配偶者と死別した後に、配偶者の親族との姻族関係を法的に終わらせる、通称「死後離婚」が女性を中心にここ数年で増加傾向にある。簡単な手続きで義理の両親と縁が切れる一方、トラブルも増えているという。ガーディアン法律事務所の園田由佳弁護士に、「死後離婚」が増えている理由と注意点を聞いた。

“扶養義務”から解放

ーー「死後離婚」とは?
死後離婚とは、正式名称は「姻族関係終了届」というもので、配偶者と死別した後に、その配偶者の親族との姻族関係を終わらせる手続きです。法的なメリットとしては、姻族関係終了届を出して姻族関係を終わらせると、義理の両親の“扶養義務”から解放される点が挙げられます。

また、死別した配偶者との関係には一切影響がないので、遺産分割で受け取った遺産を返金したり、遺族年金が受け取れないなどといった問題も一切発生しません。

ガーディアン法律事務所・園田由佳弁護士
ガーディアン法律事務所・園田由佳弁護士
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ーーデメリットは?
法的な観点から見たデメリットはあまりないと思いますが、一度出してしまうと取り消しが効きません。つまり一時の感情で出してしまった後で後悔しても遅いということです。

姻族関係終了届を出しても子どもと義父母の関係性はそのまま
姻族関係終了届を出しても子どもと義父母の関係性はそのまま

例えば、死亡した配偶者との間に子どもがいた場合、子どもは血族なので姻族関係終了届を出しても子どもと義理の両親との関係性には影響は出ません。つまり義理の両親との関係性に悩んで届けを出しても子どもは義理の両親との関係が続いているので、結局子どもを介して自分も引き続き付き合わなければならない状態になり、お互いの感情のもつれが激化してしまうリスクがあります。

また、姻族関係終了届を出したことが義理の両親に伝わった時、それまではお孫さんに優しく接してくれていた態度が一変し、子どもが傷ついてしまうこともあるので、手続きを行ったことを後悔する人が一定数いるのも事実です。

義理の両親との“価値観”の違い

姻族関係終了届は、2017年度には5000件近くにまで急増し、それ以降も3000件近くを推移している。義理の親との不仲が主な理由で、価値観の違いから感情面が先に立って手続きを取る人が多い印象だと園田弁護士は話す。

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ーーどういった人が手続きをする?
義理の両親や兄弟との関係性を清算したいという人が多数です。昔であれば、結婚は家と家の結びつきのような形で考えられていましたが、今は個人と個人の結びつきといった感覚にシフトしてきています。配偶者とは死別によって関係が終わっているのに、姻族との関係は続いている状態なため、「嫁いできたのだから今後もいろいろやってね」みたいな道義的な話が出てきて、自分の価値観と違い、姻族関係終了届を出す人が多い印象です。

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ーー義理の両親との不仲が一番の要因?
それが強いと思います。不仲で感情的なところが先に立って手続きを取る人が多いと感じます。あとは、いわゆる「墓じまい」みたいな話もよく耳にします。嫁いだ家の墓に入る慣習ではなく、今の若い世代は樹木葬(遺骨を樹木の根元に埋めたり、墓地の石碑の代わりに樹木を植えたりする葬送)など「終わり方を選びたい」といったいろいろな考え方を持っています。

配偶者の一存で提出、義父母への通知なし

死後離婚の手続きは配偶者が亡くなった後ならいつでも可能で、義理の両親の了承は必要ない。また、届けを出したことが通知されることもないため、遺産分割協議などでトラブルになることもあるという。

姻族関係終了届
姻族関係終了届

ーー手続きの流れは?
市役所や役場に置いてあるA4サイズの紙を一枚記入して提出するだけの簡単な手続きです。自分の名前、住所、亡くなった配偶者の名前と本籍地などを書くだけです。姻族関係終了届を出す期限は特に決められていないので、配偶者が亡くなった後、いつでも好きなタイミングで出すことができます。

また、特に誰かの許可が必要なものではないので、残された配偶者の方の一存で決めることができます。提出後は自身の戸籍に姻族関係終了日が記載されるだけで、義父母への通知なども一切行きません。

老後の面倒を約束しながら「死後離婚」でトラブルも
老後の面倒を約束しながら「死後離婚」でトラブルも

ーー一存で提出してトラブルはない?
届けを出しても義父母には通知が行かないので、「姻族関係をやめました」と自分で義父母に伝える必要があり、そこが私としては扱いが難しい制度だと感じています。

また、具体的なケースでは、妻側が義理の両親に対して「ゆくゆくは面倒をみます」とアピールして義父母から早めに生前贈与を受け取っていたにも関わらず、夫が他界してしまうと義父母には伝えずに姻族関係終了届を提出した例があります。今まで財産を渡してきたはずなのに、ある日突然「ただの他人」になっていることを義父母が知り、その後の遺産分割協議が紛糾しました。

(イメージ)
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姻族関係終了届を出しても、義父母とお孫さんは今まで通りの親族の関係が続いていくので、「孫は憎くないけれど、そのバックにいる嫁は憎い」と、関係性が非常にこじれてしまうことがあります。