スーパーGTのGT300クラスに参戦するパシフィックレーシングチーム。
この記事の画像(17枚)ここにはキャリアわずか5年でGTの舞台に立つドライバーがいる。
冨林勇佑(とみばやしゆうすけ)28歳。
「若手の中では(年齢は)上の方になってきますけど、レース歴で言えば、めちゃくちゃ浅いですね。たぶんGT参戦している中で一番浅いくらい」
周りのドライバーと比べると、遅咲きながらもチームを牽引。
さらに、“異色の経歴”の持ち主なのだ。
その秘密が自宅の一室にあるという。冨林の部屋を見せてもらうと。
本格的なレースシミュレーションができる人気eスポーツタイトル、「グランツーリスモ」。
冨林はこのタイトルの2016年世界チャンピオンで、プロドライバーになった今でも日々のトレーニングとして取り入れている。
「前に車がいたらどう抜こうかとか、後ろに車がいたらどうやってブロッキング、抜かれないようにしようかとか。そういう“レース勘”みたいなものをレース会場で走っていなくても劣化させない、そういう意識でやっていますね」
冨林がグランツーリスモを始めたのは5歳の頃。
幼少期から、毎週末サーキットに通うほどレースが大好きだった冨林に、両親がプレゼントしてくれたことがきっかけだった。
「僕は小さい頃、『どういうものがリアルなんだろう?』と自分の中で想像しながらやっていたので、夢をもらったじゃないですけれど、このソフトのおかげで疑似体験させてもらったから今がある」
バーチャルのレースで世界を獲った冨林。
この時蘇ったのは、幼い頃から抱いていた、プロレーシングドライバーへの憧れだったという。
「サーキットに休みの日にアルバイトで貯めたお金で通うようになって、そこで思ったより速く走ることができて、なんか意外と『俺運転できるじゃん』みたいな。
サーキットでの走りに手応えを感じた冨林は「eスポーツの世界王者」という看板を引っ提げて、自らの足でスポンサーを獲得。レーシングチームの目につき、ステアリングを握るチャンスを掴んだ。
「“ゲーマー”と呼ばれることにかなり抵抗があったタイプなので。けれどレースを始めるにあたって、それを“材料”にさせてもらいましたね」
eスポーツとリアルとのマシンの差はほとんど感じていなかったという冨林。
リアルレースに参戦した当初から、さまざまなカテゴリーでタイトルを獲得し、実績を残してきた。
「普段からゲームしかやっていないから、どうせ本物できないだろうって、それでみんな油断するので『むかつく』じゃなくて僕としては『しめしめ』と思っていました」
そんな冨林が今、取り組んでいるのがフィジカルトレーニング。
数多くのアスリートを指導するトレーナーのもとで、1年を通してレースを戦い抜く体作りに励んでいる。仲田健トレーナーは冨林の進化を語る。
「集中力はすごくあると思うんですけど、筋力とか心肺機能とかフィジカル的な能力ではかなり低かったですね。ここに通い始めた頃と比べると、強くなってきていますね」
同様に、冨林もサーキットで体感している。
「昔は夏場の負荷のかかるレースだと、かなりのしんどさがあったんですけど、今は夏場でも全然体力的に問題ないですし、フィジカル面だったり、いろいろな面で余裕ができたと思います。世界一を獲ったゲーマーがレースを始めたところから、プロレースをやるアスリートに、ここに来ることによってなったと思います」
バーチャルからリアルのサーキットに飛び出した冨林。そのレース人生が「新たな道」を切り開いていく。
最後に、ゲームの世界からリアルレーシングドライバーを目指す後輩たちにエールを送った。
「今ゲームで成績を残すというのもレベルが上がってきて大変だと思うんですけど、一番は『好き』という気持ちが大事だと思っていて。楽しみながら取り組んでもらうと、どんどんレベルアップできるし、気持ちが強ければプロのレーサーになるチャンスも増えてくるんじゃないかなと思います」
(映像提供:GTA)
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