さんが声を上げる。
この日の1匹目を釣った飼育員はホッとした表情で「すごいプレッシャーですもん。釣れへんかったらどうしようみたいな」と笑った。
傷つきやすいタチウオどう運ぶ?
やっと釣れた待望の1匹。“勝負”はここからだ。タチウオはウロコがなく傷つきやすいため、生きたまま運ぶことが難しい。元気な状態で持ち帰るために、船上の飼育員4人は「釣り担当」と「釣った後に生かして運ぶための対応」の二手に分かれていた。
手で直接触れないように袋をかぶせ、その後すぐタチウオの腹に針を刺し、気圧の関係でたまった空気を抜く。
そして、横たわっていたタチウオの立ち泳ぎを確認したら、船にあるもう一つの水槽へと素早く移動。この水槽は船が揺れても魚は揺れないようにできていて、タチウオ採集には欠かせない。
ポイントを変えたことで、ようやく釣れはじめた。御薬袋さんは「今日のタチウオはそこそこ大きくて、タチウオらしいタチウオですね」と満足そう。この日は8匹を採集。生きたまま水族館へ運んだ。
船が宮島に着くと、1分1秒が勝負!水族館のスタッフ一丸となって素早く運搬する。
「お願いします。じゃあ、走ります!」
タチウオを渡し、事前に決められた次のポジションへと走るスタッフ。水族館に到着すると、1匹1匹バケツリレーで水槽まで運ばれる。最後は水槽の水にバケツを沈め、ゆっくりとタチウオを泳がせた。飼育総括の御薬袋さんは「ギラギラ光ってヒレが波打つきれいな姿、タチウオの生きている姿をぜひたくさんの人に見ていただきたい」と話す。
飼育員たちの熱い思いで採集される宮島水族館のシンボル「タチウオ」。11月4日時点で20匹が展示され、元気に泳いでいる。
(テレビ新広島)