「死ね」など、SNS上の酷い言葉で、第三者でも心にダメージを受けたり、逆に攻撃的になることがある。チャットで24時間365日、誰でも無料・匿名で相談窓口となっている、NPO法人『あなたのいばしょ』理事長の大空幸星さんに、SNS上の言葉の意味と、誹謗中傷の連鎖の原因について聞いた。

(取材・文/フジテレビアナウンサー 奥寺健)

――「死ね」の書き込みが、自分に向けられたものではなくても、ジワッと心にダメージを感じるのはなぜでしょうか?

SNSは、趣味や主義主張が近い人による小さなコミュニティの集合体です。そこで目にする情報は、自分に近い感覚を持つ人たちが発信したものなので、共感しやすいものが多いです。

その中で「死ね」などの攻撃的な言葉が出てくると、あたかも自分自身に向けられているような錯覚が生まれます。全くの他人ではなく“自分に近い人”が攻撃される構造になっているからでしょう。

カジュアルな「死ね」

ただ、SNS上の文字での「死ね」は、非常にカジュアルに使われる場合もあります。自殺を教唆するようなものではなく、軽い“ツッコミ”としての「死ね」です。

しかし、当事者同士の関係性を踏まえない第三者がそれを受け止めると、それは“本気の”「死ね」になってしまいます。「死ね」という言葉に原因があるのではなく、関係性を欠く中での言葉のやりとりが、本気の「死ね」を生んでしまうのです。

NPO法人「あなたのいばしょ」理事長 大空幸星さん
NPO法人「あなたのいばしょ」理事長 大空幸星さん
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SNS上で交わされる言葉の一つ一つが、カジュアルなものかどうかなかなか、第三者にはわかりません。また、自分に向かってきた矢だと感じ、本気の「死ね」として受け止めてしまうと、今度は「死ね」を書き込んだ人に対し、リベンジ的な攻撃の心理が生まれます。同様の思いを持つ人が複数いれば、「死ね」と書かれた人を庇うための連帯感が生まれ、誹謗中傷の連鎖に繋がるのです。

SNS空間の捉え方の世代による違い

今の子どもたちや若者たちは、生まれた時からSNSもスマホもネットもある。デジタルネイティブの世代です。SNSは彼らにとり日常の延長線の一部です。特殊な空間ではありません。だから、SNS上に書かれた言葉による影響は、対面で面と向かって言われる言葉とそれほど変わらないと思います。対面と非対面の境界線が比較的曖昧なんですね。

しかし、上の世代はそうではない。大人になってからSNSを体験し始めた世代はSNSを特殊空間とみなすわけですね。SNSの認識の違いも、誹謗中傷に繋がりやすいと思います。

誹謗中傷の3類型

誹謗中傷する人の傾向を分けると、

① 誹謗中傷した認識があり、後悔している。

② 誹謗中傷の認識があるが、後悔していない。

③ 誹謗中傷の認識がない。

実は③が圧倒的に多いです。誹謗中傷どころか、アドバイスしてあげた認識を持っています。歪んだ正義感を振りかざし攻撃している加害者の自覚がほとんどなく、「この人の考えを正してあげた方がいい。社会に害があるかもしれないし、本人のためにならない」という、ある種の良心に基づいているだけに、問題に気づかない。そこが難しいところです。

そのような人に「誹謗中傷ダメ絶対!」のようなメッセージは届きません。

そもそも正義感を振りかざす場なのか、そうすべき相手なのかを考えてもらう、”思考プロセス”へのアプローチが必要だと思います。

周囲のサポートの仕方

――仮に子どもが加害者になっていることに気づいた時、周囲の大人ができることは、どんなことでしょうか?

最初のステップは、心の中に後悔や反省の気持ちを持ってもらうことです。なぜダメなのかは、大人として伝えられると思います。

次に孤立させないことです。加害者側が社会的繋がりを認識できる状況を作ること、つまり”味方”になる必要があります。この2段階を踏むことがとても大事です。

責任を追及するのは最初の段階まで。その後は絶対に突き放さず、繋がり続けることです。甘やかすことや要求を呑むこととは違うので勘違いしないでください。孤立させずいつでも話ができる状態を作ることが、大人の役目でしょうね。

――SNSのトラブルに苦しむ子どもの気持ちを捉えるには、どうすればよいでしょうか?

最も大事だと思うのは、”無条件の傾聴”です。専門的トレーニングも経験も限界があります。大人には子どもたちのことはわからない。そんな前提に立って聞いた話のなかに、子どもたちの心の中で実際に起きていることが、ようやく現れてくるのだと思います。
 

大空さんによると『あなたのいばしょ』への子どもからの相談は、大部分がチャットだそうだ。声の調子や顔の表情がわからないやりとりで内面を読み解くのは難しいだろう。

“上の世代”である自分が、デジタルネイティブのネガティブな書き込みに出くわした時、一旦深呼吸し、まず自分の気持ちを落ち着かせることがとても大事だと思った。

奥寺 健
奥寺 健

舞台⇒音楽⇒物理⇒音声⇒アナウンサー こんな志向の中で生きてきました。 スポーツは自然科学と地域文化、報道は社会への還元と考えています。 そして人が好きです。
北海道大学と電気通信大学大学院を経て93年フジテレビ入社 「めざましテレビ」スポーツコーナー、 五輪取材団6回(アトランタ、長野、シドニー、ソルトレイクシティ、アテネ、トリノ) 現在Live News Days、 Live News it、スピードスケート取材・実況(97年~)等担当