中国・上海市にある日本人学校は、12月13日の授業について「安全対策の一環」として高等部以外の児童、生徒を登校させずにオンライン授業で対応することを決めた。また関係者によると、深セン市の日本人学校では休校を予定しているという。
この記事の画像(10枚)12月13日は「南京事件の日」とされ、中国では87年前「旧日本軍に多くの中国人が殺害された日」として追悼式典などが開かれることから反日感情の高まりが心配されている。
しかし、日本人学校に子供を通わせる保護者の1人は「過去の歴史事実があるとしても、現在において通学時に日本の子供が襲われるかもしれないという状況は異常と言わざるを得ない」と憤る。
相次いで狙われた日本人学校の関係者
中国では2024年6月に江蘇省蘇州市でスクールバスを待っていた日本人親子が刃物で襲撃されたほか、9月18日には広東省深セン市で日本人学校に登校中の男子児童が刃物で刺され死亡する事件が起きている。
犯行があった9月18日は満州事変のきっかけとなった柳条湖事件が起こった日で、中国では「国の恥を忘れてはならない日」と呼ばれる特別な日として認識されている。
中国当局は拘束した男の動機や事件の背景について、これまで一切明らかにしていないが、現場の状況や男子児童以外に被害者がいないことから日本人がターゲットになったと見ている関係者は多い。
過剰にならざるを得ない警備体制
殺害された男子児童が通っていた深セン日本人学校は事件から約1カ月後に登校を再開したが、原則徒歩での通学は禁止とし、全てバスや地元のタクシー会社による車での通学としている。
また別の日本人学校でも、これまではスクールバスを一般の道路に一時停車させ、そこから子供たちを乗車させていたが、事件後はマンションの敷地内にスクールバスを入れるなど極力、外部の人と接触しないようにしている。
こうした対応について、日本人学校の関係者は「全ての外部の人を犯罪者と疑うような過剰な対応かもしれないが、中国側が事件の背景を説明しない以上、子供の安全のためにやらざるを得ない」と話す。
他にもある特別な日
中国で生活する日本人にとって、9月18日や12月13日以外にも気をつけなければいけない日がある。
在中国日本大使館はホームページで「複雑な対日感情に注意しましょう」として「過去の歴史的経緯にかんがみ、中国人の中には日本人に複雑な感情を抱く人がいることを念頭におき、慎重に行動する必要があります。特に、日本人が関与した歴史的事件が発生した日には反日感情が表面化する傾向が強いので、思わぬトラブルを引き起こすことがないように注意してください」と呼びかけ、注意を要する具体的な日にちを記載している。
北京でも狙われた子供の命
中国には香港を含めて12校の日本人学校があり、事件後それぞれの学校が警備の見直しや強化を行っていた。その最中、10月28日に北京市海淀区の小学校近くで男による切り付け事件が起きた。
中国メディアによると、被害者5人のうち3人が小学生で、事件発生直後には中国SNSに現場の映像が投稿され子どもが路上に倒れている様子や容疑者の男が取り押さえられる様子が映っていた。
特に今回の事件で注目されたのは、事件が起きた地域だ。海淀区は北京有数のエリート校が集まる場所とされ、同じ地域には北京大学や清華大学など名門大学もある。こういった大学に入学する将来を見据え、我が子を小学校から質の高い教育を受けさせようと、このエリアにあるマンションを購入する保護者は少なくない。その中で、被害に遭ったのは名門校として名高い「中関村第3小学校」の児童だった。
地元警察は事件発生から約2時間後に事件の概要を発表したが、そこには50歳の男が拘束されたという情報だけで、日本人学校の関係者が襲われた事件同様に犯人の動機や事件の背景についての説明はなかった。
一方で、現場近くで事件を目撃していた女性は「犯人の男は被害者が通う小学校の警備員を解雇された腹いせに事件を起こしたと聞いた」と話していたほか、一部メディアも容疑者の男の犯行動機として同様の情報を伝えている。
日本と中国の懸け橋になる子供たち
上海日本人学校の校歌の歌詞には「虹の橋」という言葉がある。この言葉が示すように、中国の日本人学校に通っている子供たちは中国での経験をもとに将来は日中友好の懸け橋となったり、日中友好に携わる仕事に就く場合もあるかもしれない。しかし、深センの日本人学校で起きた事件や、上海の日本人学校で行われる“敏感な日”のオンライン授業がもたらす影響は、日本人学校に通う子供たちの生活を委縮させるに他ならない。
ただ、私は以前の記事「“これはどこの国でも起こらない”3カ月で2度も日本人学校の関係者が被害に…」の中で「事件を起こした中国人と、一般の中国人が同じ考えを持っているとは思っていない。多くの中国人は私たち日本人を含む、外国人に対して優しく、困っていることがあれば親身になって対応してくれている。」と書いた。これは中国に住んでいる多くの日本人が感じている事実なのだ。
将来、日本と中国を結ぶ「虹の懸け橋」となる子供たちが今後、中国をどのように見ていくのか。私は子供たちが日中関係の過去の歴史を乗り越えて、「未来」へと向かっていくことを望んでいる。
(執筆:FNN北京支局 河村忠徳)