2024年8月、秋田・湯沢市の元保育士の女性がキッチンカーの営業を始めた。提供するのは県産米を使った「おむすび」だ。家族と協力しながら、おむすびで地域に元気を届ける店主の思いを取材した。

SNSなどで話題のキッチンカー

湯沢市の隣、羽後町の道の駅で営業する1台のキッチンカー。

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8月に開業し、県の南部を中心におむすびを販売している「厨(くりや)本舗OMUSUBI」だ。
キッチンカーは、湯沢市の中川祐子さん(50)が営んでいる。

おむすびに使用しているコメは、湯沢市雄勝地区で収穫したあきたこまち。具材も地域の人から仕入れた食材を多く使っている。

「いぶりがっこクリームチーズ」などの具材がたっぷり入った通常のおむすびはもちろん、「やきおむすびしょうゆ」など、こんがりと香ばしく焼いたものも人気だ。
ころんとした丸い形がかわいらしい看板商品の「やきおむすびゆずみそ」は、湯沢市にある武石麹店のみそが使われている。

「できました『ゆずみそ』です。熱いので気を付けて」と言って中川さんが手渡してくれたおむすびを食べた坂本桜アナウンサー。「みそが濃厚でコクがあり、さわやかなゆずの風味が口いっぱいに広がる」とご満悦だ。

県内でも珍しいおむすび専門のキッチンカーは、SNSなどで話題を呼び、この日もたくさんの人が買い求めていた。2度目の購入という女性客は「おいしかった。ごはんがすごくおいしくて、もう一回食べてみようと思って来た」と声を弾ませた。

がんをきっかけに…退院から8カ月で開業

中川さんは3月まで27年間、地元の保育園で保育士として働いていた。

キッチンカーを始めるきっかけとなったのは、2年前に健康診断で乳がんが見つかったことだった。すぐに手術を受け、左胸を全摘出した。

中川さんは「あの時は『自分はもう少しで死ぬんだな』と思った。感じたことのない思いがあった」と振り返る。

入院を経て自宅に戻った中川さんは、今後の人生について考え、ある決心をした。

「死を受け止めたら『第二の人生をやらなければ』と思った」と話す中川さん。数年前からキッチンカーに興味があったので「やってみたいな」「やらなければいけない」と思ったという。

決断してからすぐに起業をサポートする市の支援センターに相談し、退院から8カ月で開業にこぎ着けた。病気と向き合いながらの開業は大変だったが、夫と高校生の息子の応援が中川さんを支えている。

キッチンカーの看板幕には「こりゃうめぇ 絶品おにぎり作る母 毎日食べれて 幸せだなぁ」という短歌がデザインされている。この素敵な短歌を作ったのは、息子の光さんだという。

おむすびで多くの“結びつき”を…

キッチンカーで販売するものをおむすびに決めたのも、息子の影響だった。

中川さんは「おにぎりを食べて頑張る息子の姿を見て、もっといろんな人に食べてもらって元気づけたいと思い、おむすびを始めた」と話す。

息子はおにぎりの試食担当。夫が店の情報を発信するSNSを担当していて、家族みんなで店を盛り上げている。
中川さんは「年齢関係なく挑戦することは大事だなと思うし、病気だからとかそんなふうに思わないで、自分のやりたいことを家族と相談してやってほしいと思う」と意欲的だ。

さまざまな苦難を乗り越え、キッチンカーを営む中川さん。今後の目標について「ゆくゆくは関東の方にコメも一緒に行って、秋田のおいしさ、みそ、コメ、地元の山菜、そういうものを関東の人にも届けたいなと思う」と語った。

中川さんはこれからも家族と一緒に、おむすびを通してたくさんの人との「結びつき」をつくっていく。

(秋田テレビ)

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