2024年9月3日、環境省は、世界自然遺産である奄美大島の特定外来生物マングースを根絶したと宣言した。1979年にハブを駆除する目的で人間が島に放ったマングースだったが、マングースが襲ったのはハブではなく、「アマミノクロウサギ」など貴重な在来生物だった。そこには、捕獲にあたってきた関係者たちの地道な努力があった。
「前例ない」 マングースをゼロに
「ここに、奄美大島における特定外来生物フイリマングースの根絶を宣言いたします」
9月3日午後、環境省自然環境局・植田明浩局長は奄美市でこう宣言した。
学識経験者らでつくる検討会の座長で東京女子大学・石井信夫名誉教授は「これだけのサイズの島で1万頭近くまで増えたマングースをゼロにするというのは、世界的にみても前例がないと思う」と高く評価した。
慣れた足取りで奄美大島の山中に分け入るのは、東京都出身の園山大助さん(56)だ。
園山さんは、2005年に発足した環境省のマングース捕獲専門チーム「奄美マングースバスターズ」のメンバーで、2008年から実に15年以上、この活動に携わっている。
この日は大和村の山中での作業を行った。木にくくりつけたピンクのテープは、わなを点検する他のメンバーが山の中で迷わないための道しるべだ。
「パルプ道」という、木材を運び出すために昔使われていた道を歩きながら、園山さんは、奄美マングースバスターズの仕事について教えてくれた。
マングースは、パルプ道から際にそれて深い谷に入っていったところに潜んでいるため、そうしたところにわなをしかけて、メンバーは一人一日50個から60個点検してきた。
「これですね」と園山さんが語った視線の先に、エサのついていない状態のわながあった。数カ月前に最後の点検が終わって、何もかからないような状態にしているという。
襲われたのはハブではなく“在来生物”
1979年、猛毒を持つハブを駆除するために約30匹のマングースが奄美大島に放された。
しかし、人間の期待とは裏腹にマングースが襲ったのは、夜行性のハブではなく、国の特別天然記念物で絶滅危惧種のアマミノクロウサギなど奄美の貴重な在来生物だった。
ピーク時にマングースは、島に1万匹ほどいたとみられている。そんなマングースを駆除するために立ち上がった「奄美マングースバスターズ」は、わなの設置やセンサーカメラを使った生息状況の把握など地道な捕獲活動を続けてきた。
その結果、奄美大島では2018年4月、奄美市で捕獲されたのを最後に、6年4カ月の間、マングースの姿は確認されず、環境省の根絶宣言に至った。
現在では、山の中に仕掛けられた約1万8400個のわなの回収が進められている。
園山さんは「マングースのゼロを目指して頑張ってきたので、もちろんうれしいですけど、終わるということですから、それがちょっと寂しいかな」と複雑な心境をのぞかせた。
マングースの捕獲に貢献したのは、わなだけではない。臭いやふんを頼りにマングースを見つける探索犬も活躍してきた。現在、メンバー4人と探索犬4匹がそれぞれペアを組み、奄美大島の山中でマングースがいないか目を光らせている。
特別に、訓練の様子を見せてもらった。マングースの臭いがするあたりで探索犬がせわしなく動きだし、倒木の中の冷凍保存されていたマングースの死骸を発見した。探索犬が大きく吠えて知らせて訓練は終了だ。
探索犬チームのリーダー・真島吾郎さんは、「もしマングースがいたら何も対応できなくなるので、いた時にいつでもマングースへの反応がとれるようにするため」と訓練の重要性を強調する。
「バスターズがいなかったら…」
マングースの根絶宣言に特別な思いを持つ関係者がいる。35歳の時に、獣医師から環境省の職員に転職した阿部愼太郎さんだ。
マングースをどうにかしないといけないと思って環境省に転職し、奄美マングースバスターズを立ち上げた阿部さんは、「バスターズがいなかったら今はないと思う」とメンバー1人1人に感謝しているという。
多い時には50人近くいたマングースバスターズも、今では18人だ。メンバーの園山さんは、「人間が持ち込んだモノはきれいに取り除くのが必要だった」とこれまでの活動の意義を認めながらも、マングースがいなくなったことから、次の一歩を見据えていた。
探索犬チームのリーダー・真島吾郎さんは、「世界自然遺産にもなったし、このまま昔からの自然が残ってくれたら」と将来の奄美大島に思いをはせた。
人間の都合で持ち込まれた外来生物。多くの関係者が20年越しで積み重ねてきた努力の先に、マングース根絶宣言がある。しかし、沖縄にはマングースが生息していることから、環境省は奄美大島へのマングースの侵入の監視や、侵入時の初動対応などについて防止計画を作る方針だ。
奄美の希少な生物を守る取り組みは、これからも続く。
(鹿児島テレビ)