8月14日に退陣を表明した岸田総理は、その1週間前の7日に憲法改正の議論加速を党内に指示していた。「BSフジLIVEプライムニュース」では与野党の議員を迎え、国会における改憲論議の現状と課題、そして国民投票に向けた具体的な見通しについて議論した。

国会閉会中の憲法審査会に出席しない立憲民主党

竹俣紅キャスター:
現在、衆参両院の憲法審査会で憲法改正が審査されている。だが6月28日の審査会には立憲民主党・共産党が出席せず、非公式の意見交換会に変更された。委員を務める国民民主党の玉木代表は「出席して反対と言えばいい。非生産的で対立を煽るようなパフォーマンスはプラスにならない」と述べた。なぜ出席しなかったか。

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篠原孝 立憲民主党衆院憲法審査会委員:
幹事の皆さんの判断。閉会中審査は国会対策委員会で話してやるかやらないか決めるが、それをすっ飛ばして急に来ても、という事情があったのでは。また憲法改正の議論はしてもいいがそんなに急いでやる必要はない。なぜ閉会中に行うのか。玉木さんの発言こそパフォーマンスで、こんなふうに言われる筋合いはない。

加藤勝信 自民党衆院憲法審査会幹事:
通常の委員会は本会議で閉会中審査を行うと決めて初めて行えるが、憲法審査会だけはそれを経ずに行える。行う前提で作られている。しかもこれまでに議論を詰めてきており、行うことを前提に議論しておかしくないのでは。

反町理キャスター:
与党が審査を急いでいるパフォーマンスをしているように見えなくもないが、維新から見るとどうか。緊急性・重要性が高い案件か。

片山大介 日本維新の会参院憲法審査会幹事:
南海トラフの地震臨時情報も出たが、議論している内容は南海トラフ地震が来たときなどに本当に選挙ができるのかという大事な話。自衛隊明記の話も、台湾有事が現実味を帯びつつある中で重要。国民の安全を守るための議論は必要。

反町理キャスター:
いわゆる護憲派と言われる党派の動きによって、審議が進んでいないようにも見える。自民党は最終的に憲法改正を発議するときには全会一致、つまり立憲・共産も賛成するような改正案を出したいのか。なぜ立憲・共産の参加を待つのか。

加藤勝信 自民党衆院憲法審査会幹事:
最初から「我々は賛成・あちらは反対」と決めつけるのではなく、議論を重ねていく中で意見が合っていくこともある。場面によって判断すべきことは当然あると思うが。

反町理キャスター:
自民党と立憲・共産の間では、急ぐべきかどうかという感覚が決定的に違うと見える。

篠原孝 立憲民主党衆院憲法審査会委員:
案件による。自衛隊・憲法9条の話ではそうだが、他の問題では折り合える場面はあるだろう。

片山大介 日本維新の会参院憲法審査会幹事:
ならば先日の幹事懇談会に出て、堂々と意見を述べていただきたかった。そして緊急事態条項について合意を得られる可能性が示されれば、どんどん議論していくべき。

竹俣紅キャスター:
8月7日に岸田総理は自民党憲法改正実現本部の会合に出席し「緊急事態条項とあわせて自衛隊明記も国民の判断をいただくことが重要」と発言。議員任期特例の条文化、また自衛隊明記の論点整理に関して8月末を目指すよう議論の加速を指示した。

加藤勝信 自民党衆院憲法審査会幹事:
選挙困難事態における国会機能の維持について取りまとめを行ったメンバーを中心に議論することになると思う。お盆明けの2週間でまとめる方向で努力するのが次の段階。衆議院の憲法審査会などで議論してきた蓄積もあり、それらも含め論点整理をしていきたい。

片山大介 日本維新の会参院憲法審査会幹事:
総理の発言には唐突感があった。言うのなら国会の開会中に言うべきだった。自民党内もどうなっているのかなという感じはする。

篠原孝 立憲民主党衆院憲法審査会委員:
同じく唐突感がある。ただ一点、議員の任期特例などではなく、もっと正面突破でやろうという点は大胆だと思う。成功するとは思わないが。

自民党の掲げる憲法改正4項目、ハードルが低いのは?

竹俣紅キャスター:
自民党が掲げる憲法改正4項目は「自衛隊明記・自衛措置の言及」「緊急事態対応の強化」「参院の合区解消」「教育環境の充実」。

加藤勝信 自民党衆院憲法審査会幹事:
4項目についてはたたき台として出し、それについて議論いただくということだった。どれも我が国が直面する国内外の情勢に鑑みまさに今国民に問うにふさわしいテーマで、優先順位はない。その中で、自衛隊明記の話と緊急事態における選挙困難事態への対応については議論が煮詰まってきたので、条文を作っていけばよい。できているものから進めていくことはあってしかるべき。

竹俣紅キャスター:
自衛隊の明記・自衛措置の言及とは具体的には。

加藤勝信 自民党衆院憲法審査会幹事:
私どものたたき台では「我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する」と言及している。

片山大介 日本維新の会参院憲法審査会幹事:
我々は、自衛措置については憲法に書かず、その都度閣議決定によって見極め解釈していこうという考え。相手にもよる問題で、定義付けをして書き込むのは難しい。

反町理キャスター:
一方で参議院の合区や教育環境の充実といった話について、憲法改正に向けたハードルはどうか。

篠原孝 立憲民主党衆院憲法審査会委員:
低い。

片山大介 日本維新の会参院憲法審査会幹事:
参院の合区解消については、一票の格差に対応するため定数を増やさなければならないので我々は反対。

加藤勝信 自民党衆院憲法審査会幹事:
まず、ハードルの高低でものを決めているわけではない。我々はこの4つが優先だと考えるが、憲法審査会の現場ではこれ以外もやりましょうと申し上げている。熟度が出てきたものから作業を進めているということ。

篠原孝 立憲民主党衆院憲法審査会委員:
緊急事態というと軍事的な事態の話ばかりになるが、日本の危機は地方の人口減少による過疎化など他にもいっぱいある。地方の声が国会に反映できないことも違う緊急事態。そっちの方がずっとコンセンサスが得られやすいと思う。

加藤勝信 自民党衆院憲法審査会幹事:
参院の合区解消もそんなにハードルの低い話ではないと思う。この話は先に参議院の中で議論していただいてもいいのでは。教育環境についても、今は参議院の別の場で議論されており、それを待ってからということになると思う。

「改正する方がよい」が「急ぐ必要はない」の国民世論

竹俣紅キャスター:
読売新聞の世論調査では、憲法を「改正する方がよい」が63%、朝日新聞でも53%で半数以上。一方、共同通信の世論調査「憲法改正の国会議論を急ぐ必要があるか」という質問には、65%が「ない」と答えた。

加藤勝信 自民党衆院憲法審査会幹事:
その問いの「急ぐ」はどう受け止められているのか。先ほど片山さんがおっしゃったように、南海トラフ地震もいつ来るか。あるいはコロナのような感染症がまた来るかもしれない。安全保障上の緊張も非常に高まっている中、議論していく必要があるという声が反映されているのでは。

反町理キャスター:
危機管理は平時にやるから危機管理なのであり、有事になってからでは遅い。自分たちで数字を出しておきながら何だが、急いでやるべきかという議論は憲法とは関係ないのではと思うが。

加藤勝信 自民党衆院憲法審査会幹事:
そうしたときに慌てて対応しようとすると、超法規的な措置をとることになる。そうならないように平時からしっかりやっていくことは必要。

篠原孝 立憲民主党衆院憲法審査会委員:
ロシアのウクライナ侵攻があり、台湾有事も言われている。北朝鮮はやたらミサイルを撃つ。国民は不安に思い、ちゃんと認識している。一方、敵基地攻撃能力を持つことで専守防衛が崩されることも不安に思っている。憲法改正がどんどん進められたりしたらどうなるんだという思いもあり、国民は正直に答えていると思う。

片山大介 日本維新の会参院憲法審査会幹事:
緊急事態条項については、これだけ議論が尽くされていることを考えればやはり行うべきで、そこを国民の皆さんに知っていただく必要がある。憲法審査会を予算委員会のようにテレビで放送したほうがいい。

竹俣紅キャスター:
主な政党の、憲法への自衛隊明記に対する考え方。自民・公明・維新・国民は原則必要だと考えているが、立憲・共産は反対。

片山大介 日本維新の会参院憲法審査会幹事:
有事の際に自衛隊は国民の生命・財産を守るために活動するのに、憲法上は違憲という声が出ている。憲法上の地位をきちんと与えなければ。

篠原孝 立憲民主党衆院憲法審査会委員:
必要最小限度の自衛権については認めるという最高裁判決が出ている。明記されていた方がすっきりすると思うが、そんなことをしなくてもやってこられている。警察も消防も国民の命を守るが、自衛隊だけ特記するのか。戦前には陸軍・海軍が暴走した。

加藤勝信 自民党衆院憲法審査会幹事:
経済安全保障、エネルギー安全保障、食料安全保障など様々な安全保障が必要。ただ誰が国を守るのかは本来憲法の最初に書くべきところ、占領下で憲法が作られたこともあると思うが、明記されないまま来ている。国防の基本的な考え方、誰がそれを担うのか、そこをどう文民統制するのかきちんと書く必要がある。また有事の際に自衛隊の皆さんが誇りを持って対応いただける環境を作ることは私達の責務。
(「BSフジLIVEプライムニュース」8月13日放送)