罪を犯した受刑者たちが服役する刑務所。ここで受刑者たちは自らの罪と向き合うと共に、出所後の社会生活に適応するための教育も受けている。受刑者とじかに接し、教育に当たる福岡刑務所の教育専門官を取材した。
社会復帰に向けた刑務所の取り組み
「起床~~~」午前6時40分。受刑者たちの1日が始まる。
この記事の画像(8枚)福岡・宇美町にある福岡刑務所。九州最大の刑務所で、5万坪を超える広大な敷地内には、窃盗から薬物、凶悪犯罪など、さまざまな罪を犯した約800人が服役。禁錮刑や刑務作業を伴う懲役刑を通し、それぞれの罪と向き合っている。
受刑者たちはここで、出所後の社会復帰に向けた教育も受けている。その指導にあたるのが教育専門官だ。松村隆史教育専門官は「刑務所という場所は、社会からの隔離の目的ももちろんあるんですけども、社会復帰に向けた教育が必要な場としても役目がある」と説明する。
教育専門官は全国の刑務所に配置されていて、福岡刑務所では20代から40代までの6人が指導に当たっている。教育専門官は法務省の管轄で、法学部や教育学部、心理学部の出身者のほか、それらと全く関係のない分野から来る人もいるという。
教育専門官の松村さんは「私はやはり、受刑者というふうにレッテルを貼ってしまうとどうしようもないので、ひとりの人として関わっていくということが大事かなと考えています」と語った。
男性を監禁暴行して死なせた受刑者
「1名入ります」と受刑者が入室してくる。松村さんが向き合っているのは、薬物を巡る金銭トラブルで、当時40代の知人男性を集団で拉致し、暴行して死なせた監禁致死罪で懲役7年となった受刑者だ。
「〇〇さん、振り返ってみてどうですか?」と声をかける松村さんに受刑者は訥々と話し始めた。「まぁ…母親とかから、いろいろされていたんで。もう暴力ですかね。(お母さんが暴力振るう?=松村さん)はい、父親はもう何も関係ないみたいな感じで、全然、何も言わないです。だからもう、母親の『ガー』って怒る声が夜まで取れないです。耳から離れないんですよ」。この日の指導では、罪を犯すまでの人生を振り返った。
ホワイトボードに記された『覚せい剤』『窃盗』という文言。松村さんは指差し「ここに関しては、覚せい剤で金がなくなって、金が必要だから窃盗をしたという認識で大丈夫ですか?」と受刑者に尋ねる。「覚せい剤を買うためのお金が欲しくて。だから車上荒らしをしたり恐喝したり、窃盗をしたりしていました。思いつきで動くんですよ」受刑者は素直に当時を振り返り、犯罪の原因に向き合う。
松村さんは「何か悪い行動があったときに、その背景はどこにあるのかなといったら、結局、その人の人生全てを見ていかないと分からないところもあるので、このプログラムを作る上で、こういった単元は必要」と話す。
摘発される人の数が毎年減少している一方、摘発者全体の中で再犯者が占める割合を意味する再犯者率は、50%近くの高止まり状態が続いていて、教育専門官の使命も重要さを増しているのが現状だ。
そして“監禁致死”の受刑者が教育専門官に語ったこととは…。
*⇒後編「“監禁致死”被害者遺族への思い… 受刑者が流した涙」へ続く
(テレビ西日本)